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味方

【ロン、おまえは姉ちゃんが味方だと決めた。なら俺はおまえを信じる。あとはダムとアレクだ。武士チームは敵じゃない、ってのが姉ちゃんの判断だ】

【向こうの五人は敵だと言うのか】

【決めかねてる。あいつらは全員超能力持ってんだろ。それってこの城で育ったってことじゃないのか?】

 わざわざ能力者と非能力者とを申告させた清乃の真意はそこにあった。見極める材料にしたかった。

【そう、だけど】

 清乃は超能力者を疑っていた。常人には理解できないことが起こっているのだから、そう考えるのが妥当だと誠吾も思う。

 ひとつの巨大な家族のように育った超能力者集団は、一枚岩に見える。だからとりあえず五人を味方から除外した。


【姉ちゃん、全員いい子たち、って言ってたよ。疑いたくないから、竜の名前に願ったんだ。ユリウスとルカスが除け者になってんのは、王様みたく抜かっただけと思いたいけど。単なる思い付きだったんだろうし】

 会ったばかりの異国の姉弟に、おまえは味方だと信じる、と言われたロンは、戸惑っているように誠吾の眼に映った。

【……セイの話を聞いていると、キヨが魔女のように思えてくるな。昔噺に出てくる人々の味方、賢き人だ】



 周りの人間はみんな小さな清乃の味方をした。

 被害児童はもちろん、その親も、虐めっ子を怖がっていた低学年の子どもも、彼女の腫れた頬を痛々しく見る先生も、誰かが清乃を責めることを許さなかった。

 高学年女子は一致団結し、清乃が復讐されないようにと、虐めっ子を見張るようになった。

 清乃は正しいことをした。

 彼女が糾弾されるのは間違っている。

 そう、周囲の人間に認識させ、味方につけた。

 清乃を中心とする敵対勢力に恐れをなした虐めっ子は、多少大人しくなった。

 被害者は減り、たまに出ても別の子どもたちが見て見ぬフリせず抗議するようになった。あんな小さい女の子が悪を倒した、自分たちも戦えるはずだと、子どもたちが奮い立ったのだ。

 そうなればそれはもう、ひとりの悪者によるイジメではなく、子どもの喧嘩だ。健全なものである。

 学校中の子どもの関係を、清乃の行動が健全なものに変えたのだ。


 清乃はいつも、正しい人間であろうとしている。

 正しい人間であるためには、卑怯な手も使うし時には暴力を行使することも厭わない。

 酔うと子どもに合気道の技を教えたがる酒癖のある父親の相手をすることも嫌がらない。人体の急所大全なんて、あんたこんなもの読んでどうするの、と言われながらも、絶対読みたい、買って買って買って! と母親にせがむことも恥としない。

 彼女は悪を野放しにするのは間違っていると判断した。

 だから悪と戦うことを決意し立ち上がった。

 正しくあるために闘う人間のことを、世間は正義の味方と云うのだ。


 人は、正義の味方の味方になりたがる。

 味方が欲しければ、正義の味方になるのが手っ取り早い方法だ。

 正しい人間で在る。正しく人を信じる。自分は人々(せいぎ)の味方だと、錯覚でもいい、人にそう思わせる。

 それが清乃の闘い方だ。 



【姉ちゃんは普通の人間だ。だから味方が必要なんだ】

【……おれはキヨとセイの味方だ。そうであるよう努力する。向こうのチームも大丈夫、同じ気持ちだ】

 カタリナに配られてすぐズボンの後ろ側に差した警棒の位置を手で確認しながら、ロンは少しずつ足を速めていった。

【信じるぞ】

【ああ。おれたちは元々キヨのことが好きだしな】

【……身内のそういう話、あんま聞きたくないんだけど】

 モテる姉なんかこれまで一度も……いや一度くらいは見たことあるが。姉は異国の歳下男子を複数侍らすような女ではないはずだ。

 おとなしやかな外見に一瞬惹かれる男はいても、ガサツでズボラで無愛想な内面を知ると、一気に冷めるのが一般的な反応だ。

 ルカスを倒した後に顎をそびやかしたドヤ顔を見ている彼らが、清乃を好き? どうかしている。


【騎士道物語、読んだことないのか。騎士は主君の妻にプラトニックな愛を捧げる生き物なんだ。ユリウスが好きになった女性なら、おれたちは命懸けで守らなきゃいけない】

【……ユリウスからもか】

 微妙な顔になりながら、誠吾は小走りになった。

【それがユリウスの気持ちを守ることになるんだろう】

 徐々に歩幅が大きくなっていくロンは、中距離走並みのスピードになる。

【なんかよく分からんがありがとう。でさ、そろそろ訊いていい? 後ろからめっちゃ走って来てるあの人たち、ちゃんと人間なの? まさか魔女の亡霊のお使い?】


 とうとうふたりは全速力になった。

 同じく全力で彼らを追いかけて来るタキシードの中年男性が途中でひとりふたりと脱落していく。

 まさか急性アルコール中毒か。気にはなったが、戻って看病する度胸はない。

 十代男子の脚力に、飲酒後の中年が追いつける道理はないのだ。

 後ろを振り返りながら速度をゆるめたロンが、息を整えながら質問の答えを返す。

【多分両方かな。人間だけど、操られてるかも。話に聞いたことはあるけど、こんなのおれも初めて見た】

【……話って? どんな?】

【満月の夜、魔女の力は増幅する。魔女に魅入られた人間は魔女の手先となり、その願いを叶えるために動く人形となる】

 ゾンビ臭のする話だ。


【えっと、この国で起こる出来事ってファンタジーだと思ってたんだけど、もしかしてパニックホラーだった?】

【エロティックファンタジーに見せかけたサスペンスホラー時々バトルアクション、じゃないかな。スプラッタは無しだと嬉しいなあ】

【クソゲーだな! じゃあやっぱり姉ちゃんがラスボスか!】

【その場合、セイの役どころはなんなの?】

【絶対クリアできないヘボプレイヤーだよ!】

 そもそもウチ、ゲーム買ってもらえない家だったから、ゲーム詳しくないしな! 友達んちでしかやったことない。ほぼ聞き齧りの知識だよチクショウ。いっつも負けて悔しかった。なんで買ってくれなかったんだウチの親。

 おかげでクソゲーじゃなくてもクリアするスキルねえよ。

 一生ラスボス倒せねえ。


【セイの最終目標は打倒キヨか。それならユリウスに攻略される前に見つけなきゃだな】

【おお。そっちのほうがユリウスの手から救い出す、よりやる気出る。さすが頭脳派だな】

【どうも。騒ぎになってる音は聞こえないな。操られてる人間は少ないのかも】

【俺たち以外の全員が操り人形、の可能性は?】

【っ! …………】

 ロンが黙ってしまった。

【……ごめん】

【…………ダムとアレクに電話しよう。合流したほうがいいかもしれない】

 まだ無事だったらな。


 その台詞は口にしてはいけないと、誠吾はきちんと判断できた。

(ホメろよ、姉ちゃん! 俺ちゃんと空気読んでんぞ!)

 泣けと言われれば泣き、空気を読んで真実に口を噤む、姉に忠実な可愛い弟がここにいるぞ。早いところいつものブスくれた顔を見せやがれ。

 いつかぜってえ……多分そのうち倒してやるから、夷狄になんか負けてんじゃねえぞ。

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