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理由

【うん。君ね、微弱ではあるがESP保持者だ。わずかにPKの能力も確認された】


 国王が開口一番にそう告げた。

 聞き間違いかな。そう思った、思いたかった清乃は壁側のユリウスを見た。

「…………ごめん、ユリウス。通訳して」

「キヨはサイキックだ。そういう結果が出た」

「何言ってんの」

 清乃は笑い飛ばそうとしたが、その場の誰も笑っていなかった。美形ばかりが揃って怖い顔をしないで欲しい。


【君がフェリクスにしたこと。理論上はあり得ないことではないのかもしれないが、そう簡単に成功するものじゃない】

 フェリクスめ、もしくはユリウス、バラしたな。それでテストを受けさせられたのか。

【そんなこと言われましても】

【もちろん我が国とは無関係な超能力者も、世界には多数存在している。だがキヨ、我々はこれを偶然で片付けていいとは思っていない】

 超能力大国の王子が偶然跳んだ先にいたのが、超能力の因子を持つ女だった。

 それがどのくらいの確率で起こることなのかは知らないが、偶然でなければなんだというのだ。

 必然? 故意? 綺麗な言葉で運命としておくか。

 よし、話はこれでおしまい。締めに入ろう。

【…………微弱なら生活に支障はないのでは。今回は聞かなかったことにして、私はこれからも一般人として生きていきます】

 ダヴィドの真剣な顔に気圧されながらも、清乃はそう主張した。

 本人に自覚が無く、周囲も気づいていないのであれば、そんな能力の存在は無視したって問題ないはずだ。


「キヨ。セイには同じ結果は出なかった。あなたにだけ、無視できない数値が出たんだ」

 遺伝を疑われた? 日本にも魔女の血統があるのかと?

 エルヴィラが清乃の手を優しく握る。

【キヨ。不快かもしれないけれど、大事なことだから教えてちょうだい】

 王妃もことさらゆっくりと、穏やかな喋り方をする。

 なんだこの空気。

 清乃がきょとんとしていると、国王が息子と甥とを指差した。

 糾弾されるような絵面になったふたりは、嫌そうにそっぽを向く。

【……合意の有無は問わない。君は、彼らの体液を取り込んだ記憶はあるか】


「えっきもちわる」

 五十代男性の言葉に、清乃は反射的に嫌悪感を露わにした。

【ほら。父さん気持ち悪いって】

【俺はペドフィリアじゃない。何回も言わせるな】

 誰が小児だ。失礼な。

【おまえたちは黙っていろ。若い男の言うことなんか信用できるか】

【自分の若い頃がそうだったからって、息子も一緒だと思うなよ】

「名誉毀損で国王を訴えるのはアリですか」

「よし。弁護士を呼ぼう」

 息子が訴訟準備を手伝ってくれるらしい。心強い。


【ユリウスふざけないで。ねえキヨ、責めているわけじゃないの。貴女は大人の女性なんだから、誰と付き合っても貴女の自由よ。本当のことを教えて欲しいだけ。相手がこのふたりじゃなくても、アッシュデールの人間と関係を持つ機会がなかった?】

