晩餐
清乃は不機嫌なまま、アッシュデールでの最後の晩餐を迎えた。
その夜は小さな食堂に全員が入りきらなかったため、晩餐会場のひとつに案内された。
メンバーは杉田姉弟、ジェニファーを除く王家の人々、カタリナ。
あとは、最初から最後まで清乃の味方でいてくれた七人の少年たち。彼らはその胸に、夜会の後清乃が配った花を飾って列席した。
コース料理は疲れるから嫌だ。少年たちと気軽に楽しく食べられる物じゃなきゃ参加しない。
帰国するまで好きなように過ごすことに決めた清乃の要求は、すぐに通った。
ナイフは一応用意されてはいるが、必要なかった。ステーキも魚も、ひと口サイズに切って出された。
お子様ランチじゃないんだからここまでしてもらわなくても、と思ったが、食べやすいのは確かだから黙って食べた。
箸も用意されたから、清乃と誠吾は開き直って日本にいるときと同じように食事をした。当然のように少年たちが真似をしたがり、下手くそな箸使いで笑いながら食べていた。
食後のデザートにはホイップクリームとアイスクリームを添えたアップルシュトゥルーデルが出た。美味しかった。思わずニヤけてしまった。
それを見て自分のぶんを半分ほど食べた後、これも食べていいよ、と皿を滑らしてきたユリウスには、学習しろ! とどやしつけて皿を押し返しておいた。
今更少しくらい変わらなくない? ってやっぱり王子様もアホの一味だった。
普段上品な食事風景しか見ていないだろう親世代の四人も、その日は寛いだ服装で若者の食べっぷりを見ながら笑っている。
別に王様たち無理にご一緒されなくても、と清乃は最初尻込みした。
キヨと和解できたって実感したいんだろ頼むよ、とユリウスに言われたために渋々この場に座っている。
変な国。
黙って口をもぐもぐしながら、清乃は思った。
ユリウスと眼が合うと、彼は楽しそうな笑顔を見せた。キラキラしている。
変な王族。
超能力とか魔女とか亡霊とか意味分かんない。
何世紀もの間、このひとたちは自国の中に怖いモノを閉じ込め、他国の人々を守ってきたのだ。
それがどれだけ大変なことか、清乃には想像もできない。
彼らは大変な使命感を持ち、我が子にも同じ使命を課し生きているのだ。
そんな重いものを抱えて、こんな軽やかに綺麗な笑顔をつくれるのは何故だろう。
強いひとだからか。優しいひとだからか。
ああ、それともこれも遺伝か。
魔女ではなくもうひとつ、彼らが誇る騎士の遺伝子。
まずいな。武士に勝ち目はあるのか?
少年たちの中に混ざって何やら楽しく盛り上がっている弟は、いつも通りのアホっぷりだ。
うん。勝てそうにないな。
まあいい。
争わなければ負けることはない。
戦いは浅慮な奴がすることだ。戦わずして勝つのが最善だ。
そう考えてみれば、魔女の生存戦略は素晴らしい。無駄に争うのではなく、血脈を拡げ人類みな兄弟になろうとしている。
ある意味非常に女性的で平和的な思考だ。
現代の魔女は美女だし。
もうひとりの美少女魔女は今頃お仕置き中らしいが。
詳しい内容はあえて聞いていない。アッシュデールに関することは、見ない振り聞こえない振り、をするのが一番だとすでに学習している。
大きな男が九人も全力で彼女に立ち向かい、辛うじて捕獲できたのだ。
そんな魔女にお仕置きって、と考え出すと怖くなる。
未熟な新米魔女。
清乃は彼女と昔の魔女の企みのため、ユリウスの恋の相手に選ばれた。
ひどい見合いだ。事前に釣書くらい寄越しとけと言いたい。
十五の子どもに仕組まれなくても、恋愛くらい自力でできる。多分。
ところでこの子たち、いつまで楽しく騒ぐつもりだろう。国のトップの前でよくやるな。
思いながら見ていたら、清乃と誠吾以外の全員のグラスの中身がいつの間にか葡萄色に変わっていることにようやく気づいた。
このひとたち、最初は清乃たちに合わせて水飲んでなかったっけ? 我慢できなくなったのか。
そろそろ付き合いきれなくなってきた。
あたしもう部屋に戻っていいかな、とユリウスに小声で言ったら、彼はさりげなく立ち上がり目立たないように晩餐会場から連れ出してくれた。
もちろんみんな気づいていただろうが、注目されることなく退室することができた。
「疲れた?」
「うん、気疲れ。楽しそうだね、とは思うけどやっぱり馴染めないや」
少年たちに感謝の気持ちを表したくて一緒に食事を、と希望したのだが、慣れないことはするものではない。
「合コンみたいなものか」
「そうかも。大勢で楽しく騒ぐの苦手」
誠吾は楽しそうだった。彼は清乃とは色々違うのだ。
「日本では合コン以外、どこで恋人を見つけてくるんだ」
「さあ? 目の前に王子様が降ってくる確率なんて、二十万分の一だしね」
「数字が変わったな。三階くらいの高さから降ってきてみようか」
「例の白馬に乗って?」
似合い過ぎて逆にシュールだ。
空飛ぶ馬ってペガサスか。うん。ほぼコントだな。
「……一頭くらいならなんとか。練習しとく」
「マジメに検討しなくていい。もうアッシュデールに来ることはないだろうし」
清乃がさらっと言った言葉に、ユリウスもあっさり頷いた。
「そうだな」
「うん」
「ところでキヨ」
「ん?」
「今日が最後の夜になるけど、怪談話どうする? 今からやる?」
「幽霊はもう生……ナマって言い方おかしいか、本物見ちゃったからもうお腹いっぱい……」




