表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/96

騎士対魔女

「え、ここ電波あったの?」

「違う。御告げ。telepathy. 普段は非効率だから滅多にやらないが、ここでは精度が上がるから」

 ユリウスは、フェリクスからの通信内容を清乃に告げるべきか迷っている。考える時間を稼ぐために、今する必要のない説明をした。

「フェリクスはなんて?」

 迷っているなら、訊いてあげなきゃ。多分、清乃も聞くべき内容だ。

 迷いながらも、ユリウスは答えた。

「……魔女の襲撃に遭ってる。戻って来るな、と」

「駄目じゃん。ユリウス降ろして。早く行ってあげてよ。あたしはひとりでいても問題なんてないんでしょ。遅くなってもちゃんと後ろからついて行くよ」 


 魔女は清乃がひとりでいても、何もしないはずだ。どこかに跳ばすくらいはするかもしれないけれど。

 彼女たちから、清乃の体に傷を負わせようとか命を奪おうだとかいった意思は、今のところ感じられない。

 無垢な乙女には優しく。

 表現の仕方は気持ち悪いが、マリの言葉は魔女たちが言っていることなのだ。

「どうすべきか迷っているんだ。フェリクスを信じて従うか。キヨをどこかに隠してフェリクスを助けに行くか。キヨと一緒にフェリクスを助けに行くか」


 清乃はフェリクスの助けにはなれない。むしろ足手纏いにしかならない。

 それでも、離れているよりは危険な場所だろうと手の届く距離にいたほうが安全だろうかと、ユリウスは迷っている。

 ユリウスに、清乃のためにフェリクスを見捨てる選択をさせてはいけない。


 ならば二択だ。

 フェリクスを助けに行くユリウスに、清乃がついて行くか行かないか。


「独りで隠れてるほうが怖い。一緒に行くよ。行ってみて、ヤバそうな現場になってたら隠れてるから」

「決断が早い」

「消去法だよ。嫌な選択肢を消しただけ。あたしは走ったほうがいいの? 黙って運ばれるべきなの?」

「走れるか。キヨ」

 清乃は危険な場所でどう振る舞えばいいか分からないから、ユリウスが走れと言うならすぐに走る。

 彼に従うことが、自分の身を護ることに繋がるからだ。

「はい」


「好きだよ」

 今か。それ今言わないと駄目なのか。

 若い子の考えることは分からない。やっぱり日本に帰れたら、頑張って歳上の彼氏を見つけよう。

「あたしもだよ。信じてるから、ちゃんと言うこと聞くから、家に帰してね。みんなで元気に帰ろうね」

「善処する」

「そこははいって言っとけ!」

 仕返しされた。だからそれ、今じゃなきゃ駄目なのか。

「はーい」



 当たり前だが、全力で森を走るユリウスに清乃はついて行くことができない。

 それでもその後ろ姿を完全に見失ってしまう前に、襲撃現場を遠目に確認できた。

「ユリウス! 来るなって言っただろ!」

 フェリクスの怒声が小さく聞こえる。もう少し近づいても大丈夫だろうか。

 状況を把握しておきたい。臨機応変に動けるようにしないと。足手纏いになるのは仕方ないが、邪魔になるのは最小限に留めなくては。

 清乃は木の影から影へ移動しながら、じわじわと戦闘の場に近づいて行った。

 そろりと頭を出して覗き、その瞬間に息が止まりそうになる。


 首が飛んだ! 女の生首! 血飛沫! えっ今生首と眼が合った? うっそ。

 生首は嗤っていた。

 地面に落ちてからも、ソレは楽しそうにケタケタ声をあげている。


 ああ、なんだ。

 フィクションか。それなら大丈夫だ。


 眼前に広がる光景に精神の平衡を保つことはできても、物理攻撃に対抗する手段は持ち合わせていない。

 清乃は木の幹に身体を張り付けるようにして隠れた。

 頭を出して流れ弾を喰らうのはごめんだから、見える範囲と、聞こえる音と声だけで戦況を把握しようと試みる。

 フェリクスの姿が木々の合間に見え隠れする。

 彼は全然知らない人のように見えた。


 鍛えた長身に古の衣装を纏ったフェリクスは、戦場に立つ騎士に見えた。

 時代がかったワンピースの女が騎士に素手で襲い掛かる。

 あれは(にんげん)か? 魔女か。眼球が飛び出しそうなほどに目を見開き、口はあれ、絶対裂けている。巨大な口に騎士を捕らえようとする。

 フェリクスはソレを剣のひと振りで斬り伏せる。


 火を全身にまとわりつかせた魔女が、一緒に炙られようと手を伸ばす。

 もうひとりの騎士、ユリウスが見えた。

 最後尾から指示を出しているのが相応しい高貴な容貌を血で汚した、まだ若すぎる戦士。

 彼は火の粉がフェリクスに届く前に腕を振り、見えない力で魔女ごと炎を退けた。


 上空から襲い来る魔女。地面から生まれ出ずる魔女。ずぶ濡れ。血みどろ。


 妖怪大戦争。

 ではないな。これは魔女が自分の死の再現をしているだけだ。

 魔女裁判。つまり拷問だ。

 苦痛から逃れるために自分は魔女だと自白すれば火炙りにされ、自白しなければそのまま責め殺される。

 魔女裁判にかけられた女性に待つのは死のみであったという。


 彼らは、彼女たちは今、なんのために戦っているのだろう。

 彼女たちはおそらく、足留めのためにフェリクスを襲った。

 彼を、清乃とユリウスの元に行かせないために。


 では今は?

 ふたりがこの場に駆け付けた今、彼女たちが戦う理由などないはずだ。

 そもそもフェリクスを清乃たちから引き離したかったのは何故だ。清乃をマリの元に跳ばした理由は。

 ただの気まぐれ? なんとなくとかふざけんなと言いたいが、どうなのだ。


 ユリウスとフェリクスは今はとにかく、目の前の敵を追い払わなくてはならない。考える余裕などないはずだ。

 だってほら、うわ、火の粉が飛び散っている。綺麗な顔に火傷なんか負わせたら、地球上の女性すべてを敵に回すことになるぞ魔女。


 考えろ。

 非力な清乃がせめて、現状を打破する方法を考えるのだ。

 清乃はそれほど頭の出来が良いわけではない。

 悪いつもりはないが、普通だ。これといった才能があるわけでもない平凡な人間だ。

 そんな彼女ができることといったら、これまでに読んできた本の知識を頭の中から引っ張り出してくることくらいだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