異世界転移した先が男しかいない風呂場ってどういう事だ!?
1話読み切りです。よろしくお願いします。
私は鞍橋穂花
30歳。社会人。特に可もなく不可もなく、わたしの半生は幸福であったはず。
最近のへこんだ事は長年、推していたアイドルの活動休止だろうか?あれは衝撃的だった。
だけど、本人の意見を尊重したい。
これまで元気をくれてありがとう、文月コハクくん。
では、現実を見ようか?
私はそっと目を開ける。
そこは慣れ親しんだアパートの部屋、などではない。
もくもくと白い湯気が、立ち込める屋内。
中央に大きな丸いお風呂がある。
そして。成人済であろう男性達が裸でこちらに目線を向けている。
大事な事なのでもう一度言う。
男性達が!!裸で!!こっちを見てる!!
20人くらい居るんですけど!?
「なんで!?」
さっきまで自分の部屋で寛いでいて、ちょっと眠った隙に拐われた?!
いやいや。一般人を拐うとか、そんなにお金ないよ!?
私の家は!
あわわわ。普通に18◯ワールド!?
向こうもざわざわし始めた。あるものは大事な所を隠したり、後ろを向いたりしている。逆に堂々と見せてる人もいるけど、さっさと隠すか風呂場から出てほしい!
私はまた目を閉じることにした。
「お前達、速やかに脱衣場へ行け!」
凛と透き通った声がお風呂場に響く。
さっきまでの騒々しさは無くなり、周りは静かになった。
よ、よかった。
でも。あれだけ騒いでいるのは向こうにとっても想定外なのかな、私がここに居ることは。
だとしたら、これはラノベにありがちな異世界転移って線もあるかなー?しかし、なぜ風呂場だ。
もっとこう。人気の無い荒野とか森の中あるだろうに。
すると、ヒタヒタと近づいて来る音がした。
「すまない、ご令嬢。私の部下が迷惑かけた」
「!!!」
驚愕した。リーダーらしき男性のお顔が破壊力ありすぎた。
肩までの金髪に碧眼。眉は切れ長で目はツリ目の物凄い美形男性が膝をついている。
なんか背後にバラの花が見える。
「あ、だっ……!」
貴方は誰?と言いたかったが、色々と混乱している。
「私はここ、エ-リク王国近衛騎士団団長のシュナイダー・ミトラインと言う。あなたの名前をうかがってもいいだろうか?」
「わ、たしは鞍橋穂花、です」
つっかえたけど、何とか言えた。
ん?エーリク王国?そんな国、あったっけ?
「では、ホノカ嬢。ここでは落ち着かないだろうから、移動しよう」
シュナイダーさんは手を差し出してきた。
「は、はい」
恐る恐る手を乗せると、優しく立ち上がらせてくれた。
「団長、タオルをお持ちしました」
茶色い髪のこれまた美形の男性がタオルをシュナイダーさんに渡す。驚愕しなかったのはシュナイダーさんが桁の違う美形だったからに他ならない。
なんなんだ、ここの偏差値は。おかしすぎる。
「ありがとう、アレックス。ホノカ嬢、これを羽織って置くといい。所々、濡れているようだから、冷えては行けない」
この気配り出来るのすごいな。
絶対、モテるよね、この人。
シュナイダーさんに連れられて、お風呂場を出る。
脱衣場にはもう誰もいない。
扉を開けると通路に出た。
レンガで造られたシンプルな赤茶色の床と壁。
通路は吹抜けになっていて、奥は広場のようだった。
騎士と言っていたから、鍛錬場も兼ねているのだろう。
「こちらへ、どうぞ」
うやうやしく、かつ自然に出された手に自分の手を重ねそうになって引っ込める。
「?どうかなさいましたか?」
どうかしました。慣れない上にイケメンに触れては冷静で居られる自信がない。
しかも、シュナイダーさんは私の好み過ぎる。
「こういうことに慣れていなくて」
「そうでしたか。では、なるべく触れないように気を付けますね」
案内された部屋へ入る。
「奥のクローゼットに着替えが入っています。濡れた服はクローゼット横の籠のなかに入れて置いて下さい。私は外でお待ちします。着替えが終わりましたら、声をかけて下さい」
「わかりました」
奥のクローゼット……。あ、これかな?
