第2話 菅谷おじさんの亀の城に泊めてもらうことになりました!
「で、お主は誰だ?」
そう言えばそうだった。
ボロボロ甲冑おじさんの一人が、なぜか庇ってくれたんだった。
「えっと、僕は、その…」
「まぁ、良い。ひとまず何か着て参れ」
屋敷に案内されて、歴史の資料集で見たような服を着る。
帯の締め方が全然分からないけど、まぁ良いや。そんな着替え中に考える。
「どうしよう。
アレでこの時代に来たっぽい説明したところで、信じてもらえないだろうし…。
さっきは助かったけど、下手をすれば殺される可能でしもあるし。
ううむ…どうしよう…」
映画やドラマで観てきたパターンを思い出そうとするが、なんかイマイチ思い出せない。
「あの設定のやつって、家臣とかになってからが面白いから、その前ってどうでも良いのかな」
とか、脱線している場合じゃない。どうしよう。
「あ、そうだ!」
信長の織田家は、秀吉がそうだけど、身分に関係なく家臣になって出世してったじゃないか。
あと、今年の大河ドラマの主人公の明智光秀だって、
明智家が滅亡した後に紆余曲折して信長の家臣になったらしいじゃないか。
「これだ!」
でも、そんな上手いこといくか…?
部屋を出て、先ほど庇ってくれたおじさんの前に行く。
「で、お主は誰だ?」
「えっと、仕えていた家が滅亡して、それで、織田様の下で働きたいな、と思って、その…」
「そうであったか」
い、いけた!(笑)戦国あるあるなのかな?
続けて、おじさんが質問してくる。
「で、国は何処だ?」
「く、国?え、日本です」
「にほん?大きく出たな。面白いやつだ(笑)」
あ、そうか、国って昔のやつか。
信長は今の愛知県の西側の尾張国の出身で、
家康は愛知県の東側の三河国の出身だもんな。
僕は福井県出身だから…。
「越前国です!」
「え、えちぜん!?また遠くから流れて来たな!」
どうせ信長が滅ぼして制圧するんだから、そんな驚かなくても良いのに(笑)。
っていうか、イントネーションとか違和感あるけど、意外に言葉通じるのな!
「越前というと、朝倉家か?」
あ、まだ滅びてないのか。
ということは、今は1573年より前か。
「あ、ですです」
この庇ってくれたおじさんは、真面目な性格なんだろう。
そこから「具体的に越前のどの辺り出身か」とか「何家に仕えていたのか」とか、
「朝倉家の“そうてき”という武将はやはり凄いのか」みたいなことを色々と聞かれた。
越前の土地勘は全然ないようだったので、適当に近所の地名とか、
友達の名前とかを使ってごまかしたらしのげた。“そうてき”は、ゲームに出てこないので知らん。
このおじさんは勉強熱心でもあるのか「越前の話をもっと聞きたい!」らしく、
何日かおじさんのお城に世話になることになった。
間も無く日が暮れる。
あれ、そういえば、何で庇ってくれたんだろう、このおじさんは。
「初陣がああなってしまっては、まともな分別はつかんだろうから、ひとまず場を収めた」
よく分かんないけど助かった。ありがとう。
歩みを進めていくと、大地の色が変わっていく。なんだこれ。
近づいて行くにつれて分かった。湖だ!琵琶湖だ!
テンションが上がっている僕に、おじさんも嬉しそうだ。
「越前には海があろう」
そんなに驚くもんでもないだろ、とおじさん。
琵琶湖は福井県からも遠くない。車の免許を取った友人に乗せてもらってドライブに何度か行ったりした。
確かにそこまで驚くものではないかもしれないが、これはあの信長の時代の琵琶湖なんだ。
興奮せずにはいられない。
「日が暮れてしまうぞ」
歩き始めたおじさんについて行く。すると、水堀が巡らされたお城に到着した。
城門を2〜3個通ったかな。曲輪ごとに水堀が巡らされている。
「水堀に浮かんでいるような姿ゆえ、亀の城とも呼ばれておる」
このお城の別名らしい。琵琶湖近くに“亀の城”なんて別名のお城があったのかな。
ニワカ勢なので分からない。
トイレなどを案内された後に、このお城の屋敷の一室を貸してもらうことになった。
お城の中心地には、また城門を2〜3個通過しなきゃいけないあたりの曲輪っぽい。
門番?警備員?みたいな人もいる。
まぁ、初対面だし、そりゃ一応警戒するよな。
でも、このおじさんは優しい。
「おー。そうであった。すまぬすまぬ。越前のことばかりで、そなたの名を聞くのを忘れていた」
「あ、えっと、天羽健です」
おじさんは、お屋形様こと織田信長に名前や出自を届けてくれるみたいだ。優しい。
「あ、おじさ、いえ、あなた様のお名前は何というのでしょうか?」
「常陸の当地に来て、儂を知らぬのか。ますますお主は面白いやつじゃ(笑)」
なんかウケた。知らぬよ。
「儂は菅谷左衛門だ」
ちょっとドヤ感出してる。どうしよ、よし。
「あーーーー、あなたが!」
これが大人の対応ってやつか。菅谷さん?満足気で良かった。
そこから一人の時間。出来事が多すぎた1日を整理している。
「いま何年なのか」とか色々と聞きたいけど、不審がられても困るし、会話の節々をヒントに探るしかないのよね。
ひとまず越前の朝倉家が滅ぼされる1573年より前ってことは分かった。
そんでこのお城が“亀の城”の別名があって、琵琶湖の近くに築かれていること。
あとは庇ってくれた優しいおじさんが“菅谷左衛門”って人ってこと。
っていうか、誰やねん!菅谷って!
信長からは相当信頼されてそうだったけど。そんな家臣いたんかな?
あれ、待てよ、信長が同世代っぽいんだから、1573年よりもずっと前に決まってるじゃん!
となると今何年だ?
ん?信長って何年生まれだ?
1560年の「桶狭間の戦い」は信長が20代の時だった気がするから…
もっと勉強しとけば良かったー!
あ!初陣って言ってたじゃん!
初陣って10代でやるって聞いたことあるから、まとめると1550年前後ってことか?
その頃、信長、何やってたんだ?知らねー!
あ、あれあれ、待ってくれ待ってくれ。
そう言えばさっき、菅谷おじさん、“常陸に来て”って言ってなかったか?
「ひ・た・ち ってどこだっけ(笑)」
疲れた。寝よう。