秘密
「さてと…」
俺とベラキサムは裏山に来ていた。木々は悠々と背を伸ばし、澄んだ水が落ち続ける滝が近くにある。とても綺麗なところだ。
「修行するか!ベラキサム!!」
「ぜぇ…ぜぇ…!無茶苦茶しやがって…!!」
ちょっと強引過ぎたかな?
「俺にスキルが目覚めて無いこと…忘れてないよな…?」
「大丈夫、ちゃんと覚えてるって。ベラキサムにはちょっとだけ手伝って貰いたいんだ」
「そ、そうか…なら…いいんだ…げほっ」
ベラキサムは暫く肩で息をしていた。スキルの有無でここまで差が出来てしまうものなのだろうか?
「…ふぅ」
ベラキサムは息を整えて、姿勢を正す。
「んで、手伝って欲しいってなんだよ?」
「悪いね。これを俺に投げて欲しいんだ」
ヒョイッ…
「うおっ!」
パシッ!
「なんだこりゃ…石?」
ベラキサムに渡したのは、拳大くらいの石だ。
「そう。いくら身体能力をスキルの力で上げられるからって、動体視力を鍛えなければいざと言う時にスキルを使いこなせないだろ?」
「あぁ〜、それもそうだな」
「それと、冬の季節の時、雪合戦でベラキサムに勝てなかったことを思い出したんだよ。技術か何かがあるんだろ?」
「ああ。畑仕事の他に、親父は狩りもしたりするからな。それに役立つからって投擲術は一通り教えてもらってるのさ」
「その投擲術があれば、ベラキサムにスキルが無くても俺には十分すぎるくらい強敵になるだろうからな!」
「なるほどな…ふぁぁ…」
ふむ…ベラキサムのやつ、あくびなんてしちゃって。ちょっとやる気を出させてやるか。
「なあベラキサム。お前のさ」
俺は知ってるんだ。ベラキサムのあのことを…
「んあ?」
「ベッドの下に隠されてる、写真の話なんだが」
「!?」
――――――――――――――――――――――――
「今日は何する?ジーニス」
「そうだな〜…」
これは前に遊びに行った時のことだ。
「ベラキサム〜!!茶ぁ煎れるからちょっと手伝ってくれ!!」
「あ〜茶か、わかったよ親父。ちょっと待ってろなジーニス。あ、この部屋には何も隠されてねえから、変なとこ触んじゃねえぞ?」
「わかってるよ。早く手伝ってきてあげなよ」
「………おう」
不安そうに部屋を出て親父さんを手伝いにいくベラキサム。
「さてと…」
ま、あんだけ念を押されたら逆に探さないのは失礼だよね!!
「ここらへんか?それとも…」
ベッドの下はお決まりだよな。
「ここか〜…?お?」
何やら写真がありますねぇ!!
「お、おぉ〜…!!これは中々…!!」
俺はその写真をそっと記憶に焼き付けた。
――――――――――――――――――――――――
「なんでそれを…!!」
「いやぁ〜、スーマさんが入浴してる写真が隠されてたなんてね。わかる、わかるよ〜…!!あの曲線美はベラキサムでさえも敵…うぉっ!!?!」
ビシュッ…
殺意の弾丸が頬を掠める。
「ジーニス…お前…」
ベラキサムがワナワナと怒りに震えている。
「今日がお前の命日だ!!オラオラオラオラァァァ!!!!」
ヒュヒュヒュヒュッ!!!!
「あっぶね!!」
――――――――――――――――――――――――
ジーニスが裏山に走って行った後、クリナは先に家に戻って夕飯の準備を、里長はガルロさんにノイタークの案内をするためにそれぞれ別れようとしていた。
「里長」
「ん?どうしたジーアベル」
だが、まだ話さなければならない事がある。
「…ふむ」
里長は俺が発する大事な話をしたいという空気を察してくれたのだろう。
「すまないガルロ、あそこにある私の家で休んでいてくれないか?」
里長はガルロさんにわかるよう、自分の家に指を差す。
「わかった。ジーアベルさんのその面持ちだと、大事な話だろうからな」
「ありがとう、ガルロさん」
こうして、俺と里長二人だけになった。
「あの、白いもやもやの事なんですが…」
一応、念のためにもう一度確認しておこう。
「あぁ…それはジーニスが私の家から出て行ってからも話しただろう?何もわからなかったと」
確かに、そうは言ってたが…
「あれは…どういった類いのものなんでしょうか。それもわからないですか…?」
「うーむ…理解しがたい事象に憶測でものを言うのはあまり好きではないが、お前の言う通りスキルに関係しているものなんだろうとしか言えないよ」
俺も前はそう思ってた…けれどそれだけじゃない。
「ジーニスのスキルの詳細の続き…赤と緑の文字で書かれた説明文。あれも白いもやもやと関係がありますよね?」
「あぁ、あれか。それも関係してないとは言い切れないだろう。しかし…」
里長は俺に微笑む。
「よく『アレ』をジーニスに言わなかったな。お前達二人には事前に釘を刺していたとはいえ、口走ってしまうかも知れんと思っていたが…どうやら杞憂だったようだ」
「はい…」
里長はこう言ってるけど、ジーニスのためを思えば…言えるわけがない。クリナもそれはわかっているはずだ。
「『アレ』を言ってしまえば、ジーニスの心は打ち砕かれ兼ねないからな」
ジーニスがあんなことを言ったばかりだし、尚更教えるわけにもいかなくなってしまった。
「ジーニスがイマジーネに行くと言ったことが、お前達の口を止めるために一役買ってくれた、というのもあるのだろう?」
「そう…ですね…」
「安心しなさい、『アレ』についてはジーニス本人がいずれ突き止めるはずだよ。今は伏せておく事こそが吉となるだろう」
「本当に…?」
「ああ。なぜなら…」
里長が俺の肩に手を置き、こう言った。
「『アレ』はジーニスの運命そのものだ」
「運命…」
――――――――――――――――――――――――
「はぁ…はぁ…!!ジーニス…てめぇ…!!」
「くっ…ふぅ…!!」
ベラキサムは石を投げ続け、俺は避け続けていた。
「もう二度と家には呼ばねえからな!!」
ビシュッ!
「うぉっと!」
「チッ!!さっきから一発も当たんねえ!!」
「落ち着けよ、ベラキサム。さっきの話の続きなんだが、俺から提案したいことがあるんだ」
「な、なんだよ…」
ふふふ、修行とは体のいい言葉なのさ!!まあ動体視力を鍛えたいのは嘘じゃないけど。
「写真じゃなく、今度は本物を見たいとは思わないか?」
「本物…だと…!?」
「そうだ、修行と銘打ったのはただのカムフラージュの面もある。ほら、空を見ろ」
「空…?あっ!!」
どうやらベラキサムも気付いたようだな、この闇を帯びてきた空の色に。
「ふ、ふふふ…」
「さあ、行こうかベラキサム」
俺たちは飛びっきりの笑顔を交わす。
「「スーマさんの家に!!」」