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発見

(……あれ。なんだこれ)

 誠吾は昔の姉のことばかり思い出している自分に気づいた。

 まさかこれが虫の知らせってやつか。

 走馬灯は自分が死ぬ前に見るやつか。それならこれはなんだ。

 姉がピンチなのは理解した。が、まさか死ぬわけじゃないだろう。武家の女でもあるまいし、辱めを受けるくらいなら、とかヤメロよまじで。

 似合わねえし、あとちょっとで可愛い弟が助けに行くから。

 死ぬほど辛い思いをしてるなら、この日のためにてめえが鍛えてきた弟が、相手をそれ以上の目に遭わせてやるから。

 てめえの喉突く簪一本がその手にあれば、無表情で相手の喉笛にブッ刺すのが姉ちゃんだろうが!


      どかん !

「鍵なんか掛けてんじゃねえぞこらムッツリ王子ー!」

 把手を掴んでも扉は動かず、力任せに蹴り付けて誠吾は喚いた。

「帰って来ないから約束どおり迎えに来たぞ! 今すぐ出て来い! 今ならなかったことにしてやる!」

【どけ、セイ!】

 ルカスとジョージがせーので扉に体当たりする。扉がミシリとしなった。

【駄目だこれ外開き! 引かなきゃ開かない!】

【馬鹿、客室の扉がそんなチャチなわけないだろ! 退け馬鹿ども】

 手に針金のようなものを持ったオスカーが鍵穴を覗き込む。

 それどこから取り出した。まさか常に持ち歩いてるのか、オスカー。おまえ何者だ。


【さすがミスター門限破り! 俺一応バルコニーに廻る。ガラスなら割れるだろ】

 ノアとダムが走り出す。

 アレクとロン、ルカスとジョージが左右に分かれて近づいてくる大人の警戒に当たる。

【……セイはここで待機だ。このくらいすぐに開くから。開いたら一番に突っ込め】

【え、でも】

【キヨが脱いでたらどうする。俺たちが見るわけにいかないだろ】

【俺だって見たくねえよ!】

【俺は見たいが我慢する。……よし。行け、セイ!】


 オスカーが躊躇なく扉を開けた。

 背中を押された誠吾は、目をつむって突撃した。

 現実から目を背けるな、誠吾。誠の武士になるとついさっき誓ったばかりだ。杉田家のご先祖さま、多分小作人だけど!

