第80話 魔法名は…無い!
「ソフィアさん、日本に…うちに来ないか?」
信之は、ソフィアに提案をした。
「え?日本…?あなた日本人だったの?」
「ああ、俺達は全員日本人だ。」
「でも、私達の国の言葉を綺麗に話せているわよ?」
「それは、スキルのおかげだな。おっと、とりあえずは追いかけてきたヤツらを何とかしないとな。」
信之とソフィアが話していると、追ってきた警察が家の側まで近づいてきていた。
「モンスターども、もう逃げられんぞ!大人しく討伐されるんだな!」
「…モンスターどもって言われてますね、信之兄さん。」
「信にぃは、確かにモンスターのような強さ。あ、モンスター超えてた~。」
「種族は一応、人の域に入ってるよ!?」
「あ、あなたたち、絶体絶命のピンチに良くそんなに楽しめるわね…。」
信之達が少しも焦っていないことにソフィアは呆れる。
「ピンチではないからな。さて、そろそろ動くか。」
「信にぃ、奏がやる~!今日何もやってない!」
奏が元気に手を上げる。
「お、そうか。じゃあ奏に任せようかな!」
「ちょ、ちょっと!この子見た感じまだ子供じゃない!?相手は魔石銃という武器を所持してるのよ!?警察官達はみんなステータスを獲得しているし、危険よ!」
ソフィアは、子供が戦闘を行おうとしている事に驚き、止めようとする。
「ませきじゅう~?」
「…お姉ちゃん、覚えてないの?学校に来たテロリストが使ってた銃だよ。」
全く覚えていない奏に、溜息をつきながら教える蒼汰。
「あれか~!あれくらいならどれだけ持ってきても意味ないよ~。」
「それよりも奏、やり過ぎるなよ。そこだけが心配だ。」
「奏ちゃん、手加減だよっ!」
イリスがそれを言うか?と信之は思ったが何も言わずにおく。
「あなたたち、な、何を言ってるの…?」
子供に戦闘をさせようとし、更には手加減を要求する信之達に、ソフィアは頭が追いつかない。
「大丈夫だよ~!じゃあ、行ってきま~す!」
奏は平然と外へと出ていった。
「おい!白い狐の仮面が出てきたぞ!…小さいな、子供か?」
「子供だろうとモンスターだ!警戒を怠るな!」
「あれぇ?モンスターって信にぃの事じゃないの?間違われてるのかなぁ?」
モンスターは信之の事であって、自分達は普通の人間だと考えている奏は、警察達と認識が合うことはまず無いと言える。
「とりあえずフルートを吹いちゃうと手加減できなそうだから~…。」
フルートを片手に持ちながらどう対処しようか考える奏。
ちなみに、信之達はやりすぎないか心配で、窓に張り付いて奏の行動を注視している。
特に蒼汰は心配しすぎて、既に回復蟲という体力を回復させる蟲を待機させている。
もちろん、警察用にだ。
「とりあえず~、みんな吹き飛ばせばいいんだよね!てぇ~い!」
奏はフルートを持った腕に魔力を込めて腕を大きく振る。
その振りは恐ろしく速く、信之達にしか見えなかった。
腕を振った数秒後に凄まじい威力の風が吹き、警察官達を巻き上げ、吹き飛ばした。
「うわぁああぁあああ~!」
「い、一体何がぁああああ~!」
「た、たすけてぇえええええぇ!」
巻き上げられた警察官達はかなり飛ばされて地面に叩きつけられていた。
しかし、ステータスを獲得している為、死んでいる者は一人もいないようだ。
「終わったかな。奏、うまく手加減ができたな!蒼汰、重傷者だけ最低限回復させておいてくれ。」
「…はい、わかりました。」
「ちょ、ちょっと待って、いったい何の魔法を使ったの!?風の魔法という事はわかったのだけれど…!」
何が起きたのかわからなかったソフィアは、信之のローブを掴んで問う。
「魔法ではなくて腕を振っただけだな。ん?腕に魔力を込めていたから魔法になるのかな…?とりあえず、魔法名は…無い!」
「…風魔法でも無いですよね。属性魔法ではありませんでしたから。」
「そうだな。ただの物理攻撃だったが、直接殴ったわけでもないから…間接的物理魔法?」
奏が知らないところで新たな魔法が生まれたのであった。
「信にぃ、おっきな人達来るよ~。」
奏の新たな魔法について話していると、アドリアン達が家に向かってきた。
「俺らの隙をついてソフィアの家に向かった警察達を追って来たんだが、なにがあったんだ?とてつもない風が吹いていたぞ。」
「まあ、ちょっと警察が邪魔だったから魔法を使ったんだ。」
「まほう~?」
信之は説明するのが面倒だった為魔法と言ったが、奏は魔法を使ったつもりは無いので首を傾げる。
「そうか!すげえ魔法だったな!」
強力な魔法だと思ったアドリアンは興奮を抑えきれない。
「それより、ソフィアさんの事なんだが…警察も動いているし、この国に居続けるのは難しいだろう。」
信之は、ソフィアがこの国に居続けるのが難しいことをアドリアン達に話す。
「…そうだね。恐らく、既にソフィアの情報は国の上層部に伝わっているだろう…。」
エドワードは顔を少し伏せて話すその表情は、とても悔しそうであった。
今まで一緒に探索者のパーティとしてやってきたソフィアが、もうこの国にはいられないからだ。
「ソフィア、ごめんなさい。私達がもっと注意していればこんなことには…」
「モニカ、私も注意が足りなかったのだし気にしないで…。」
モニカと話した後、ソフィアは考える仕草をした。
数秒程考えて信之の方を見る。
「信、あなたの誘いに乗るわ!私を日本へ連れて行って。」