第2話 個室居酒屋からの何処か
「あん?停電かい?」
剣呑な声で木山は停電でもあったのかと、一瞬で薄暗くなった景色に困惑した。
確かに、座卓も座っている堀ごたつも店の物なんだが、いかんせん明かりがない。わずかに個室ののれんの向こうが薄明るい位だ。んー、停電にしては変な光と音があった気がしたんだが?修は気にせず、
「ま、そのうちどうにかなるんだろ?飲もうぜ!」
『そうだな(笑)』
4人とも、とりあえず飲んでから考えようと結論が出たので、グビグビとビールを体に流し込む。木山が開口一番、
「ふぅ~、うめぇ~~~!」
「だな!」
「あぁ」
「確かに」
再開を祝ったビールは普段苦手な俺でも旨かった。
旨かったんだが、それにしてもいかがわしい店並の暗さで明らかにおかしい上、のれんの向こうに声が残響音と共に消えていくので不思議すぎて理解が追いつかない。コレは不味いと荷物を持って堀ごたつから出て靴を履いて、ジョッキを持った。もう一度言うが、ジョッキを持った。
グオォーン。個室からのれんをくぐった俺達4人を包むように何かが起こったが、それが何か分からないまま、個室から出たので、本当の意味で異世界に来たと気付けたのは、個室から全員出て少ししたタイミングで個室だったものが消えた時だった。
「今更、店内じゃねぇだろうし法律外だろ?一服するわ、おんちゃんも吸うんだろ?」
修はおもむろにジャージの左ポケットからタバコを取り出した。あぁ、と言い俺もジーパンの右ポケットから出して一服しておこう。
カキーン、ボッ。チリチリチリ。ぷはぁ~。
タバコを吸って気が付いた。ここはシャレにならない。まるでテレビで昔見たヨーロッパ方面の宮殿か何かか?皆ライターの火で周りが見えたようだった。
「ちょっと、コレはヤバいんじゃないか?昔行った肝試しとかそういうレベルじゃないぞ、これは」
俺の言葉に答えるように、木山はジョッキ片手に辺りを見回してポツリと言った。
「とりあえず、ビール飲んじゃう?」
皆無言で、ビールを流し込んだ。全く味なんて分からん・・・何かこう、よく分からない時は自分自身もまともではないらしい。おもむろにスマホを取り出し地図アプリでどこにいるのか検索を始めた。
「んー、今俺ら北極に居るらしいぞ?」
『はぁ?嘘だろ?ちょっと俺も見てみっかな』
木山は同じように地図アプリで検索すると、
「いや、ハワイの、、んー結構下の辺りじゃね?」
「待て謙次、俺のは南極だな(笑)なんだコレ?」
冷静な修も困惑顔でスマホを操作していた。そんな状況で孝雄はスマホを見ながら驚いていた。
「WRTRR?WQEEFKHGKXE(あれ?何が書いてあるか読めないぞ?)」
孝雄の声と重なるように、木山が突然ぼんやり明るい方を指差して、
「おぃ、あそこに誰かいるぞ?行ってみるべ!」
宮殿の様なこの空間を恐る恐る歩いていくと、尋常じゃない程、美形の人達が数十人こちらが来るのを待っていたようだ。ジョッキを握る手に力が入る。何せ俺らの武器はコレしかないんだからな(笑)。
夫と思わしき男性の手を握って綺麗な女性が笑顔で口を開いた。
『WQ4DF3DSWEWHHT#GKUYT!(勇者様がこちらに来られるのをお待ちしておりました!)』
凄く満面の笑みであるが、俺達は固まった。孝雄だけが、え?そうなの?という顔をしているが、俺には何を言っているのか分からないので、通じないのを覚悟して俺が話してみるか。
「あのぉ、すいません若奥さん、ここは一体どういった所なんでしょうか?」
『おぉー!それは私達の言葉!(WREET!SPWQ#TYTGG!)』
孝雄が俺達を驚きの目で見ながら、
「RWQW、KGHGF#DGF?(皆何喋ってるの?)」
『えぇ!?孝雄、何語ソレ(笑)』
あぁ、とその女性に肩に手をを回しながらイケメン夫が右手を上げて淡く光った。
「妻が慌てて申し訳ない、私の名前はヴェリト。君達をこの世界に呼んだ者の1人だ。コレで3人には世界語が分かる筈だが、私達の言葉は、勇者には覚えさせることが出来ないようだ。」
そして気付けば周りには、この夫婦に老齢の女性、若い男女数十人が、こちらを見つめていた。