第8話 お前が勇者で良かったよ!
唖然とする住民と兵士、そしてこの街の領主らしき、この綺麗な女性。
「貴方達は、一体この街に、何をしに来たんですか?(怒)」
青筋の浮かんだ綺麗な女が木山を睨む。
「だから、疲れたから休みたいっていってるだろ?頼むよ、そろそろ眠たいんだよ。エルフのねーちゃん」
耳の長いこの綺麗な女性は腕を横に伸ばし、兵士に「持ち場に戻りなさい」と告げ、ため息をつきながら俺らに素っ気ない態度で手をクィクィとしながら、
「サイリアの街へようこそ。私がサイリアよ、迷惑だから着いてきて。」
街の中を歩いていくと中世ヨーロッパのような街並みが広がっていた。あ、武器屋に道具屋、魔道具屋に書店、あっちには市場もあるのか。さっさと着いてきてと言わんばかりに睨まれる。はぁ、こんな筈じゃなかったんだけどな。
「おい、あれは教会か?孝雄の剣のマークと同じだな。つーことは旦那さん達の所か?」
え?なに?エルフの女性がいきなり孝雄を上から下まで見つめていた。
「ちょっとコレどこで盗んだの?というか偽物じゃないの?勇者に憧れて、てっきり偽物と思っていたんだけど?城に着いたら説明してくださいね?」
一段と歩く速度が速くなった。
すると、小規模ながら遠くから見えていたお城の目の前まで到着した。
「私よ、開けなさい。」
ガラガラガラガラ。ゆっくりと跳ね橋が降ろされてきた。
「さ、怪しい君達、まずは休む前に話を聞かせて。」
お城の中を歩いていき、応接室のような部屋へと案内された。
「さ、適当に座って。リリア、皆にお茶の用意を。」
サイリアは円形テーブルの方へ皆を案内させ、自分もその辺の椅子に腰かけた。
「それで?どうしてあんな迷惑なことをしたの?それと、そこの君。君は一体何者?」
木山は悪びれもせず、サイリアの目を見つめて語りかけた。
「街を探す途中、暇だったんで大きな音でも出せば魔物が寄ってくるかなと思ってね(笑)」
頭に手を当てるサイリア。
「あんな轟音たてながら歩いていたら魔物ならドラゴンかと思って誰も寄り付くわけないじゃないの!はぁ、あんた達一体どこから来たのよ全く。。」
孝雄はフックから剣を外し、サイリアに見せるようにしながら尋ねた。
「サイリアさんは、ヴェリトとイリアを知っているんですか?」
ちょうど運ばれてきたお茶を飲むところだったサイリアはお茶を吹きかけた。
「ごほっ、ちょっとあんた!守り神のヴェリト様と女神のイリア様を呼び捨てって、頭大丈夫なの?信仰心の欠片もない感じなのに、勇者の真似してて良いものなの?」
そこで木山が話を聞きながらプフッと笑った。
「ちょっと!真面目な話をしてるのに、何笑っているの!」
「いやぁ、だってさ、なぁ、おんちゃん?(笑)」
俺かよ・・どうして修にフラないんだ?いや、まぁ、俺の方が良いか。言うことは同じだし。
「ヴェリトの旦那さんとイリアの奥さんに世界が崩壊しそうだから救ってくれって昨日の夜に別の場所から、こっちの世界に来たんだよ。最後の守りは、おばあちゃんだったかな。」
サイリアは持っていたティーカップを落とし、ガシャーンと床で割れたが微動だにしない。
「えっ、、世界の崩壊?おばあちゃん?豊穣神オリヴィア様の事?ナニソレ、別の場所?君達、人をバカにするのもいい加減にして!」
修が手を少しだけ上げた。念話でサイリアに話しかけているようなので待っている。
「そ、そんな。それじゃ君達は神の使徒と勇者様ってことじゃない。」
修は口を開いて話し始めた。
「神の使徒じゃなくて俺らは知り合いだよ。勇者は俺らの仲間。んで、どうすれば理解してくれるわけ?」
サイリアは
「今の念話でしょ?コレで理解したわよ。大体念話なんて魔物でもないのに人が使える時点でおかしいもの。ちなみに、この名もなき勇者の剣の名前は知っているの?」
俺は慌てて鑑定をした。
ーーーーー神剣ガラムートーーーーー
タカシ・ヤマオカが古き魔王を討伐した際、使用していた剣。彼が死んだ後、その名称から来る真価の力は未だに使われておらず、剣自体はヴェリト神の手元に置かれていたが、現在タカオ・ババが所有者となる。
「コレは神剣ガラムート。タカシ・ヤマオカが無くなった後は旦那さん、あぁヴェリト神が保管していたそうだ。今はそこのタカオ・ババが所有者だ。」
俺がそういうと、おもむろに光輝く剣をフックにかけ、孝雄はサイリアに言った。
「そろそろ寝かせてくれないか?もう限界なんだ」
サイリアは昔の古い歴史書で読んだ内容がチラチラと出てきたので、コレは本当かもしれないと感じていた。勇者様も本物で多分間違いないだろうと。
「あっ、ごめんなさいね勇者様。皆様の疑いも晴れました。リリア、勇者様と神の使徒様達を客室へご案内して。」
「はい、サイリア様」
やっと、俺らは長かった1日が昼を迎えようとしている今、やっとこさ終われそうだ。長かったなぁ~。
「だから、使徒じゃねぇのに・・・」
ため息を付きながら、後を付いていった。