第27回 ルールから解き放たれた者
緑ある普通の日本から見ればハヤトのいた緑無き日本も異世界なのです。
そうして昇った先の50階層、そこにいたのはパッと見は格闘家にも見える大鬼、オーガがたった一人座り込んでいた。
45階のボスは先手必勝とばかりに俺が変身して倒してしまったので今回は・・・リリィの番である。
『ニンゲンがこの階に来るのも珍しい、わしを倒せたら通してやろう。』
「喋った、お前は亜人種なのか?」
『わしは世捨て人、世間のそういった縛りを疎ましく感じるからこんなところにいる。強きニンゲンよ魔物と思い討伐して見せよ。』
「亜人種のなかにはこういう種族全体が新しい考え方が嫌いでいる人もいるんだ、そういう奴らで人族に敵対したりする連中もいるぞ。」
『わしが求めるは闘争のみ、かかって来ぬならこちらから行くぞ。』
「いいえ、この場はわたくしリリィ・シルバーがお相手いたしましょう!」
『メスだろうと容赦はせん。我が名はゲドン鬼族の長ゲドン・テン!!』
リリィは今回は脱ぐことなく、ロングスカートの留め具のみ外してスリットを解放し収納から篭手と脚甲を装着して一騎打ちに応じた!
「ハヤト、こういう場合支援魔法とかかけたら邪道なのかな。」
「オレとしては攻略中なんだからああいう熱いやつはシカトするんだけど。」
「・・・危なくなったら俺が止めるから、リリィに戦わせてやってくれ。」
「???」
ガィンッ!!!
次の瞬間、両者の拳がぶつかり合い火花が散る。
若干リリィが打ち負けたようにも見え、少し苦い顔をした。
対するゲドンが身につけていたのは漢らしくメリケンサックのようなモノと腰布のみ。笑みを浮かべると素早い蹴りを繰り出すが最も加速するタイミングの前にリリィが蹴り足をはね上げて打ち消す。
そうして一進一退の激しい攻防が続いていくが、彼女のフェイントかとも思われた大振りのミスを奴が突いてきて大きくバランスを崩し後退してしまう。
オーガは追撃せずに彼女が建て直したところで挑発とも取れる笑みを再び見せた、打ってこいと言わんばかりに。
乗ってしまった彼女はよく体重の乗ったストレートを見舞うがやつのガードは崩せずに至る。
「なm・・・甘く見てもらっては困ります!」
『フン、わしは其方の男がかかってきてくれた方が嬉しいのだがなッ!』
「この!」
リリィは手数に任せて次々に拳を繰り出すが悪手とばかりに一蹴される。
そしてまた隙を突くこともせず、次第にゲドンと名乗るオーガは優勢・・・彼女を追い詰める形となっていく。
「ちょっと待った!」
「は、はい!?」
『なんだ人間!水を差すでないぞ。』
「いや違う。ゲドンとか言ったな、なんで本気で闘らない?」
「!?」
「さっきから見てたが攻めるべきところで引いてるだろアンタ、リリィが自分に敵わないと悟って手を抜いたか?」
『クク、貴様やはり侮れんな。お前が戦う気になったか!』
「いや、お前を倒すのはリリィだ。」
「リリィ、【限定解除】真の力を振るうことを許す!!」
「何故それを!?・・・心得た!!」
今度こそメイドドレスを脱ぎ捨てた彼女の左手の奴隷紋が薄くなると黒寄りの青だった髪の色は多少青味が残る銀髪へと変わり、肌の色も褐色に。頭の角は肥大化し背中からは青いドラゴンスケイルの両翼、腰のあたりからは太い尻尾が生えてくる。
手足の装甲の形もそれまでのモノから鋭い爪の生えた殺意の高いものへと変化した。手足の鱗も相まって身体に同化したようにも見える。
まるで【変身】だがこれは彼女の正体である【ブルードラゴンへの変化】だろうな、仮面もつけていないし。
「この姿は・・・ご主人よ、なぜ妾の正体がわかったのだ!?」
「・・・勘さ、昔よく似た女の子に出会ったことがあったんだよ。」
「!!」とミサキは横の俺を見るがそのまま続けた。
「竜人じゃなくて龍そのもの・・・!?」
「有難い・・・これで我が全力を出せるというもの、ゆくぞ鬼の王よ!!妾の名はリリィ・【青龍】・シルバー!」
『手を抜いていたことを謝るぞ龍の娘よ、わしも鬼人として本気をみせようぞ。【鬼】炎万丈!!』
「・・・ダンジョンは壊すなよ二人とも。」
「『はああああああああああ!!!!』」
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そこからの戦いは圧倒的であった。
全力を出したオーガも確かに強かったがリリィに敵うべくもない、すぐに押されていき実力の違いは明白であった。
そして最後に放たれたブレスにより胴体に大穴を開けられゲドンは地に伏し【爆発】したのだった。
「我が主よ、妾は完全に思い出しました。この身は異世界の日本より転生してきた【青龍】でありましたことを。」
「青龍?」
「日本だって!?」
「なんかオレ置いてきぼりだな・・・ニホンってなんだ?」
それから俺とミサキはルリコをなだめながら俺たちが稀人であることをゆっくり説明した、元の世界についてもある程度な。
するとまだドラゴン化したリリィのいた世界と齟齬があることが判明する。
「妾にはその西暦2500年代の日本というものが分からぬ。妾が生きた時代は何年であったかは正確には知らんが少なくともナノマシンとやらは聞いたこともない、そもそも動植物が全滅していたなどにわかには信じられない話だ。」
「そっか、ニホンってたくさんあるんだな。」
「いやそんな訳ー」「そんなわけあるかもな。」
「はい?」「ミサキも【パラレルワールド】の話はきいたことがあるだろう?それは創作のネタかもしれないが。」
「有り得ぬ話でもないであろうな、この世界から見れば日本も異世界。主様のいた日本もまた異なる異世界だったということなのだろう。」
「えっとつまり、リリィちゃんはわたし達とは別の日本から来たってことなのかな??」
「どうやらそのようであるな。」
今まで稀人というのは俺の世界から来たものが全てと思っていたその限りではないのかもしれない。
とりあえずメイド姿に戻ったリリィと一緒にオーガの素材を回収しつつ休憩することにした。
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