王様ゲーム
「王さまだーれだ!」
「ぼくだ!」
やんごとなき身分の子供たちが集い、遊んでいたのは……王様ゲーム。
王様になったジェームズは、少し考えるととんでもないことを言い出した。
「よし、2ばんと5ばんがうわきして、こんやくしゃにそのすがたを見せつけてやれ!」
「2ばんって」
「おれだな」
「5ばんは」
「ぼくです」
2番の少年はいかにも運動神経に優れた感じの美少年で名をボガード。そして5番はロルフといい、これまた美少年ながら、どちらかというと部屋で大人しく本を読んでいるのが画になる文学少年といった雰囲気の子だ。
「あのー、でんか」
「でんかではない、王である」
「しつれいいたしました。ですが、私とロルフでうわきとおっしゃいいますが……男どうしですよ?」
「かまわぬ。とりあえずイチャイチャしておけばよい」
男同士で浮気? と言われて、ジェームズを除く少年少女たちは何を言っているんだ? と思っていたが、ジェームズがそう言うので仕方なくボガードがロルフに言い寄る真似をする。
「ロルフ、おれはむかしからお前のことが気になってしかたないんだ」
「ダメですよボガードくん……ぼくには心にきめた女が……」
「その女はおれよりお前をあいしているか? だいじに思っているか?」
「……だと思います」
「ちがう! お前のことを一ばんたいせつに思っているのはこのおれだ!」
「ボガードくん……」
2人、というか主にボガードの熱演ではあるが、男同士で薔薇が咲きそうな絵面。その異様な風景に、ボガードの婚約者であるメリッサはドン引きしていた。
「アリアさん、2人を止めませんか?」
「いえ、メリッサさま。これはこれでうるわしゅうございます」
メリッサが目も当てられないと言う一方で、ロルフの婚約者であるアリアは、こんな光景いつまた見ることが出来るか分からないからしばらくそのままでと何故か鼻息が荒い。
「よし、じゃあつぎの王さま決めるぞ」
演技とはいえ気持ち悪いことをしたと思って疑わない2人がゲッソリしていたが、ジェームズは構わず次の王様決めに移る。
「王さまだーれだ!」
「ぼくだ!」
王様に選ばれたのはまたしてもジェームズ。すると今度もまた頭のおかしい命令を下した。
「よし、3ばんは自分のこんやくしゃに力づよくこんやくはきをせん言しろ!」
「は? そんなこと言えませんよ!」
「王さまのめいれいはぜったいだ!」
選ばれた3番のクジを引いたレオンは、仮に遊びだとしても出来ないと首を横に降ったが、この遊びをやると参加したから断るわけにもいかず、自身の婚約者であるメアリに向き合った。
「メ、メアリ……」
「レオンさま……」
「レオンくんのちょっといいとこ見てみたい! それ、はーき! はーき! はーき! はーき!」
泣きそうな顔のメアリと困り顔のレオンをよそに、王様となったジェームズが囃し立て、渋々ではあるが周囲もそれに従っていた。
「メアリ、君とのこんやくを……ダメだ、言えない!」
「いいのか? ここでしたがわなければ君のしゅっせはないぞ!」
「レオンさま、私のことなどお気になさらず。レオンさまはこの国の未来になくてはならぬお人。わたくしごときにまどわされることなく、おのれをつらぬきなさいませ!」
「メアリ……きみとの……こんやくを……は、はきする!」
「それでようございます。レオンさまのしあわせが私のしあわせです」
「メアリ……」
「あれ? なんででしょう。かなしくもないのになみだが……レオンさま……ヒック……おわかれはイヤです〜」
「メアリ〜!」
「よーし、つぎの王さまをきめるぞ」
悲しそうな2人、特に遊びとはいえ聞きたくない言葉を言われてさめざめと泣いていたメアリをレオンがガシッと抱きしめているのを知ってか知らずか、ジェームズは再び王様決めを始めだした。
「王さまだーれだ!」
「ぼくだ!」
「いぎあり! ジェームズさま、おかしいですよ」
再び王様がジェームズに決まったところで、彼の婚約者であるエリザベスが異議を唱えた。
「ベス、なにがふふくなのか」
「まいかいジェームズさまが王さまとはおかしいですよ。ふせいです」
「おかしくないよ。王子であるぼくいがいが『王さまだ!』って言ったら、はんぎゃくざいだよ」
「げんじつのせかいをもちこまないでください! そもそも! このゲームぜんぜんおもしろくないですわ!」
「ベスはおもしろくないのか?」
「あたり前です!」
「そうだ。そう思うのが正解だ」
エリザベスがジェームズのやり方に異議を唱えると、彼はスッと表情を変えて全員を一瞥した。
