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昔噺

「キヨ?」

 がたんと音を立てて清乃が立ち上がると、ユリウスがきょとんとして彼女を見上げた。

「……ユリウス、今何か言った?」

「これ何? って訊いたけど。どうした、やっぱり疲れてる? もう部屋に帰ろうか」

 ユリウスの手には、誠吾が選んだ剣道用の手拭いがある。

「うん……ううん、ごめん。それね、手拭い。誠吾と選んだの。面タオルっていうらしいよ。……ごめん、何か聞こえた気がして。やっぱり疲れちゃったみたい」


「分かった。帰ろう。それ、着物って簡単に羽織れば外を歩いてもいいのかな」

「えっ……」

 帰ろうと言われたら、急に寂しくなってきた。

 明日の夜もう一泊だけしたら、もう帰国する日だ。

 ここは清乃のアパートじゃない。ユリウスはすぐそこに布団を敷いて寝るわけではないのだ。

 巨大な城の、遠く離れた部屋で別々に寝るのは嫌だ。

「キヨ?」

 どうしてユリウスはこんなに訝しげな眼で清乃を見ているのだろう。

 どこか変なのかな。

「まだ読んでもらってないよ。これ全部飲んで、絵本読んでもらってから寝る」

 幼い子が親に甘えるようなことを言った。


 なんか変だな、と自分でも思いながら清乃は椅子に座り直した。グラスに残ったビールの苦味を感じないよう一気に飲み干す。

「大丈夫か」

「うん。また赤くなっちゃったかな。これだけにしとくよ」

「そうしとけ。じゃあこれ読む? 子ども用だからすぐに終わる」

「うん」

 嬉しい。

 清乃は上機嫌でベッドに転がった。


「そこで読むのか」

「うん、あっシーツ洗わなきゃいけなくなるのか。どうしよう。ごめん。洗面台も使っちゃったし」

 与えられた部屋以外の場所で自由に振る舞っていいわけがなかった。

 おかしいな。さっきまでちゃんと気にしていたはずなのに。

 気が緩んでしまっていた。

 慌てて降りようとする清乃を押し留めて、ユリウスも勢いよくベッドに飛び乗った。

「大丈夫。気にしなくていい。オレが連れて来たんだから」

 掃除をするひとの迷惑を考えないのか。考えていたら王子なんてやってられないか。


「……ワガママ王子だ」

「まあね。ほら読むよ。英語でいいんだっけ?」

 うつぶせの姿勢から両肘をついて、ユリウスが読み聞かせの姿勢になった。

 清乃は遠慮がちにベッドに斜めに転がった。頭だけ寄り添って絵本を覗き込む位置で、首から下は少しずつユリウスから離れていく。

 広いベッドだからできるポジション取りだ。

「日本語でお願いします」




 りゅうのきしとおひめさま



 むかしむかし りゅうのようにつよい きしがいました

 かれはきぞくのいえに うまれましたが にばんめにうまれた おとこのこだったため おうさまにつかえる きしになりました

 かれはとてもつよく ゆうかんであるとどうじに とてもやさしく とてもりっぱなきしでした

 きしにあったひとは みんなかれのことを すきになります

 なかまのきしも きんじょのおとなもこどもも もちろんおんなのひとも みんなかれのことがだいすきです


 とてもえらいきぞくのおひめさまも れいがいではありません

 とてもえらいきぞくの とてもきれいなおひめさまは きしとけっこんしたい とおもいました

 おひめさまは それはそれは きれいなおひめさまでしたから きしはよろこんで けっこんしました


 きしには おなじきしのなかまが たくさんいます

 なかでも ひとりのきしとは とてもなかよしで かれもおなじくらい つよくりっぱなきしでした

 ふたりは ごはんをたべるときも からだをきたえるときも てきとたたかうときも いつもいっしょでした

 きしがてきと たたかうときには なかまのきしが かならずかれのせなかを まもってくれます

 そんなりっぱなきしがまもる おうこくにすむひとは みんなしあわせに くらしていました


 しかしあるとき なかまのきしは おうさまをたおし じぶんがおうさまに なってしまいました

 あたらしいおうさまの おきさきさまは まじょだったのです

 あたらしいおうさまは まじょにあやつられ じぶんのおうさまを たおしてしまったのでした


 あたらしいおうさまのくにに たくさんのてきが おしよせます

 きしは たくさんたくさん たたかいました

 かれのなかまも たくさんたくさん たたかいました

 あたらしいおうさまも たくさんたくさん たたかいました

 きしがたたかっていることをしった ともだちの きょじんぞくもやってきて いっしょにたたかいました

 きしとけっこんした おひめさまも がんばりました

 おひめさまは きしのように うまにはのりませんが とてもかしこいひと でしたから みんなにちえを さずけます


 きしは りゅうのように つよかったので りゅうのように たたかいます

 うまにのり やりとけんで てきをおいはらいます

 てきにむけて まっかなほのおを はくことも ありました

 かれが りゅうのように ほうこうすると じめんにあながあき たくさんのてきが あなにおちていきました

 たくさんのてきと たくさんのみかたが しにました

 きしは とてもつよいきしでしたので さいごまで たたかいました


 みんなで ちからをあわせて てきをおいはらったので おうこくは またへいわになりました

 おきさきさまは こころを いれかえて よきまじょとなりました

 よいおきさきさまになったまじょは あたらしいおうさまを たすけてくらします


 きしは とてもきれいな おひめさまと なかよく しあわせにくらしました

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