消失
「ハァ…!!ハァ…!!!!」
どこにあるんだよ!?やっとあいつらから逃げられそうだってのに…!!
「くっ…!はっ…!!」
同じ屋敷にいた奴の話じゃここらへんのはずだろ!?早く俺を助けてくれよ!!
「クソッ!!どこだよ!?」
そろそろ足が棒になってきてるってのに!!
「ノイタークはどこだ!?」
――――――――――――――――――――――――
「逃げられると思ったか?【天斬】!!」
ブシッ!!
「ぐっ!?がぁぁああぁぁあぁぁぁあぁあ!!?!」
痛みの原因である足を見ると、深く斬られ…!?斬られたのか!!?!だが周りには刃が届く範囲には誰も接近してなかったはず!!
「イマジーネから逃れようとはな?その根性だけは買ってやるが、奴隷の足掻きなど無力だと何故分からぬ?」
こ…こいつは!!!!
「なんでてめえがここに…!」
噂程度にしか聞かなかったが…間違いない!!青い長髪を後ろに束ね、腰に長い刀を携えた男…!
「たった今、貴様の身柄はイマジーネ兵隊長である我、イスィーが確保する。神妙にお縄につけ」
兵隊長イスィー…!?そんなの…最初から逃げるなんて…
「国の犬畜生どもが…!俺みたいな奴隷なんかに兵隊長なんか寄越しやがって!!」
「もちろん我一人でここに来たわけではない。万が一、我が貴様を取り逃がしたとしても、共に来ている部下がお前を追い続ける」
「なんで俺一人にそんな…!!」
「貴様はイマジーネの財産でもあるからな。丁重に扱い、貴族の元に連れ戻すのは我の任務だ」
は?
「財産…?財産だと…!?一体てめえらに俺の何が分かるってんだ!?あぁ!!?!人を物扱いするのも大概にしろ!!てめえらが貴族を野放しにした結果、虐げられ、死んじまった奴隷達も大事な財産だったんじゃねえのか!?」
「…我も貴族の立ち振る舞いには遺憾の意を持ち合わせてはいる…だが、これも任務なのでな。安心しろ、イマジーネに戻るまでは命の保証だけはしてやる」
ヒョイッ
「離しやがれ!!あんなところに戻るんなら死んだほうがマシだ!!!!」
「生憎、そうもいかんのだ。奴隷一匹すら取り逃がしたとなれば、偉大なイマジーネの名に傷がつく。大人しくしろ」
「クソッ…!ここまでか…!!」
ヒュオッ…
「む?」
「あ?」
なんだ?この異様な黒い風は…???
ヒュオオオ…!!
おいおい!気が付けば囲まれてるじゃねえか!!誰かのスキルなのか!?
「ふむ、なんだこれは?貴様の仕業か?」
「なわけねえだろ!!スキルなんかこの首輪のせいで使えねえよ!!」
『隷従の首輪』を付けている人間にスキルが使えっかよ!!
「どれ…」
バチッ!!
「むっ…」
なっ!?風に触れたイスィーの指に切り傷が…!!これはチャンスじゃないのか!?
「逃げようなどと考えるなよ?」
「チィッ!!」
ビュオオオオオオオッ!!!!
「なっ!?」
この風…!どんどん狭まってきてやがる!!
「やめろ…」
やべえやべえやべえ!!こんなところで死んでたまっかよ!!
「やめろォ!!!!」
ブジジジジジジッ!!!!
「くっ…!!」
「ぎゃあああああああああ!!!!!!」
――――――――――――――――――――――――
どうやら我の体に損傷は無いようだな。ある程度の威力を含有していたとは言え、最初からただの目眩しが目的か。
「…」
今のは一体誰が…?
「ハァ…ハァ…!イ、イスィー隊長!!ただいま到着致しました!!」
「ぜぇ…ぜぇ…!!遅れを取ってしまい、申し訳ありません!!!!」
我がイマジーネより率いた一般兵が数人、それに…
「はぁ…ったくめんどくせえなぁ…いちいち走るなんてよぉ…」
副隊長のギーラ、やっと分隊が追い付いたか。
「遅い、愚か者どもめ」
「ああ?あんたが先走ったんだろ?隊長さんよ」
相変わらず、減らず口を叩く男だ。
「んで、奴隷はどこに行ったんだよ?あんたが見つけたって口に出した途端、すげえスピードでどっか行っちまいやがって。俺たちはあんたを見つけて追っかける事に必死…」
「ギーラ、頼みたい事がある」
「………なんかあったのか?」
未だに信じられないが…
「追跡していた奴隷が」
やはりこれは現実だ。
「消えた」
――――――――――――――――――――――――
「ぎゃあああああ…あ?」
あれ?どこだここは…天国?
「黒い風に飲まれて、俺って死んだんだ…よな?」
天国にしては質素な作りだなぁ。ただの民家が並んでて、普通の村、もしくは…
「里…?」
「やあ」
「!?」
いつの間に誰かが俺の後ろに回り込んだのか、背後から声が聞こえる。
「誰だ!?」
「おいおい、せっかく匿ってやったのに開口一番が誰だとは失礼じゃないか?」
匿った…?俺を???
「えっと…すまない。あんたは一体…?」
「私はスーマ。この里の長を担っている者だ」
里の長?…ってことは!!
「じゃあここが…!」
「うむ。よくぞ来た、救済を求めし者よ」
ああ…あああああ…!!ついにやったぞ…!!!!
「ようこそ、ノイタークへ」
俺が求め続けた、虐げられた者の安楽の地…!ノイターク!!!!