「っ……えっとえっと、失礼(つかまつ)る!」


 覚悟を決めてカッと目を見開くが、恐れていた光景はそこになかった。

「天蓋カーテン! やらしいもん付けてんじゃねえよ! さんざん予告してやったんだからもう開けるぞ、御用改めで御座る!」


 誠吾が電気のスイッチを入れて天蓋にかかったカーテンを一気にかき分けると、中にいたユリウスと目が合った。

 彼はベッドの上に座っており、清乃の黒髪はその腕の中にあった。

 ふたりともに、服を着たままだ。

「間に合ったあ——!」

 誠吾は天を仰いで何かに感謝を捧げた。上がったテンションそのまま、扉の位置から動かないオスカーに声をかける。

「OK, Oscar! No problem! Come here!」

「…………セイ」

 どうしたユリウス、なんだその助かったってカオ。

 まさか姉ちゃん、操られて美少年誘うどころか襲ってたのか。

「とりあえずユリウス、姉ちゃんこっちに寄越せ、って死ぬな——————‼︎」


 ユリウスが抱擁の腕を解くと、清乃がくたりと倒れた。

 誠吾は慌てて姉を受け止めると、その顔を覗きこんだ。

 意識がない? おい嘘だろ、血の気はどこにやった。

「息しろ、童顔チビババア——————‼︎」

「あ、ごめん。酸欠かも」

「酸欠になるまで何しやがったこのムッツリが! 手加減してやれや!」


 安堵と同時に混乱が襲ってきた誠吾の腕の中で、ひゅっと音がした。

「っ姉ちゃん!」

 咳こみながら必死に息を吸う清乃の背中を、誠吾は慌ててさすってやった。

 ひとしきり苦しんだ彼女は、息を整えて一番はじめに弟の胸倉を掴んだ。

「……だ、れがなんだって?」

 聞こえてたのか。

「姉上がご無事で安心いたしました」

「ごめん、キヨ。大丈夫?」

 ユリウスが心配して伸ばす手を、清乃は音を立てて叩き落とした。

「殺す気か!」

 激昂したら、咳がぶり返す。


「ごめんって。前に二度と脳は揺らすなって言ってたし、他に方法が」

「あたしちゃんと合図した! タップって降参の意味じゃないの⁉︎」

 姉が元気だ。よいことだ。

「気づかなかった。ごめん」


 誠吾はベッドから降りて、窓の鍵を開けた。隣の部屋から廻ってバルコニーに到着していたノアとダムが雪崩れ込んでくる。

「人ひとり圧迫死させるポテンシャルあるなら、ちゃんとゴリラさんみたいな胸板してなさいよ。そしたらあたし警戒できたから」

 廊下に残っていた連中もひとりふたりと駆け込んできて、最後のルカスが内側から施錠する。

「あ、見る? 最近ちょっと厚くなってきてて」

「見ない。ゴリラになるまでしまっとけ」

 すげえな、さすが姉ちゃん。そんな人類の宝みたいな顔、よく鷲掴みにできるな。引っ掻き傷でも付けて、多額の損害賠償請求されなきゃいいけど。


【なんか期待してたのと違ったな】

 おいノア。それはたとえ思っても、当事者の前で口に出したら駄目なヤツだ。

【エロがない】

 ダムまでもが同意してうなずく。

 彼らは初対面の清乃のために走り回ってくれた。これは安心したがための、当事者を前にしてなきゃ笑える冗談。怒ったら駄目だ。

 誠吾の不快は流すべきだ。

【ねえよ。あの顔よく見ろ。十八禁に十八歳未満(コドモ)が出てきたら興醒めするだろ】


「聞こえてんだよ、リアル十七歳!」

 振り向いた清乃の顔を見て、少年たちが動きを止めた。

 歳上のジャパニーズビューティーてほどでもないが、の正体見たり、だ。

「ディス、イーズ、ハー、アイデンティティ」

「やかましいわ!」

【……大丈夫。可愛い】

【うん。さっきと違う顔だけど、可愛い】

【大丈夫、キヨ。スッピンのほうが若いって、多分羨ましがられるやつ】

「やかましい散れガキども」

 低い声で言った清乃は、ベッドから降りて長襦袢の襟を正した。ついでにあちこち引っ張ったり押し込んだりして全体を整え、ティーテーブルの椅子に腰掛けた。


 ふぅーーと長く息を吐く様子に、姉は今落ち着こうとしている最中なのだと誠吾は気づいた。

 つまり今、彼女は動揺している。

『全員集合』

 ユリウスが誠吾たちに分からない言語を口にすると、アッシュデールの少年たちが素早くベッドの周りに集まった。

『緊急事態か』

 秘密のミーティングか。

 目の前で堂々とやるなと言いたいが、今は仕方ない。誠吾たち部外者は黙っているしかない。


『は。おそらく魔女が悪さを』

『……キヨに、日本でオレの子を、というやつか。……魔女長が言っていたのは本当だったか。もっと気をつけるべきだったな』

『よく、お気づきで』

『彼女はあんなことをするひとじゃない。それくらい分かる』

『……あんなこと』


 彼らは直立し、誰も動いていなかった。

 なのに、突然ノアが音を立てて床に膝を突き、更に手を付いて震え出した。

 誠吾と清乃は驚いて駆け寄りかけるが、一番端に立つロンに片手を挙げる動作で制止された。

 ノアの体勢は不自然だ。ユリウスは彼を冷たい眼で見据えている。

『おまえはさっきも何か言っていたな。俺の恩人の尊厳を傷付けるつもりなら、今すぐこの場を去れ。いいか、今彼女を敬えない人間は必要ない。全員覚えておけ』


 これは、王子の超能力による罰か。

 先ほど誠吾が不快に感じた発言に対し、清乃を大切に想うユリウスが怒りを見せているのだろうか。

 だとしたらユリウス、そこまでやる必要はない。

 姉を大切にしてくれる気持ちは弟として嬉しい。だが、あのときのノアは安心し、軽口で緊張をほぐそうとしただけだ。

『は。申し訳ありません!』

『彼女には謝るな。不快にさせるだけだ。沈黙の中で反省し、行動により贖罪を示せ』

『は』


 ノアが立ち上がり、再び直立の姿勢に戻る。

 張り詰めた空気はすぐに終わった。

 ユリウスは上に立つ者としてではなく、いつもの同級生としての彼に戻って、ミーティングを続けた。

 誠吾は、黙って何かに耐える表情をしている姉の隣に立ったたまま、知らず止めていた息を吐いた。

「悪い、姉ちゃん。遅くなって」

「……ううん、大丈夫。助かったよ。ありがとう誠吾、来てくれて」

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