歴史
ガルロさん…ありがとう…ごめん。
「…」
俺達を…マーシャさんを守るために犠牲にさせてしまった!俺がもっと早く、助けに行ければ…!!
「せめて、あなたが命をかけてまで大事な人を守るために戦った覚悟は…」
残った敵は…
「無駄にしない!!」
俺が片付ける!!!!
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「…もう、いいのか?」
「待たせたな…ハァッ!!」
ボッ!!!!
ジーニスは再びオーラを放ち、イスィーは鞘に納めた刀に手をかける。
「…すまなかった」
「?」
「兵隊長の身でありながら、標的を殺そうとした部下の思惑すら見抜けないとは…正しい指揮を行き届かせられたのならば、標的が死ぬこともなかった」
ピクッ…
「標的…?」
ジーニスは自分の覚悟の礎となったガルロを、標的と呼ばれた事にイラつきを見せる。
「ガルロさんは標的なんか!奴隷なんかじゃ、ない!!」
ダッダッダッ!!
ギーラと戦った時と同様、ジーニスは空を蹴り、イスィー目掛けて突進する。
「はぁあああ!!!!」
「…!」
ガガガガッ!!
「お前らイマジーネは…!!人をなんだと思ってるんだよ!?」
「…」
「まるで人を道具のように使い、その上使い物にならなくなったら切り捨てる!?よくもあの二人を…!!!!」
ズガガガガガガ!!!!
猛攻。ジーニスの剣捌きは常人のそれとは既に程遠く、近くに潜むイマジーネ兵はジーニスの姿すら見る事が出来ない。
「なんとか言ったらどうだ!!!!」
「………すまない」
ピタッ
「は、はぁ…?」
圧倒的な速度の斬撃の全てを、受け流しながらもイスィーの話す言葉はそれだけだった。
「なんだよ…それ…」
「我に出来る事は、ただ戦うことだけだ。貴様が我らイマジーネを憎むのなら、その剣を振るうが良い」
「…!」
イスィーも知ってか知らずか、言葉の意味合いとしては、ガルロが言っていた犠牲を生み出さなければならない戦いをしろとジーニスに告げる。
「…貴様に問う。この世界の『原初』は知っているか?」
「『原初』…?」
イスィーはジーニスと距離を離しつつ、体の力を抜く。
「この世界、イマジンには元は三人の者しかいなかったという歴史だ」
「…なんのことだ?」
「知らぬか。だが辺境生まれならば無理もない」
刀を鞘に納めるが、柄を離さぬままイスィーは話し続ける。
「唯一神、勇者、魔族。この三人の者しかいなかった『原初』の時代…」
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勇者、エンジス。
たった一人の原初の人類であり、孤高の勇者。魔族を滅ぼすために生み出された存在だった。だが、ひどく傲慢であり、自分の欲だけに忠実な獣と言われている。
魔族、モース=デマ。
勇者を倒し、神に仇為す邪悪。魔族独特のスキルを用い、魔法で構成された翼と角を持つ異形の女。その内包する力は凄まじく、神にも及ぶほど。
唯一神、マカインド・ドート。
イマジンの神であり、ただ一人の管理者である。綻びが生じる時、現れ、罪人に死を、救いを求める者には輝きを指し示す者である。
勇者は魔族と戦ううちに、世界を壊しかけた。その身勝手な行動を唯一神は許さず、勇者を外界へと追放した。
勇者を排除された魔族は好奇と欲張ったものの、唯一神の力には一歩届かず、滅ぼされた。
そして唯一神は傲慢な勇者とは違う、新しい人類を生み出し、世界に平和を齎した。
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「そして新しい人類によっていくつもの国が生まれ、その中でもイマジーネは唯一神様を崇めることにより、大いなる恩恵で発展してきたのだ」
「だけどイマジーネの人間は…!唯一神から生まれた同胞と言ってもいい人達に害を与え、奴隷として捕まえてるだろ!!」
「…我も、その不平等な仕組みには納得はしていない。もしもこの奴隷制度を変えられるのならば、変えたいとすら思っている」
「だったら…!!」
「だが!!」
ドン!!と地団駄を踏み、その重みで地面が抉られる。
「だが、そのイマジーネの罪は我が全て背負うと決めたのだ!!我が負ければ、イマジーネという国そのものが大きな過ちだと歴史に悪名を残し、再び混乱の世となってしまう!!!!」
ゴゴゴゴゴ…
イスィーが顔を伏せ、わなわなと震えると、それに呼応するように地が揺れ、木々が悲鳴を上げる。
「イマジーネは永遠に不滅なのだッ!!」
ゴァアアアッ!!!!
「嘘…だろ…?」
イスィーの体から、光り輝く何かが宿る。
「オーラを使えるのは、貴様らだけだと思うな!!」
ゴォオオオオオオオオオオオオ!!!!!!
青く輝く光を放ち、イスィーの全身にオーラが湧き出してくる。
「我は神によって生み出された存在…!その名もイスィー!!唯一神、マカインド・ドートの柱が一人、その力を引き継ぐ者である!!!!」
ジーニスとは比べ物にならない程の強大な青いオーラを放ちながら、抜刀術の構えを取るイスィー。
「覚悟…!!」
ッ…
音もなく消え、ジーニスの目前から姿を晦ます。
「み、見えな…!!!!」
「【天斬】!!!!」
ブシュッ!!!!
「ぐあっ!!?!」
死角から斬られたのか、ジーニスがイスィーを捉える暇もないままに右の肩口を深く斬られてしまう。
「お…俺にだって、譲れないものがある!!!!」
ボォッ…!!
オーラを放ち、次の攻撃に構えるが…
「【天斬】!!!!」
ボガァッ!!!!
「ぐ、ううぅ…!!」
またも姿の見えないイスィーに、左脇腹を斬られてしまう。
ドサッ…
あまりに重い斬撃に、ジーニスは体の制御が効かなくなっていた。
「ぐ…ぐぐ…!!」
ドサッ…グッ…バタッ…
「はぁ…はぁ…!!」
何度も立とうとするが、段々と気が遠くなっていく。
「死…ぬのか…?俺…」
既に動けなくなってしまった体に力を入れようとするものの、代わりに出てくるのは大量の血。
「こんな…ところで…!!みんなが…」
口からは血を流し、目からは涙を流し、体からは脂汗を流す。傷口からは…
「ごぼっ…」
臓物を垂れ流していた。
「…今、楽にしてやる」
「やべ…ろ…!!」
イスィーは姿を現したが、ジーニスには見えていない。見えているのは真っ赤な景色だけであった。
「死ね」
ズブッ…!!
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「………何?」
イスィーは強い違和感を感じ取る。
「…!」
腹を…
「…ぐ、はぁ…!?」
自分の腹を、貫かれたという事実に。




