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沈黙

「払拭するって…まさか!」


「奴隷や弱い人達を搾取し続けるイマジーネなんか、俺が直接行って変えてやる!!」


俺がイマジーネを変えられれば、父さん達も苦しい思いをしないで済むし、それだけじゃない。色んな人がもっと自由に暮らせるはずなんだ。


「や、やめなさい!!ろくな事にならんぞ!!」


「そうよ!!私達の息子であるあなたがイマジーネに行ってどうなるか、わかったものじゃないわ!!」


二人が俺をみすみす危険なところに行かせる訳がないのはわかってる。でも…


「誰かがイマジーネを…いや、イマジンを変えなければ、ずっとこの世界はこのままな気がするんだよ。だっておかしいでしょ?弱い人達の不幸せの上に幸せが成り立つなんて、あっちゃいけないよ」


「…」


「ジーニス…」


ガッ


「ベラキサム?」


ベラキサムが肩を組んできて、俺にウィンクをしてくる。


「俺もジーニスに賛成だ。イマジーネがこのままじゃ、ガルロのおっさんみたいに逃げる事でしか活路を見出せない奴隷は山ほど出てくるだろうよ」


何かを射殺さんとする程に、殺意に満ちたベラキサムのこの目…


「俺もそろそろ堪忍袋の緒が切れちまった。おっさんのように、実際に逃げ延びた奴を見ちまった今、イマジーネを許せるわけがねえ」


この目をする時は、ベラキサムが自分のお母さんの事を考えている時の目だ。


「ベラキサム…」


前にベラキサム本人から聞いた話だ。俺の父さん達と同じように、ベラキサムの親御さん達もイマジーネから逃げてきた。ベルハザクの民には貴重な価値があるようで、奴隷にされる事が多いとも言ってたな。


「…お母さんの敵討ちがしたいの?ベラキサム」


「ん?あぁ…」


里に逃げ切る途中で追手に阻まれて、ベラキサムのお母さんは…


「敵討ちと言われればそうかも知れねえ。それもあるが、俺たちがここで暮らし続ける事こそがイマジーネに怯えてしまってる証拠だろ?イマジーネに怯えて生き続けろなんて、俺は嫌だね」


俺の肩を握るベラキサムの手に、力が込められる。


「ジーニスがイマジーネに行くっつうんなら、俺もついていく。二人で行くんなら安心だろ?スーマさんよ」


「ふぅむ…」


スーマさんは目を閉じ、腕を組んで考える。やっぱり、行かせてはくれないんだろうか…?


「……………………よし」


長い間、考える素振りを見せていたスーマさんの目と口が開く。


「私の意見も述べることにしよう。ジーニス達がイマジーネに行く事だが…」


「里長!ジーニス達に言ってやって下さい!!イマジーネに行くなんて、あまりにも危険すぎると!!」


スーマさんは俺の目に、鋭い視線を突き刺す。やっぱり…ダメなのか…???


「…是とする」


「………えっ?」


あれ?今…是って…?いいって事!?本当!!?!


「さ、里長!?」


「ガルロやジーアベル達のように、この里の人間のほとんどがイマジーネから逃げた者が多い。だが、ここがいつまでも安全というわけではない。いずれ見つかるのも時間の問題だろう」


「な、なぜなんですか!?」


「この周辺を嗅ぎ回っている連中がいるのは、先も話したな?ノイタークを含んだ山々などを隠匿する私のバリアは、スキルから派生した力で生まれたものだ」


「スキルからの派生…?」


「うむ。これは『魔法』とも言われている」


魔法…?スキルが目覚めたわけだし、俺にも魔法は使えるのかな?


「魔法は単純なスキルの力に比べて弱いという特徴があるんだ。もしもイマジーネの兵士の中に、他人のスキルや魔法を弱体化させるスキルを持った奴がここに来ようものなら…」


スーマさんは目蓋を閉じ、奥歯を噛み締めて言い放つ。


「ノイタークは火の海と化すだろうな」


「…!!」


「私の魔法は弱い部類のものではないが、手練れが相手となるとここが見つかる危険性は高くなる。今まではただ単に運がよかっただけだ」


「そんな…」


「だがこれからはそうもいかない事だろう。イマジーネの兵達は失踪した奴隷達が、この辺りで消える事を察知し始めた。いつノイタークが見つかってもおかしくないのだよ」


スーマさんは俺とベラキサムに顔を向ける。


「彼らがイマジーネに行けば危険な目に遭うだろう」


「だったら…!!」


「それでも尚、危険性を孕んだ目的だと踏まえた上で、彼らにイマジーネを変えてもらう方法しか手立てが無いのも事実なんだ」


「…」


「彼ら以外にノイタークを守る適役者がいるか?私はノイタークを守るために動けず、他の者は言わずもがなイマジーネから逃げ延びてきた者だ。それこそイマジーネを変えたい、ましてや行こうとすら考えないだろうよ」


「し、しかし…」


ここでダメ押しだ…!!


「父さん!俺のしたい事を応援してくれるって、さっき言ってたのに!!」


「うっ!」


父さんが俺から目を背けて震えている。ごめんね…


「…はぁ」


父さんは溜息をつくと、俺の頭を撫でる。


「わかったよ。ただし、無理したら承知しないからな?」


「…!!ありがとう父さん!!!!」


「お前は昔っから聞かん坊だな、ったく」


父さんは悪態をつきながらも撫でる手は止めない。


「そうと決まればイマジーネに行くために裏山で修行だ!行くぞベラキサム!!」


「あ、おいちょっと待っ…!!」


ガシッ


俺はベラキサムの服を掴み、急いで裏山に駆け走る。


「おぼぼぼぼぼばばばばばばばばばばばば!!」






――――――――――――――――――――――――






「行ってしまった…」


「そういえば、ジーニスったら忘れてるんじゃないかな〜…なんて」


顎に指を添え、クリナは『ある事』について悩んでいた。


「何のことだ?クリナ」


「ベラキサム君、まだスキルが目覚めて無いんでしょ?修行と言ってもスキルが無ければ出来ないんじゃ…」


「「「………」」」


「あ、あはは…」


里に残された大人達の沈黙は暫く続いた。

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