オーラ
「面白い…!!」
禍々しく、ドス黒い何かを体に纏わせたガルロの圧力に、イスィーの興奮は留まることを知らない。
「マーシャ…もう少し、待っててくれ」
ガルロがギーラを真っ先に蹴り飛ばしたのは理由がある。
「俺の呪われた力でお前を傷つけたくないんでな」
それは、彼女の近くにいたギーラを吹き飛ばし、マーシャだけを範囲内に入れないようにする目的があった。
「さぁ…!」
ブシシシッ!!
二人の至る箇所から血が流れるものの、何故か二人は…
「始めようか!!」
「『招き人』と貴様の覚悟、見せてもらおう!!」
笑い合っていた。
――――――――――――――――――――――――
「なんだこれ、何の騒ぎだ!?」
マーシャの悲鳴を聞きつけたのか、ジーニス達の元にベラキサムが走り寄って来た。
「まったく、この里の若い奴らは人の話を聞きもしないな」
スキルで里の人間全員に家で待機しろという声をかけたのにも関わらず、その忠告を反故にして訪れたベラキサムに溜息を吐くスーマ。
「おい、あれって!!」
ベラキサムはバリアの外で戦っているガルロの姿を目撃する。
「スーマさん!!なんで止めないんだよ!!!!」
「…怒りで『隷従の首輪』を引き千切るほどの力を解放したガルロを、私に止められる訳が無いさ」
ぐぬぬと言葉を詰まらすベラキサムは、標的をジーニスに変える。
「ジーニスも!なんで黙っ…?」
「…」
だが、当の本人はガルロの戦いに意識を向けていた。
「ジーニス?」
「…」
まるで他の事すら眼中に無いと言った具合に。
「…ダメだなこりゃ。なあ、スーマさん」
二人の冷静な様子に落ち着きを取り戻したのか、ベラキサムの焦りも消えていた。
「ん?」
「あそこでガルロのおっさんと戦ってるの、イマジーネ兵だろ?なんでバリアの範囲ギリギリまで来てんだよ?」
「…!」
まるで失念していたかのように、ベラキサムの言葉にスーマは驚く。
「確かに奴らがこのバリアの存在を知っていなければ、里の目の前まで来れるはずもない!!」
スーマは思考を張り巡らせる。
「この『偽物』の映像を映し出し、迷わせるバリアを特定できるスキルを持った者が奴らに!?」
その最悪な想定に、気が付いてしまう。
「いかん!ガルロ!!!!」
――――――――――――――――――――――――
ズガガガガガガガガガガガ!!!!
「ハァァァアアアアアアアアア!!!!」
「フッ…!!ハァッ…!!!!」
ガルロは黒い何かを纏わせた拳と蹴りで、イスィーはそれに刀の剣戟で応え、勝負は拮抗していた。
「まさか貴様が『オーラ』を使えるとはな!久しぶりの血湧き肉躍る戦いだ!!」
「随分と!!楽しそうだな!!!!」
バキッ!!ガゴッ!!ズガァッ!!
互いに一歩も引かず、両者共、相手の攻撃を通さないものの『招き人』の効果で傷は増えていく。
「しかし『オーラ』ってのはいまいち分からないが、初めて使うこの力は妙に手に馴染む…!!」
ガルロにとっては初めての感覚だった。オーラと呼ばれたガルロに纏わった何かが、闘争本能を擽り、力を分け与えてくれる感覚。
「マーシャを救うための戦いのはずが、お前をこの手で倒したいと思うほどに力が馴染む!!!!」
「フッ…!」
ボゴォォォオオオオオオオオン!!!
イスィーごと地面を叩き割ろうと地に拳を突き立てて、巨大なクレーターを生み出すガルロ。
シュゥゥゥ…
叩き潰したはずのイスィーが目の前から消え、手応えのなさを感じるガルロ。
「…避けたか」
「勘が鋭いな、奴隷上がりとは思えぬ素晴らしい戦闘能力…捕らえるのが惜しくなってくる」
ガルロの背後に回り込み、地面と共にクレーターになる未来を避けるイスィー。
「ふぅ…」
「…」
激しい撃ち合いはひとまず止まるが、睨み合う二人は隙を作らない。
「貴様と戦えるこの瞬間を、嬉しく思う」
「ああ、そうかよ」
グサッ…
「…え?」
シュゥゥゥ…
何故か唐突に体の力が抜け、ガルロのオーラが四散していく。
「グバッ…!!」
「!?」
血を吹き出し、膝をつくガルロを視界に入れるイスィーも、何が起こったのか理解出来ていない。
「誰…だ…???」
「蹴飛ばした顔面は覚えてないってか?いいご身分だなぁ…」
強い痛みが走るガルロの腹部には、鋭利なナイフが深く突き刺さっていた。
「ガルロさんよぉ!!」
卑劣、そして愉悦混じりの声を発しながらギーラは奇襲に成功する。
「なんだと…!?あの時、お前は俺が…!!」
「ああ?あの身代わりのことか?」
「身代…わり…???」
気力を失った体をなんとか動かし、ギーラが倒れていた場所に目を向けるガルロ。
「なっ…!?」
そこにいたのはギーラではなく、いつの間にか入れ替わっていたイマジーネ兵だった。
「あらかじめこうなる事を予想して、一般兵と入れ替わってたんだよぉ!!」
「…ギーラ」
イスィーが刀を鞘に仕舞い、ギーラへと近付く。
「よぉ隊長さん、騙してて悪かったな。だが敵を騙すならまず味方からって言うだろ?」
「貴様…!!こんな事のためにスキルを使ったのか!?目標に深い傷を負わせ、任務すらも忘れていると!?」
怒りを露わにするイスィーに嫌気が差し、ギーラは耳の穴を穿りながら面倒くさそうに相手をする。
「あぁ?ガルロの捕獲の事か?どっちにしろ『隷従の首輪』を自分で千切った奴隷なんざ、貴族様の手に余るってもんよ」
ガルロは腹部を刺された痛みに耐えつつも、ギーラに睨みを利かせる。
「ならなぜ最初からマーシャの指を切りやがった…!?」
「あ?そんなの」
ニヤリと笑うその顔は、およそ人間と呼べないような醜悪で劣悪なものだった。
「あの女の悲鳴を聞きたかったからに決まってるだろうが」
「クソ野郎…!!」
ボォォッ!!
消え去ったオーラが再びガルロの体に灯り、立ち上がる。
「殺す!!殺してやる!!!!」
「おぉ〜おぉ〜、そんな体でまともにやり合えるのかねぇ?」
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「なぁ、あれヤバいんじゃないのか!?」
ベラキサムに再び焦りが生まれ始め、スーマも悔し気な表情でガルロ達を見ていた。
「やはり…」
「ガルロのおっさんがやられちまう!!」
バキッ…
「…ん?」
ビキキッ…!
「なんだ…この音は…?」
ゴアアアアアアアアアアアアア!!!!
「おいおい今度はなんだ!?」
天災かと思われる程の大規模な地面の揺れ。
「…やはり私には、止められそうもない」
バギャギャギャギャギャッ!!!!
バリア全体が音を立てて崩れ去っていく。
「行くのか?」
スーマが見据えるその体に、眩い光が纏っている。
「はい」
白いオーラを纏うジーニスの顔には、ガルロと同じ決意が刻まれていた。
「行ってきます」
天災のような天才が、牙を剥く。




