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「スーマさぁあああん!!」


「ん?ジーニスとベラキサムか」


ジーニス達がスーマと男の元へと駆け寄る。


「はぁ…はぁ…どうしたんですか?いきなり飛び出して行っちゃって…」


「それに誰なんすか?この男は」


「ああ、すまないな。お前のスキルの詳細については両親に全て教えた後だったんだが…」


「うっ…くっ…!!」


「オイオイ、大丈夫かよ…!」


足を斬られて立とうとするがまともに立てそうもない男をチラリと見るスーマ。


「ノイターク周辺に誰が侵入したのかは私のスキルで見えるのでな。何やらこの男は兵士に捕まっていたが、奴隷のなりをしていたんで咄嗟に助け出したんだよ」


「えっ?それってノイタークは大丈夫なんですか?」


「大丈夫、私のスキルでこの里の周辺は隠匿しているし、見つかる心配など不要だ。里の人間に元奴隷が多いのはお前も知っているだろう?」


「え、えぇ…まぁ…」


スーマは謎の男に「無理をするな」と声をかけながら深い傷を負った足をスキルで治し始める。


「す、すまない…」


「あの、一体何が…?」


ガッ…


男に近付き、手を伸ばそうとするジーニスをベラキサムが止める。


「待て、ジーニス。兵士に追われていた男だぞ?ろくな奴じゃない可能性もある。あまり近付かない方がいい」


「ベラキサム!それは…そうだけどさ…」


「いいんだ、その褐色の少年の言う通りだ。この森の奥まで逃げてきた理由を話すとするよ」


謎の男は先程まで恐怖の渦中に飲み込まれていたからか、顔を伏せ、体を震わせながら話す。


「スーマさん…って言ったっけか。その人の言う通り、俺は兵士たちに追われていたんだ」


「あの兵士どもの鎧を見ればわかる。あれはイマジーネの兵士だな?」


「…ああ」


「イマジーネの兵士を知っているんですか?スーマさん」


スーマは溜息混じりに不快そうな顔をする。


「よくここら辺を嗅ぎ回っている奴らだからな、嫌でも覚えてしまうのさ」


ベラキサムが顎に指を沿わせて質問をする。


「イマジーネって…『イマジン』の中央に位置する大国だろ?そんな国の兵士から追われるなんて、おっさん何かやらかしたのか?」


「俺は…イマジーネの貴族の奴隷だった。元は貧困街で生まれ育ち、親に売られちまってな。ずっと奴隷の生活から抜け出せずにいたまま、おっさんになるまで続けてたのさ」


「でも…逃げた?」


「ああ。俺と同じ家に仕えてた奴隷から、奴隷の楽園、ノイタークの話を聞いたんだ。そいつは危険な作業をしていた時に足の腱をやっちまって、一緒に逃げる事は出来なかった。だから俺だけが監視の目を盗み、逃げ出したんだよ」


足が治り、早速立ち上がる奴隷の男。


「ありがとう、本当に助かった。感謝する」


「いいのさ。ノイタークにはそういった虐げられ、逃げてきた者が多い。この後はどうするつもりなんだ?」


「出来れば俺もここに居を構えたいんだが…ああ、自己紹介を忘れていたな」


パンパンと服の汚れを払う男。


「俺の名前はガルロ。クソッたれなイマジーネの貴族、レベリア家からの脱走者だ」


「…!」


「レ、レベリア家…!?」


「オイオイ…!!」






――――――――――――――――――――――――






「里長ー!?」


「大丈夫ですかー?」


スーマの家に取り残されたジーアベルとクリナが、スーマを心配して走り寄って来る。


「父さん…」


「なんだ、先に来てたのかジーニス。それでその方は?」


「この方はガルロさん…イマジーネの…」


ジーニスは喉に息を詰まらせながらも、その名前を口に出す。


「レ、レベリア家から逃げて来たって…」


「なっ!?」


「嘘…!」


驚愕する二人を見て、ジーニスの喋る声はさらに震えてしまう。


「やっぱり…何か知ってるんだね?」


ジーニスはノイタークが逃げ延びた奴隷の流民地だと知っていた。だが、両親の過去については知らされてなどいなかった。


「ねぇ…これってどういう事…???」


スーマはコホンと咳払いをし、ジーアベルを真正面に捉える。


「ジーアベル、そろそろジーニスに話をしなきゃならないんじゃないか?お前達の出生の事を」


「………そう、ですね。ジーニスも成人したし、今こそ話すべき事なのかも知れない」


「父…さん…?」


ジーアベルは大きな覚悟を決めたような顔でジーニスに目を向ける。


「ジーニス、お前にはまだ、話していない大事なことがある。心して聞いて欲しい」


「…わかった」


「ガルロさん、だったか?その人の言うレベリア家はイマジーネの上流貴族の連中だ。そして…」


悔しさを顔に着飾り、言葉を紡ぐジーアベル。


「俺が生まれた家の名前でもある」


「えっ!?」


「俺…そして母さんも…元はイマジーネの出身だ」


「あなた…」


クリナは今から話すであろう事の重大さを知っており、ジーアベルの背中に手を触れて寄り添う。


「俺にガルロさんの面識が無いことから、俺の生まれた家とは違う、親戚のレベリア家から逃げて来たのだろう」


「…」


ジーニスは二人の様子から、彼らが普段から振る舞っている明るい雰囲気とは違うものを感じる。


「父さん達はイマジーネから来たの…?」


「そうだ…俺たちにスキルが無いのはお前も知っているだろう?」


「う、うん…」


ジーアベルはジーニスから顔を逸らすものの、動かす口は決して止めない。


「…何故か俺たちにはスキルが目覚めなかった。それが何を意味するか、わかるか?」


スキルはこの世界では人権であり、スキルの強さは一個人、そして家の位を表すものでもある。それが無いということはつまり…


「貴族の生まれである俺にスキルが無いとわかった途端、俺の両親はすぐさま俺をレベリア家から追い出したのさ」


「そんな…」


「親、使用人、国民から愛情を込められて育った俺には、あの人達は別人なんじゃないかとさえ思うほどに…酷く蔑む顔をしていたよ」


「私も同様、16歳の誕生日にスキルが目覚めず、同じような対応を取られて身を貫かれる思いをしたわ…」


ジーアベルとクリナは涙を目尻に溜めながら、過去を噛み締める。


「俺と母さんは家からは勘当と絶縁を言い渡され、イマジーネから追い出された。イマジーネの兵士、国民、いく先々には盗賊すらも待ち構えていたが、何度も死線を潜り抜けながらも漸くこのノイタークに逃げ延びたんだ」


ジーニスは二人の暗い過去を初めて知る事となる。


「………たまに考えてたんだ。父さん達はなんでノイタークで俺を生んだんだろうって」


ジーニスは二人を、そして二人の過去を見据える。


「…でも、よかった」


「「?」」


「父さん達がこうやって俺に全部を話してくれて。嬉しいよ」


「ジーニス…!お前って奴は…!!!!」


「グスッ…!ジーニス…」


ジーニスは拳を握りしめる。


「でも父さん達やガルロさん、他にも色んな人が酷い目に遭わされたんだよね…俺はイマジーネを許せないよ…!!」


ジーニスはギリリと歯軋りをしながら、眉間に皺を寄せる。


「…決めた」


バッ!!


握り締めた拳を天に伸ばしながら、一つの決意を宣言するジーニス。


「俺が証明してやる。イマジーネに酷い目に遭わされた人達の汚名を払拭するために!!」


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