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臓器移植

作者: 朝倉ミトン


「気圧、湿度ともに異常なし! 電荷も正常~っと。あとはコネクタが……」


現在、僕の目の前では、助手君がタイムマシンの点検整備を行っている。


タイムマシンといっても、過去と未来を自由に行き来できるような大それたものではない。


コイツに出来ることと言えば、ほんの少しの間だけ、30年後ほどの近い未来を覗いて帰ってくるくらいのものだ。


「点検終了です。この状態なら、問題なくとべるでしょう。」


日が沈み始めたころ、助手君がすべての点検を終えたらしく、そう報告してきた。


それから二人で、日持ちする食料と水、その他タイムトラベルに必要な物資をあらかたマシンに積み、搭乗する。


あらかじめ設置しておいた旗に、ちょうど満月が差し掛かっている。


全て、予定通りだ。


「出発しますよ、博士。」


「あい分かった。」


その言葉と同時に、大きな躯体が振動し始める。


その振動が、座っていたシートを(つた)って僕の体を揺らす。


同時に、被っていたヘルメットがカタカタと音を鳴らして揺れた。


む? このヘルメット、壊れているじゃないか。帰ったらもっと良いやつと交換しないとな。


そんなことを考えている隙にマシンは無事発進したようで、周りの景色がひっきりなしに変り続ける。


タイムトラベルは長い。僕は、ここまでの経緯を思い返していた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


脳死が死亡と同等に扱われ始め早三十年。


依然として反対意見は絶えなかったが、政府はこれを一蹴。臓器移植を大々的に推進し始めた。


今までの遠慮がちだった姿勢は、ゴミ箱かどこかに放り投げてきたのだろうか。


まあ、そのおかげで手術件数も増え、僕の研究が大いに進んだのは記憶に新しい。


そして、研究を始めて二十五年かそこらが経過した。


あれから、研究チームは二回か三回ほど、解散と結成を繰り返したが、そんなことはどうでもいい。


僕は遂にやり遂げたんだ。


世界中の研究者が血眼(ちまなこ)になって開発に挑んでいた中、僕が最初に、たどり着いたんだよ。


完璧な人工臓器の開発という、偉業を成し遂げたのさ。


まさに、金字塔を打ち立てたってやつだね。間違いない。



新たな発明品というのは、医療の分野では特に、実装に移るまで長く時間がかかる。


人々が安価に、そして安心して人工臓器を移植できるようになった時には、僕はすでに死んだ後であろうなんて、考えるまでもなかった。


僕は、救った人々の笑顔を見られないまま、死んでいくんだなって、そう思っていた。


でも、ちょうどその頃だったかな、“簡易的なタイムマシンが発明された”っていう噂を耳にしたのは。


正直、胸が躍ったね。年甲斐もなくはしゃいだものさ。


人工臓器開発で得たカネとかコネを全部使って、まだ公になっていないソイツを、たった一度だけ、特別に使わせてもらえることになった。


人体実験として使われているんだろうなってのは、もちろん分かってるさ。


でも、そんなこと、関係あるもんか。


やっと、ここまで来たんだ。


あぁ、今から待ち遠しくてたまらない。


助かった人々は一体、どんな表情をしているのだろう。


一体、どんな生活をして、どんな幸せを掴んだのだろう。


一体――


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「――! ――せ! 起きてくださいよ、博士!」


んなぁ? どうやら寝てしまっていたようだ……。


「着きましたよ。人工臓器移植をしたと思われる家です。」


「おお! それで!? どうなんだ?」


「あのっ、そのことなんですけど……」


「なんだよ~。ここに来て勿体つけるなよ~。早く見せろって!」


そう言うが早いか、身を乗り出し助手君の背中で隠されている窓に、顔を近づける。






「ちょっとアナタ! 休日だからって、こんな真昼間からお酒飲んで! あら? このにおい……まさか、タバコも吸ったんじゃないでしょうね!? あれほど禁煙するって――」


「あーもう、うるさいな! 別にいいだろう!? 臓器なんて、悪くなりゃ、いつでも新しいのと交換できるんだってーのに……。くそっ!」


「使い捨て」「大量生産・大量消費」これぞ資本主義ですよね。

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