思っていたよりも大きなクローゼットを開けると白い服が沢山、入っていた。
真ん中に仕切り板があり、左が『男性用』、右が『女性用』と書いてある。
シャツにスカート、ズボン、ワンピース、靴に下着一式が揃っている。
もしかして、異世界の人間が頻繁に来るのだろうか?
後で聞いてみよう。
よし、ワンピースにしよう。肌触りが良く、ファスナーが無いタイプ。アンダーバスト辺りでリボンを結んである程度のサイズ調整が出来る。
着替え終わったのでシュナイダーさんを呼ぶ。
「終わりました」
「では、失礼します」
いつ用意したのかシュナイダーさんはティーポットが載ったトレーを持って入ってきた。
?さっきのアレックスさんかな??
「紅茶はお好きですか?」
「はい、好きです」
「よかった」
トレーをテーブルに置いて、ソファーに座るようにシュナイダーさんは促した。それから、少し離れた机の引き出しを開けて書類と羽ペンを取り出して私の向かいに座った。
「異世界からの客人が来た場合はまず、こちらの書類を書いてもらう決まりです。」
「?異世界からきた?何故解るのですか?」
書類を受け取る。
「あれだけの人間が居たなか、あなたは突然現れた。出入口は一ヶ所だけにも関わらず。それとここ近年、我が国や周辺諸国で異世界からの客人が増えています。昨年だけで30人が確認されています」
なるほどー。だから、色々と用意してあるのか。
書類の文字が読めるのは転移補正かな?
記入するのは出身地と郵便番号と住所、氏名。
「これでいいですか?」
「ああ、ありがとう」
書類に目を通してシュナイダーさんは言う。
キリッとした顔も素敵だなー。
こういう人って絶対に婚約者いるよね、羨ましい。
それから私は異世界の人が暮らす王宮内の居住区に移動した。ここで一生を暮らすも良し、職を得て出ていくことも出来るらしい。期限はないので、しばらくはこの世界の知識を身に付けようと心に誓った。
◇◇◇◇◇
少しでも早くこの世界の事を知りたくて、気づけば召喚されてから半年が過ぎていた。
4日は勉強して1日休んで、また勉強。
家族や友人が居ない空虚を必死で誤魔化そうとしていた。
でも、元々、知識を得る事は好きだった。
現代と違う点はこの世界は魔法が発達していて、生活魔法が浸透していた。火を起こすには火の魔法が込められた石を使い、洗濯をする時は水と風の魔法の石を使うと言った感じだ。
国は王制。現国王の指名で次の王様が決まるらしい。
次の王様がまだ決まっておらず、王族内はピリピリしていると教師が溢していた。
今日も1日が終わって、私に宛がわれた部屋へ戻る。
ドアノブに一輪の花が赤いリボンで結ばれていた。
私は花に添えられていたメッセージカードを開く。
そこにはいつもと変わらずに
『頑張る君の癒しとなるように。S・M』
アルファベットの頭文字から誰かは丸解りだが、気遣いがとても嬉しかった。
いつからかと言うと、召喚された日から7日経ったくらいから続いている。
だが、忙しいのかタイミングが悪いのか本人は遠目でしか見かけない。
ありがとうと一言、言いたい。でも、お仕事の邪魔はしたくない。どうしたら、いいのだろう?
そんなもやもやを抱えていたある日、チャンスが訪れた。
騎士団宿舎のお風呂の源泉が出なくなったらしい。
私が召喚された場所だ。異世界の客人はこちらの世界に召喚された際、神様から一つだけ祝福で能力を授けられる。
何が言いたいかと言うと、私の能力は源泉の場所が解る。
極めて限定されるものだった。
いや、もっとこうね?手から火の玉が出るとかファンタジーっぽいのが良かったのだけど、今は感謝してるよ、本当に。
「失礼します」
私は深呼吸して目の前の部屋へ入る。ちょっと懐かしい。あの書類を書いた部屋だ。つまりは騎士団の応接室に当たる。
「・・・・・っ」
半年ぶりに近くで見たシュナイダーさんはどこか疲れているように見えたが、イケメンはそれでも美しくて、見惚れてしまう。
「お久し振りです、ホノカ嬢。此度は迷惑をかけますが、よろしくお願います」
「迷惑などではありません。私は貴方に恩があります。これくらいお任せ下さい!」
「ああ、君は本当に・・・いえ、では、行きましょうか?」
言いかけてやめられると気になるけど、今はお風呂だ。
久しぶりにお風呂場に入る。
瞬間、どす黒いモヤが辺りを覆っていて、嫌な汗が噴き出してきた。これは良くないものだ。消さなければ。
「こ、れは・・・」
本能で解る。原因はこのモヤだ。
発生源があるはず。どこ?
