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交渉成立

 交渉成立。清乃は慰謝されることにした。

「ありがとうフェリクス! あんたのおかげだよ!」

 やっほう、だ。

 万歳したい。要求が通ったなら、過程はどうあれ清乃の勝ちだ!

「じゃあかんしゃしろよ」

「姉ちゃん、そういうのは後からやれ」

「セイはなにもようきゅうしないのか」

「この後で善良な高校生に何を言えってんですか」

「賠償金は誠吾の進学費用になるんだからいいでしょ。私大進学の道を繋いであげたんだよ」

「あざまっす」

【父さんごめん。オレがキヨに図書室の本自由に見ていいって言った】

 その場で平然としているのは、清乃の言動に慣れている若者だけだ。


 文武両道を修め一国を治める壮年の男性が、子どものような外見の女の前で落ち込んでいる。

 ひとり息子が断罪されることを覚悟していた公爵夫妻が見せた感情の動きは少ない。戸惑い、態度を決めかねているのだ。

 王妃が一番冷静だ。苦笑と共に夫の背に手を添えている。

【あれはねえ、このひとがまだ王太子だった頃に自分でドイツまで行ってイベントの列に並んでもらってきたものなの】

【えっそうなんですか? 作者の方どんな感じでした? 写真とか】

【素敵な方だったよ! 後で写真も見せてあげよう】

【やったあ! ありがとうございます!】


 テンションが上がってしまった。大事な話がもうひとつあったのに。

「あ、あと、あともうひとつ。示談の条件が」

「…………ナニ」

 美形おじさまの嫌そうな顔、悪くない。嫌いじゃない。

「これ。なんとかしてください」

 清乃は自分の背後あたりを指差した。

 そこには、黒い(モヤ)がぼやあっと浮いている。

【すまないが管轄外だ。魔女に頼もう】

 国内で起こる出来事に、国王の管轄外とかあるのか。魔女の夢の中は国外? それ無責任じゃないか?


「なんとかってなあにー? キヨ、あたしに何かして欲しいの?」

 靄が喋った。子どもの声だ。

「喋れるのか! 消えて欲しいって言ってんの。くっつくな魔女!」

「ちゃんと綺麗に洗ったのに。洗ったらくっついていいって言ったじゃん」

 マリだ。靄がぼんやりとヒトガタを取り、清乃におぶさるようにまとわりつく。

「言ってない! 何かして欲しいってあんた、何もできない名ばかり魔女のくせに!」



【うわー。懐かれたなあ】

「何それ。完全に憑かれてんじゃん。ドン引きだよ。こっち来んな」

 誠吾が本気で引いた顔で清乃から距離を取る。

「リアルなホラーは嫌! あたし霊感なんてないし! なんとかしてください!」

【大丈夫だ。そいつらは城から出られない。ここを出れば解決する】

【すぐ帰ります。賠償金は振込みでお願いします。示談書、今から速攻で作ってください】


 清乃はすっくと立ち上がり、必要なことだけ言ってしまった。

 その場を立ち去ろうとする背中を、ダヴィドの開き直った笑い声が追う。

【君本当にしっかりしてるなあ。でももう少しだけうちの事情に付き合ってもらえないか】

【お話の続きでしたら、街のカフェで是非。あれなんて名前だっけ、ユリウス。アップル】

【シュトゥルーデルか。ホイップクリーム添えてあるやつ】

【それ。シュトゥルーデル。食べてから帰る】

 魔女の亡霊が地縛霊であるというならば、話は簡単だ。(ここ)から離れればいい。

 そして一生、アッシュデールには近づかない!

【思ってたより余裕ありそうだな。もう少し我慢してくれないか。シュトゥルーデルならすぐに用意させる】

「お菓子あげるって言われてもついて行くなってお母さんが」


【キヨ】

 拒否する姿勢の清乃の傍まで歩いてきた王妃が、優しく口添えする。

 彼女は黒い靄を両手で挟むと、えいっと持ち上げてしまった。

「えーやだー。キヨがいいー」

『キヨは今から大事なお話があるから、あなたはお家に帰りなさい』

『えー』

『キヨを困らせないの。また今度、おばさんと遊びましょう』

『えー……』

 王妃が靄を優しく諭すと、不満気なマリの声が少しずつ小さくなり、靄が消えた。


「おおう。ユリウスのかーちゃんすげえ」

「えっ王妃さまゴーストハンター? すごっかっこいい」

 言葉遣い、もうどうでもいい。どうせ日本語分からないだろうし。

「母さんは魔女じゃないんだけど、何故か魔女の亡霊に好かれるんだ。それでたまに言うことを聞かせられる」

 魔女をふたりも産んだのって、そのせいじゃなかろうか。知らんけど。


【キヨ、貴女には簡単なテストを受けて欲しいの】

【テスト】

 そんなの、大学で受けるものだけで充分なんだけどなあ。

 嫌だな、と思ったが、魔女の亡霊を従える力を持つ王妃に優しく頼まれたら、拒むことはできなかった。



 テスト。

 大丈夫大丈夫。遊びだと思っていいから。集中して、でもリラックスしていいよ〜。

 とか言われたが、幼稚園児じゃないのだ。誤魔化されるか。

 カード当てとかいかにもなことやらせて、どういうつもりだ。サイコロなんか何回振らせるのだ。集中なんかできるか。

「あたしそんな不思議ちゃんじゃないつもりなんだけど。超能力なんかないよ。こんな実験無駄だよ」

 ぶつぶつ文句を言いながらではあるが、ちょっと面白いと思ってしまった清乃は、言われるがまま超能力の有無を調べるテストを真面目に受けた。採血を、と言われたら黙って腕を差し出した。

 ついでに、と別室で誠吾も同様のテストを受けさせられたらしい。



「何も出なかったでしょう。あたし見たまんまの一般人ですよ」

 夕方再び同じ部屋に呼び出された清乃は、うんざり、を隠さなかった。

 その場には国王夫妻が並んでソファに座っていた。その向かいにはエルヴィラ。ユリウス、フェリクスのふたりは何故か壁側に立っている。

 何故座らない、と思いながら、清乃は勧められるままに、にっこり微笑んでくれたエルヴィラの隣に腰を下ろした。

 ひとりで、とのことだったので、誠吾は部屋で留守番だ。

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