第53回 彼女達の決断
少し長めになってしまいましたがこのお話にて第五章も終わりとなります。
次の第6章もお楽しみに!
翌日、約束通りの時間に皆でギルドにやってくると今日はちょうど入口から入っていくコヨミの背中を見つけたのだった。
「あらお早いお着きね、ますます良い判断だと思うわ。」
「で、今日は俺たちをどこに連れていきたいんだ?」
「まあ今日はお仕事ではありませんので気になさって下さいな、ではこちらに。」
ギルドは本当に待ち合わせに使っただけだったようだ。彼女の後を追って通りに出るとそこにはセルゲイで貴族の悪ガキが乗っていたものとはまた違う雰囲気の魔導馬車が停められており、魔王さまはそれのドアを開いてみせた。
「コレが私の専用車ですわ。ささ、お乗り下さい。」
「わぁ、これが魔道馬車なんだね!わたしたちのとは全然違う。」「そりゃゼロムキャリアーは魔道馬車じゃないからな。」
「コヨミ様が運転なさるのでしょうか?」
「それは当然、今日は私がホストですからね。」
彼女の魔道馬車は俺たちの知る世界での自動車、それもランドクルーザーやバギーといった大型車に近い様相であった。これも稀人の技術を感じるな。
以前に俺が結果的に破壊したものは車輪が細く大きな向かい合わせに乗るタイプの馬車に近かった。
「これは最近帝都で流行っているタイプの魔道馬車、いえ魔道車ですわ。これまでのタイプよりも車輪が太く馬力があり整備されていない郊外を走るのに向いておりますの。では発進しますわよ。」
コヨミはハンドルに備えられた楕円形の魔石に向けて魔力を放射するとエンジンが掛かったようでそのまま発進た。
乗り心地はゼロムキャリアーには負けるが振動も少なくなかなかいい。運転席の横には助手席などは無く、銃弾のような流線型の車体に後部座席が二列広めに作ってあるのでルリコのような大型の体を持つタイプの亜人種と人族三人が乗ろうとまだ余裕があるように思える。それでも最後部のシートはルリコが独占し、中央に俺を挟んでミサキとリリィが腰かけている並びだ。
乗る前に見たが普通の車とは違って車体の前には三角形の泥除けのようなものが付けられていた。あれもオフロードを走らせるための工夫なのだろう。
「おお~ハヤトのやつよりは小さいけど普通の馬車なんかよりは乗り心地いいし快適だぞ!」
「当然ですわ、最新モデルですもの。」
「普段はどうしてるんだ?あの蒸気船に載せてあったようには思えないが。」
「それは当然私の収納魔法に入れてありますわよ?流石にあなた方のとは違いこの子でほぼ埋まってしまいますがね。」
「普通そうだろな、オレのだってこんなでかい車入れたらもう何も入らねぇさ。」
「なので荷物は車に積んだまま収納しておりますの。」
しばらく街道を進んで行くと敷石はまばらになり、土の地面が露出し始め流石に揺れは大きくなる。
それから車内で取り留めのない世間話が続く・・・こうしているとおやっさんの車でドライブに連れて行ってもらったのを思い出すな。
「そろそろ到着しますわよ?気持ち悪くなっていたりしませんか?」
「大丈夫だ。」「最初にご主人様の車を体験しておりますから・・・。」
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そうして到着したのはそれこそルリコが最初にした故郷の話に出てきた情景にぴったりの漁村であった。
バチュラの街からは離れているためかここには観光客の姿はまばらだ。
「あれ、ここって昔のバチュラみたいだ!」
「その通り、ここがクレインさん夫婦の引越し先として私が用意した港町ですわ。」
「マジで!おばちゃんたちここに住んでるのか?」
町の入口には【タラテクト】と書かれた看板がゆらゆらとしている。
町の様子は魔物避けの結界魔法の施された塀に囲まれ、海に面した箇所は小規模ながら港が整備されており漁船がいくつも並んでいる。
中に入っていくとバチュラほどでは無いが町民たちの楽しそうな声で沸き立っており、この時間はちょうど漁から船乗りたちが帰ってきたところだった。