「ホノカ嬢?どうした?」
シュナイダーさんは何も感じて無いみたい。私にしか解らない?
目を凝らす。
・・・・・あっ。浴槽のお湯の注ぎ口が特にモヤが集まっているような?
迷っている場合じゃない。とりあえず、触ってみよう!
「えいっ!!」
触った瞬間、黒いモヤは弾けとんだ。
『ぎゃあああーー!?』
何かの断末魔が聞こえたが、それすらキラキラ光る魔力が押し流していく。
光が収まる。
「ホノカ嬢!?今のは一体、何が・・・!」
今まで留まっていたお湯が噴出し、言葉を書き消して私たちに降り注いだ。
びしょ濡れになったのは言うまでもない。
もう笑うしかない。
私は浄化も使えたみたいだ。
◇◇◇◇◇
それから。
騎士団が調べたら、お風呂場には呪いが仕掛けられていたらしい。対象はシュナイダーさん。徐々に衰弱していくもので、手遅れになる前に呪い返し出来たようだ。
また私の能力はまだ発展途上らしくて、これからも増えていくだろうとも言われた。
驚いたことにシュナイダーさんはなんと現王の末の弟に当たるらしい。しかも有力候補。
継承争いで焦った第4王子派のバレーン伯爵が仕出かしたことだと。
バレーン伯爵は呪い返しにあってベッドから起き上がれなくなった。
何はともあれ一件落着と思ったのだけど。
「ホノカ嬢、私と結婚してくれませんか?」
両手一杯に抱えた花束を持ってシュナイダーさんは私の部屋の前で待ち構えていた。
突然の展開に着いていけない。
「あの、シュナイダーさん?どうしたんですか?いきなり」
そりゃ、好みだと思っていたし、多分好き、だとも思う。
でも、ここ半年は何もアプローチは・・・・あっ。
もしかして、あの花?だよね?何か特別な意味があったんだ!?
「伝わって居なかったようですね。毎日、ドアノブに掛けていた花は私のシンボルで赤いリボンで結ぶ意味はあなたと結ばれたい。結婚したいと言う事だったのです。そもそも好きでもない女性に花を贈る習慣はありません」
真剣にシュナイダーさんは見つめて来る。
うっ。やばい。好きだ。今はっきり自覚した。
「じゃあ、なんで、会いに来てくれなかったんですか?」
言葉で伝えられたら、頻繁に会いに来てくれたら気づいたかもしれないのに。
「すみません。王位継承問題が解決しておらず、ホノカ嬢に害が及ぶ危険があったのです」
解っている。きっと色々、考えた結果だって。
シュナイダーさんもとても苦しかったし、もどかしかったんだ。
「私、マナーとか出来ないし、貴族らしくも出来ません」
それでもやはり、もやもやは収まらない。
「それなら心配要りません。私は王位継承権を破棄して臣下に下り、国王に次ぐ一代限りの公爵を賜りました。周りの顔色を気にする必要はないのです」
ずるい。断れないの解ってる。そっちがその気ならこっちにも考えがある。
「だったら、これから毎日、私に愛を囁いて下さい。あなたなしでは居られないくらいに」
「分かりました。覚悟して置いて下さいね?あなたに会えずに居た分、あなたを口説きましょう」
シュナイダーさんの瞳の奥がキラリと光った気がした。
ん?何か蛇に睨まれたカエルにでもなったような悪寒が・・・・。でも、それでもいい。
1日も持たないかも知れないけど私もあなたを知りたいから。
最初はそう、いつ好きになったのか聞いてみようと思う。
END
連載中の作品が早くも煮詰まって来たため、箸休めのつもりで書きました。すみません。