ベラキサム
「ほら、起きろ」
「んん!?」
ズキズキと殴られたであろう頬が痛む。スーマさんが殴った時、全然目で追えなかったけど…
「さっさと来なさい」
スーマさんの家のソファに寝かされていたようだ。起き上がると、スーマさんがある部屋へと指を差していた。
「こっちだ」
何やら桃色の照明が施された妖しい雰囲気の漂う部屋へと誘導される。
「ここでスキルを占うぞ」
その部屋に入ると、父さん達が待っていた。
「ジーニス…里長には失礼のないようにな?」
「ご、ごめん。つい…」
部屋を見渡すと、人の頭ぐらいある大きさの水晶が机に置いてある。
「これを使ってスキルを見るんですか?」
「そうだ。さぁ、椅子に座りなさい」
水晶の前に椅子が2席あり、片方はスーマさん、もう片方は俺が座り、向き合う形になる。
「少し我慢してくれよ?」
スーマさんは懐から小刀を取り出し、俺の右手の人差し指をチクッと刺す。指からはじわっと血の玉が出来る。
「その血をこの水晶に垂らしてみろ。そうすればスキルの詳細が見れる」
「はぁ…」
ポタッ…
半信半疑で血を垂らしてみる。
キュィィィ…!!!!
「おお…!!」
水晶が俺の髪の色のような白い光を放ち始めた。
「ふむ」
「何が書いてあるんだろ…?」
「どれどれ…?」
「気になる気になるっ」
俺を含めた四人が水晶を覗き込む。
スゥゥゥ…
ある一文が大きく表れる。
「『歴史を想像した通りに作る』…?」
なんだ?どういう事なんだろう???
「要するに…」
スーマさんが目を凝らしながら続きの文に目を通す。
「自分が想像した物事を、そのまま現実に引き起こせる効果だ」
「な、なんか…」
「凄そうだな!!」
「ジーニスにそんなスキルが与えられるなんて…!すごいすごい!!」
スーマさんが小言で何かを呟く。
「よし…あまり変異などはしていないな…」
「ん?何か言いました?スーマさん」
「いやいや、なんでもないよ。ただジーニスの手には余りすぎる、優れた能力だと思ったのさ」
「ふふふっ!優れた能力かぁ…」
スーマさんに暗に褒められたようで嬉しくなってしまう。
「ん?」
下の方にある、何かを説明している文だろうか?赤と緑の光で書かれているような…???
「なんだろこれ…?」
ドンドンドン!!
「ん?」
戸を叩く音がする。
「おっと、誰か来たようだな。ジーニス、続きはお前の両親と見ておくから、誰が来たのか見て来てくれないか?」
「あ、わかりました。」
さっきの赤と緑の光が気になるけど…仕方ない。
俺はスーマさんの家の戸に手をかけ、顔を出す。
「はーい」
ガチャッ…
「あれ?」
戸を開けたというのに、誰もいないじゃないか。
「ワッ!!」
「うわぁぁぁ!?」
「はははー!!引っ掛かったな、ジーニス!!」
端の方に隠れて、俺を驚かして来たのは幼馴染のベラキサムだった。
「ベラキサム!やめろよ心臓に悪い!!」
「ははーん、スキルがまだ目覚めてない俺に驚かされるなんてな。さてはお前のスキル、ショボかったんだろ???」
「な、なにをぅ!!」
ベラキサムは確か、ベルハザクっていう砂漠の国の血を引く民族らしい。褐色の肌が特徴的だ。
「たとえお前のスキルがショボくても話だけは聞いてやるからさ。んで、どんなスキルだったんだ?」
俺がスーマさんの家で占ったことを知っているらしい。
「はぁ…ショボいスキルを期待しているところ悪いんだけど、すごいスキルなんだよなぁ!!」
「な、なにぃ!?」
ベラキサムはノリのいい男で、良いリアクションをしてくれる。
「どうやら『歴史を想像した通りに作る』スキルらしいぞ?どうだ?すごいだろ!!」
「な、なんかヤバそうなスキルだなそれ…」
何故かベラキサムの反応は芳しくなかった。
「どうした?」
仰々しく左右を確認したベラキサムは、真剣な顔で俺に目を合わせ直す。
「…ちょっと耳貸せジーニス」
「う、うん…」
ベラキサムは俺の耳に手を当てて、小声で話し始める。
「強すぎるスキルは逆に自分自身を喰らい尽くすって噂、知ってるか???」
「えっ!?」
なんだそれ!?初めて聞いたぞ!!?!
「ジーニス…お前ヤバイんじゃないの…?」
「え、えぇ…?」
スキルについてはまだ知らない部分が多いから、なんだか怖くなってくるじゃないか…
「…」
「ぷふっ…!」
「ん?」
「ハハハ!!」
「なっ…!!」
こいつ…まさか!!
「嘘だな!?」
「ハハハハハ!!!!」
「嘘なんだな!?」
ベラキサムの頭をべしべし叩く。
「悪い悪い!だって、昔からお前騙されやすいんだもん!」
「もー!!」
「ぷくくっ…!!お前の怖がる顔、傑作だったぜ!」
「むむむ…」
「それにしてもお前のスキル、強そうだな!歴史を想像した通りに作るだっけ?そんなスキル、使いこなせんのかよ?」
「うーん、スーマさんにも手に余るって言われたよ。起きてすぐ父さん達と裏山で試してみたけど、身体能力が上がったくらいだったな」
「へぇ〜…歴史を作ることが身体能力の向上に繋がるのか…?っていうか!!」
「ん?」
ベラキサムはビックリしたように俺を見る。
「お前、裏山に行ったのか!?初めて行ったんじゃないの!?」
「ああ、そういえばそうだったな」
「確かお前の親父さんが行かせなかったんだろ?ガキだった頃はお前を遊びに誘っても来ないから、寂しかったぜ…」
うぅっと泣き真似をするベラキサムをよそに、俺は説明する。
「その事については父さん達と話したよ。俺が小ちゃい頃に白いもやもやが俺の体から出たらしくてさ、それのおかげで里の作物を漁ってたっていう猪を追い払ったことがあったらしい」
「ほーん?猪のことは俺の親父から聞いてたから知ってるわ、ある時を境に姿を見せなくなったとも言ってたな。その白いもやもやにビビったんだろうけど、それって何なんだ?」
「父さんが言うにはスキルに関連したもんじゃないかって言ってたよ。裏山に行かせなかったのは猪の件もあったし…成人してスキルが芽生えたら白いもやもやについて何か分かるかも知れないからって事らしいよ」
「んで、そのもやもやはなんなのか分かったのかよ?」
「あ!!」
もやもやの事、スーマさんに聞くの忘れてた…
「お前忘れてたろ?」
「う、うるさい」
「図星かよ。んで、その腰の後ろに構えてる黒い鞘みたいなのは…?」
「ああこれ?ふふふ…驚くなよ?」
ベラキサムと俺は和気藹々と今日起きた事を話す。