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説明

 すぐに別の部屋に案内された。

 先ほどよりは装飾が少なく落ち着いた部屋だ。寝台に天蓋も付いていない。高級ホテルのようだ。泊まったことはないから想像だけれど。

 室内にあるのは寝台とソファ、ローテーブル、丸テーブル、書き物机、木製クローゼット。グラスが並んだ棚、テレビボード。

 廊下から部屋に入って右側が誠吾の部屋に続く扉、左側に見える扉はバスルームだろうか。

 弟と扉一枚でしか隔たれていないというのは清乃にとっても心強い。何か怖いことがあったら、廊下に出ることなくふたりで密談することができる。

 清乃と誠吾は少しだけ肩の力を抜いた。


 ふたりの様子を見たユリウスがカタリナを追い出し、誠吾の肩を抱いてソファに座らせた。

 それから彼は室内に入ってすぐに用意されたティーセットで手際よく紅茶を淹れて、清乃と誠吾に振舞ってくれた。

 客室で随分自由に動くなと少し思ったが、まあそんなことは今更だ。

 ほんの三ヶ月前、もっと狭い部屋でふたり暮らしをしていたのだ。室内の様子はまったく違うが、清乃は気を遣わなくていい人間だけになってホッとしていた。

 そこにコンコンコン、とノックの音がして返事をする前に扉が開いた。

「キヨ、きたんだって?」

「フェリクス、……エルヴィラ様、ご無沙汰してます」

 ユリウスと誠吾は顔を向けただけだった。清乃はエルヴィラに駆け寄った。

 相変わらず麗しい。長い巻き毛をひとつにまとめて、開襟シャツにジーンズのラフなスタイルも素敵だった。

「いらっしゃい、キヨと、君がセイゴかな」

「はいっ」

 反射的に立ち上がった誠吾が元気良く返事をする。

「……姉弟で同じ反応をするな」

 労る手を振り払われたユリウスが横を向いて呟いた。


 清乃はエルヴィラからのキスを頬に受けて、同じように返した。ふふ、と微笑んで抱き締められたら夢見心地になって自然に抱擁を返した。

 どうしよう。日本では見つからない恋を見つけてしまったかもしれない。 

「キヨ、うっとりし過ぎだ。オレへの挨拶はいつするんだ」

「もう済ませた」

「顔を掴んだあれのことか」

「ユリウスさんお久しぶりです。お招きいただきありがとうございます」

「どうぞ楽しんで行ってくださいね! くそっ」


 エルヴィラが清乃の肩を抱いたまま歩いて誠吾に手を差し出した。

「初めまして。ユリウスの姉のエルヴィラです」

「初めまして! 杉田誠吾と申します! 姉がお世話になっております!」

 躊躇いなく両手でエルヴィラの手を握った誠吾の度胸は、我が弟ながらなかなかのものだと思う。

「キヨ、ひさしぶり。よくきた」

 頭上から降ってくる手は避けられない。がしがしと頭を撫でられたが、抗議はしなかった。

「フェリクス、連絡ありがとう。困ってたから助かった」

「イイエ。これてよかった。セイもひさしぶり。おおきく……はなってないな」

「まだまだこれからっす」

 美女の登場に日本の男子高生は復活したようだ。

『ちょうどよかった。セイに説明するところだったんだ。ふたりとも一緒に来てくれ』



「えええっと、つまり?」

「簡単に言うと超能力だ。Psychokinesis と extrasensory perception, あと witch」

「仲間外れを当てるクイズか?」

 答えはwitchだ。魔女。

 念力(PK)超感覚(ESP)は超能力。魔女は魔女だ。

 城の中庭である。前庭よりも花壇が少なく、代わりに芝生が敷き詰められている。

 建物の窓から覗いたら簡単に見渡せそうだ。王家の子どもの遊び場だろうか。

 サッカーくらいはできそうなくらい広い。


 ユリウスが右手で左の靴を脱ぐと、誠吾に向かって投げた。

 反射的に受け止めようと構えた誠吾の目の前の空間で、ピタリとスニーカーが静止する。同時にピシリと固まる彼からスニーカーが離れていく。それはのんびりと空中を漂い、持ち主のところまで勝手に帰っていった。

 清乃は弟の背中をぽんぽんと叩いてやった。

 誠吾の正面にフェリクスが立つ。身長差約二十センチ。大人と子どもだ。

【セイ、最近成績上がったんだろ。期末テストで一番良かった点数を思い浮かべてみろ】

【は。はい】

【他のことは考えるなよ。一番強く考えてることだけ当ててやるから】

【えっむずっ】

「当てるなら出発前に食べたご飯にしなよ。誠吾、あれ美味しかったよね」

「う、うん」

 フェリクスが素早く誠吾の額に触れた。

「スシか。こんどたべさせてくれ」

「……!」

「回転するところならいいよ」


 それまで傍観していたエルヴィラが、混乱中の誠吾を見る。

「わたしも何かするか?」

「いえ、結構です! 見た目だけでもう、充分分かります」

「分かるのか」

「美人は大体みんな魔女だって、部活の先輩が!」

「そうか。面白い先輩だな」

 わたしはこれで失礼する、と言ったエルヴィラが空中に浮かんだ。にっこり微笑って清乃と誠吾に手を振り、そのまま二階の窓まで上昇して城内に入ってしまった。


「……一応これ弟だからさ。あんまり虐めないでやってよ」

「荒療治が必要かなと思って。城下(した)では控えてるけど、城内では割りとみんな自由にしてるから。早めに慣れたほうがいい」

「それはあたしも慣れないよ。ここではみんな空飛んでるの? 神出鬼没で、無言で会話して、ポルターガイストが起こってるってこと?」

「そこまでじゃない。ESPはフェリクス、PKはオレが一番強いから。エルヴィラは魔女だからランク外」

「魔女は何人?」

「今はエルヴィラだけ。オレたち三人以外はそこまで強くないから安心して」

 強くないとはどの程度の話なのだろうか。

「さっき車でしてた、teleportation? そんなにできないって話じゃなかったっけ。気軽にしてるように見えたけど」

「帰って来てから、実験を兼ねて特訓したんだ。どういう条件下で跳んでしまうのか、解明する必要があるって」

 国営の研究機関があるという話だった。他国の研究所へ資料提供しているとも言っていた。

 イギリスにある、かの有名な団体とも関わりがあるのだろうか。後で訊いてみよう。

「……へえぇ」

 何か考えているのか、もしくは考えまいとしているのか、誠吾が額に手を当てて適当な返事をする。

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