「クレインさんって誰だっけ?」
「元バチュラギルドのギルド長だよ、オレは知ってるけどみんなは会ったこともないから知らなくて当然だな。」
「バチュラに着いた時に聞いた人だったか、確か旦那さんと越して行ったとかいう。」「そうそう!あっ、おっちゃん!」
そう言って駆け出していったルリコの先にいたのは半魚人と例えればわかりやすい魚人族の男だ、彼がルリコのの知り合いなんだろう。
「おっちゃん久しぶり!」
「お?!ルリコでねぇか、しばらく見ねぇうちにでっかくなったな!」
「・・・別に背は伸びてねぇよ、それよりバチュラから引っ越したって聞いてさ!」
「んだんだあっちはりぞぉと?になっちまったからな、合わねぇからクレインと引っ越してきたんだわァ!」
楽しげに話すルリコだが俺はでかくなったなと言った時目線を下に向けたのは見逃していない。
「・・・でな、こんさるたんとの魔王さんが反対してた俺たちに用意したのがこの町ってわけなんさ!」
「ええ、それで良かったのかよ・・・。」
「退去費やら引越しの駄賃もくれたからな!ホントに太っ腹な王様だったわ!」
「・・・そうなのか?」
「もちろんリゾート化に反対していた住民たちも少なくはなかったの、そうした方々と話し合いの結果がこの新しい漁港の併設です。そっくりそのままではありませんけど皆様の意見に従って最近できたばかりなんですのよ。」
「へぇ~地上げとか立ち退きとかじゃなかったんだね。」
「・・・ミサキ様の知識はたまに怖いです。」
それから競りが終わった市場から魚人の男性・・・ダンテさんの家に招かれた俺たちはそこでクレインさんと再開したルリコの姿を見ることになった。
おじさんの時同様に大きくなったわね~と撫でる彼女に笑みを隠せない蜘蛛っ子の顔は忘れられそうにもない。
昼ご飯にまでお呼ばれしたのは言うまでもないだろう。
「やっぱおっちゃんの一夜干しはサイコーだな!すげぇ懐かしい!」
「最近じゃここの魚もバチュラでよく売れよるから食ってねぇ訳ねぇはずだけどな?」
「ご馳走様でした、俺たちまでお呼ばれしてすまない。」
「ええのよ、アンタがルリコちゃんのパーティリーダーなんやろ?昔に比べよお肥えとるもの、よか扱いなんはわかるわ!」
こちらが元ギルド長のクレインさんである。
人魚族らしく前職を引退した今は主婦業と市場の輸出業をしているとの事。
それから夕方までの時間を楽しく過ごした俺たちは二人に別れを告げて来た時同様にコヨミの車でバチュラへの道を戻っていく。
ルリコは沢山お土産に魚の一夜干しを貰ったらしく、腐らないよう俺の次元収納に入れてありご満悦ですやすやと後ろの席で眠っている。
「それで見せたかったというのはあの町のことだったのか?」
「そうですわ、ルリコちゃんは特に町の変貌に良い顔をされてなかったもので。」
「成程、あんたが魔王に向いているのもわかった気がする。」
「そこで厚かましいとは思うのですが一つお願いがありますの。」「なんだ?」
「私をパーティに加えて頂けませんか?」
ルームミラー越しの彼女の目は真剣そのものだ、酔狂で言っているようには見えなかった。
「貴方の魔人姿にとても興味が湧いたのと、これから先もハヤトさん達は旅を続けるのでしょ?それに同行させてもらえれば私の知見も広まって一石二鳥ですわ。」
「ふむ、俺たちのメリットは?」
「しいていえば私の力は戦力になりますわ、これでも魔族として魔法には自信がありますわよ♡」
「まあ断る理由もないからな。」
「また女の子が増えた・・・。」
そうして俺たちのパーティは五人となり、バチュラで一泊した後。
「オレはもちろんハヤトから離れないぞ!!」と宣言したルリコも共に西方大陸へ戻るようだ。
親父さんは寂しそうだったがまたヒナカさんもちゃんとついて行くという条件の元(主に母親が)許可を出したのだった。
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