 アッシュデールに滞在したこの数日の間にか。いつどのタイミングで、そんな機会が訪れるのだ。そんな器用なことができるなら、清乃はもっと違う人生を歩んでいたはずだ。

「えっ何これ。なんであたしこんなこと訊かれてるの。不愉快です。答えたくありません」

【キヨはそんなひとじゃないって何度も言ってるだろう。それ以上言うなら、オレは今すぐキヨを日本に送ってくる】

 清乃が憤るのと同じくらいの強さで、ユリウスが両親に抗議してくれた。

 エルヴィラも頷く。

【わたしもそれはないと思う】

【それならこの検査結果はどう説明する】

 ダヴィドが持っている用紙は、清乃の血液検査の結果か。健康優良児の血液に何か文句でもあるのか。


「キヨ、あなたの血液に、アッシュデールの人間と同じ傾向が見られた。魔女の血を引く人間は、この数値に異常が見られるんだ」

 エルヴィラが父親から取り上げて示してくれた検査結果の項目は、清乃が見たことのないものだった。

 一般的な健康診断では見ない項目だ。どういった成分なのか、一般人には分からない。

「はあ」

 異常値が出たと言われても困る。

 清乃は多分間違いなく育ての両親が実の親だし、その親にもそれぞれ日本人の両親がいる。

 その上の世代は物心つく前に亡くなっているが、あのド田舎に住む祖父母に異国の血を引く先祖がいたとは考えにくい。

「セイには同じ結果は出なかった。あなたにだけだ」

 血筋のセンは薄いと。


「……それで、体液云々の話に」

 後天的なものではないかと疑われた。

「仮定の話だ。不愉快な思いをさせて申し訳ない。そんな仮説が立てられたのにも理由があるんだ。去年の暮にユリウスが跳んだ先が、キヨの家だった理由が分かった」

 清乃はユリウスに視線を投げた。彼はなんとも言えない複雑な表情をしていた。

 彼女の視線に気づいてはいるが、視線を合わせたくない、そんな風に見える。

「理由が、あったんですか」

「ああ。キヨが、小柄で可愛らしい女の子だったからだ」

「……はあ?」

「それもジェニファーの仕業だったんだ」



 ジェニファーは友人の恋を応援するため、ユリウスにも恋人ができればいいと考えた。

 彼女には魔女の亡霊がついている。何かできるはずだ。

 魔女として覚醒したばかりのジェニファーはまだ十五歳。

 幼い頃から身体が弱かった彼女は最近ようやく学校に通えるようになり、念願叶って友人もできた。

 兄の婚約者。将来の義姉だ。

 そんなことは関係なく、彼女たちは親しく語り合う友人関係を築いた。

 ジェニファーは学校生活を楽しみ、初めてできた親友に夢中になった。友情を大切にしたかった。

 親友は婚約者でない男性のことが好きなのだと、ジェニファーにこっそり打ち明けてくれた。

 アリシアは大切な友人だ。幸せになって欲しい。


 ユリウスにも恋人ができれば、みんなが幸せになる。


 未熟な魔女は、何百年も昔に生きていた魔女の亡霊の囁きに取り憑かれた。


 ユリウスが好きになりそうな女の子を探してあげる。遠い異国に住む可愛い女の子。独りで暮らしている寂しい女の子。健康で清い躰の乙女がいい。

 遠い異国の乙女が、美しい王子と出逢って恋をしたならば。

 遠い異国に、新しく魔女の居場所ができる。

 ユリウスの恋は、魔女の望みを叶えてくれる。

 ユリウスの恋は、ジェニファーの友人の恋の成就を叶えてくれる。


 それってなんて素敵なこと!



 日本で一人暮らしをしている、ユリウスと年齢が近い女性。

 女子大学生と同数であると仮定しよう。実家から通う学生もいるし、一人暮らしの社会人もいるから、そんなものだろう。

 高三のときの担任が言っていた日本の大学生の人数は、二百数十万人だった。女子学生のほうが少ないから、半分弱の百万人くらいか。

 その中から条件を絞り、清乃に白羽の矢を立てたのか。

 絶対嘘だ。適当に選んだだろう。


「なんだったかな、ユリウス? 小動物系の? 芯が強い女性がいいとか?」

 なんだその条件。欧米人からすれば、日本人の大半が小柄に見えるだろうに。七割とするか、それでも七十万だ。

 芯が強い? よく分からないから半分の三十五万。まだまだ多い。

「……黙れ魔女」

 ユリウスが両手で顔を隠してその場にしゃがみ込んでしまった。羞恥か、憤りか、その両方か。肩が震えている。


「ユリウス、他に条件ないの?」

【キヨそれ、あたしのどこが好きなの、って言ってるようなものだぞ】

「きも」

【おまえが言ったんだろ】

 確かにそういう意味になるかもしれない。迂闊な発言だった。

「じゃあまあ、条件の合う三十五万人の中からなんとなくあたしが選ばれたわけだ。すごい確率。抽選でもした?」

【どこから数字持ってきた】

「なんとなく。ねえ、計画雑過ぎない?」


「わたしもそう思ったんだが。少年たちがキヨはユリウスが好みそうな女性だ、あいつラッキーだったよな、と言っているのを聞いてね。気になってジェニファーに確認したんだ。そうしたらすぐに認めた」

【タイプの女が目の前に現れたら、すぐに盛ると思われてたわけだ】

 壁に寄りかかるフェリクスも呆れている。

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