「メアリ、酷いことを言ってゴメンね。レオンに婚約破棄と言われてどう思った?」
「とてもかなしゅうございました。それいじょうにレオンさまをおしたいしていたのだと思いかえしました」
「だからこそレオンのために身を引く覚悟をしていたのだね」
「メアリ……」
「おはずかしゅうございます……」
「良いことだ。メリッサはどうだ? 婚約者が自分とは別の誰かに懸想したのを見てどう感じた?」
「かなりムカつきました。私いがいの人にうばわれるとは、これほどくつじょくなのかと」
「メリッサ、ゴメン。ヘンなところを見せてしまったな」
「分かってますよボガードさま。これからはよそ見できないくらい私にむき合ってもらいますからね」
「ああ、よそ見はしないよ」
「アリアはどうだ?」
「私は……ロルフさまのああいうすがたも悪くないなと」
「……いいの?」
「でも……できれば私だけを見てほしいかなと……」
「だいじょうぶ! ぼくが好きなのはアリアだけだからね!」
「しんじてますよ、ロルフさま」
「さて、改めて皆に問う」
それぞれがそれぞれの婚約者同士で見つめ合うのを満足そうに見ながら、ジェームズは改めて居住まいを正して皆に問いかけ始めた。
「ロルフ、ボガード、レオン、私の命令を聞いてどう思った」
「あたまがおかしくなったと思いました」
「ちょっとついていけないと感じました」
「めいかくにコロそうと思いました」
三人三様で感想を述べるが、共通するのはジェームズの頭がおかしく、従うに値しない人物だという評価だった。
「だろうな。こんな王に従う家臣などいるわけがない。私も愚かなことだと思う」
「でんか……?」
「でも、ベスはそんな僕をダメだと諌めてくれた。王が道を誤ったとき、諌めてくれる妃はかけがえのない存在だ」
ジェームズのエリザベスを見る目は慈愛に満ちていた。彼もまた、他の男たちと同様婚約者を大切に思う一人なのであった。
「さて、ロルフ、ボガード、レオン。君たちは将来私の側近として働く者だ。今日は訳も分からず言うがままであったが、私が道を間違えたとき、君たちも私を諌める立場になってもらいたいのだ」
「殿下……」
「ああ。もしものときは、だ。もちろん私もそんな愚か者とならないよう、勉学に励むつもりだ。だから君たちにも精進してもらいたいのだ」
「ははっ」
「ごきたいにそうべく」
「えいい努力します」
男子たちの力強い声に満足そうに頷くと、ジェームズは女子たちに向かい声をかけた。
「そして、アリア、メリッサ、メアリ。君たちにも彼らを支えるべく素敵な淑女となってもらうよう期待する」
「かしこまりました」
「おおせのとおりに」
「心までつなぎとめてみせます」
「でんか、もしかして本日王さまゲームをしたのは?」
「多分ベスの思っていることで正解だよ。皆に自身を律すること、そして婚約者を大切にすることを説き、同時に僕自身も身を引き締めるためさ。ベスにはこれからも色々とよろしく頼むよ」
「やり方がきょくたんすぎます」
「ハハッ、でもベスならきっとああやって叱ってくれると思ったのさ」
経緯はともあれ、王子にちゃんと信頼されていたという一言を受けて、エリザベスも悪い気はしない。
「ベスは素敵な王妃になれる。だから僕もそれに見合うだけの力量を持った王になるつもりだ。これからも信じて付いてきてくれるかい?」
「元より私の身はでんかにささげたもの。どこまでも付いていきますわ」
「うん。これで王様ゲームは終了である!」
その後、各自は今まで以上に見を律して勉学に励むようになった。
元々将来の側近として各自の家で期待された子たちであるが、彼ら彼女らがこれまで以上に励むのを見て、親たちは嬉しく思う反面、怪訝に思うこともあった。
「そんなに根を詰めなくても」
「いいえ、でんかをおとめできるのは、この私をおいてほかにいないのです」
「一体何があったのだ?」
「もうなみだは見たくありません」
「殿下がそのような遊びを?」
「このくつじょくを二度とあじわうわけにはいかないのです」
「アリア?」
「ロルフさまがだんしょくに目ざめてはいちだいじ。でもそんなロルフさまもステキでした……」
それから数ヵ月後、ジェームズ付きの側仕えであったとある男爵が、辺境の代官に赴任するという異例の人事があった。
噂では、王子にいかがわしい遊びを教えたとかなんとか……
彼が王都に戻るのは、ジェームズが即位した25年後のことであった……
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