団体戦
「うん。だからね。あたし武道未経験者だからね」
遊びで誠吾の竹刀を振らせてもらったことはあるが、それだけだ。
「知ってる。蹴りは割りと強いけど」
「運動神経悪いし。足遅いし」
「うん。あのときは、死ぬ気で走ると言ったくせに何をふざけてるんだと思った」
新年早々の誘拐犯からの脱走劇の話か。そんなことを考えていやがったのか。清乃は必死だったのに。
ついでに当時の痛みも思い出せとばかりに左脇腹をつねってやると、ユリウスが笑いながら身をよじって逃げた。
「そこ、いちゃつくな。真剣にやれ。っいて。大丈夫だよ姉ちゃん。平手も拳もそれなりだから」
誠吾が姉にはたかれた頭を押さえながら太鼓判を押す。
「……今からするのって剣道対フェンシングじゃなかったの?」
蹴りも拳も関係ない。
「異種格闘技戦」
誠吾め。何を今更、みたいな顔で言うな。漢字の数増やしてドヤ顔しても、それってただのケンカだろ。
「テンカウントか場外で負け。キヨはなんでも有りだけど、それ以外は金的目潰しのみ禁止。やり過ぎは審判がストップかける。制限時間になったら引き分け。ルールは以上」
ユリウスはもっと賢い子だと思っていた。真顔でルール説明しているが、その内容は無茶苦茶だ。
彼もアホの一味だったか。
「……蹴り上げろって言ってる?」
「できるものならね」
高いところから不敵に笑うな。意地でも蹴ってやりたくなる。後悔するなよ。
「どこの国にも、鈍い人間を揶揄って面白がる奴っているんだね」
清乃は半眼になって嫌味を言うが、ユリウスはそれに天使の笑顔を返した。
「遊ぼうよって言ってるだけ。ブシのほうが強いなら問題ないだろう?」
葡萄畑で捻ってやったことを根に持っていたのか。
まあ試したいこともあったし、久しぶりに弟とバカなことをするのも悪くない。旅の恥はそこらへんに掻き捨てとけばいい。
「…………よし分かった。大人の実力を見せてやろう」
「そうこなくっちゃ」
「言ってろよガキども。【私も参加しますが、条件があります。チームは私に決めさせてください。私の対戦相手は私が指名します。ハンデも追加が欲しいです】」
【オッケー】
言ったなルカス少年。言質は取ったぞ。
【武士チームの「大将」は誠吾です。騎士チームはユリウス? それとも別の一番強いひとにする?】
彼らの実力は知らないが、今日の主役でもある王子をトップとするのが妥当だろう。
【最終戦でセイと当たるって意味だろう。オレでいいよ】
【OK. それから、あなたたちの中のPK保持者、手を挙げてください】
ユリウスと同じような長身痩躯の少年が三人手を挙げた。
【キヨ? もちろんPKは使用禁止だから、それは気にしなくていいよ】
【そうなの? でもまあ一応参考にさせてよ。じゃあジョージと】
【ジョージじゃないけど分かった。こっちはオスカーとノアでいいよ】
発音が難しくて適当に略したら、本人が気を遣ってくれた。いい子たちだ。アホなのがもったいない。
【ありがとう。ジョージ、オスカーとノアね。ESP保持者は誰?】
勝手に肉体派PK保持者だと決めつけていたルカスはフェリクスの仲間だったか。
【じゃあ決まり。騎士チームはユリウスが五番手「大将」、ルカスが三番手の「中堅」ね。ジョージ、オスカーとノアは「先鋒」「次鋒」「副将」からそっちで好きに選んで】
【つまりキヨの相手はルカス?】
ジョージが訝しげに確認する。
小さい清乃が、いかにも強そうな一番大きい少年を指名したのが不思議なのだろう。
【個人の勝ちじゃなく、団体の勝ちを取る作戦か】
こいつはどうせ負けるからと、敢えて強い相手に当てることは高校剣道の世界にもあると、誠吾から聞いたことがある。
ユリウスはそれかと言っているのだ。
【そうかもね】
敵に作戦を教えるわけがないだろう。
清乃はぷい、とユリウスから顔をそむけた。
「姉ちゃん、ラスボスが大将やれよ。俺が副将やって、絶対大将戦まで繋ぐから」
【そう? じゃあ騎士チームもそれでいい? ユリウスが四番手、ルカスが五番手ね】
【いいけど。そっちはそれでいいの?】
大将が負けると決まっている。その場合、前四人にかかるプレッシャーは大きい。
【いいよ。よーし。残り三人は武士チームです。あなたたちは今だけ騎士道精神を忘れて、武士道を貫いてください】
【ブシドーって具体的に?】
名前なんだっけ、この子。誠吾と同じくらい小さいから、一番好感が持てる。
【いい質問です。大事な言葉だから覚えてください。「勝てば官軍」】
しまった。武士道関係なかった。
【いいか。剣道は個人競技だが、団体戦はチーム力が鍵だからな。「先鋒」は勢いが大事だ】
【先陣を切る役だな。士気を上げる役どころか】
少年たちが生き生きしている。
清乃はそのへんはよく分からないから、勝手に盛り上がらせておけばいい。
【それならダムだ。うちの特攻隊長】
【「先鋒」ダム。「次鋒」は冷静な奴が行け。万一「先鋒」がコケても引きずられることなく、流れを立て直せるメンタル強い奴】
【ダムの尻拭いはロンの仕事だろ】
【おい】
清乃は立ち上がって、トレーニングルームというより武道場のような雰囲気の室内にあるホワイトボードに試合表を書いていった。
左寄りに横書きで先鋒、その下に次鋒、と漢字で書いていき、副将の右側には誠吾、とあえて漢字で書いた。
大将 清乃。
キャプテン的なポジションは人生初だ。悪くない。頑張ろう。
【キヨ、オレの名前も漢字で書いて】
「えー?」
無茶振りがきた。
少し考えて、誠吾の文字から間を空けて右寄りにホワイトボードマーカーを走らせる。
百合。似合うからこれでいいだろう。
「ウスは杵と臼のウスでいんじゃね?」
副将 百合臼。
微妙な字面だ。弱そう。でも宇酢としたら餃子を食べたくなりそうだし。臼で正解か。
【オレもカンジがいい!】
言うと思ったよ少年たち。
ルカスは留粕だな。




