ガルロ
ブチッ!!!!
ガルロに付けられていた『隷従の首輪』が一人でに千切れ、地面に落ちる。
「首輪が…切れた?」
千切れた首輪を拾いつつ、スーマはガルロを見る。
「スーマさん、よく聞いて欲しい」
スーマが見るガルロの目に、純粋な殺意に溢れていた。
「…なんだ?」
「ジーニスくんに、伝えておきたい事がある」
――――――――――――――――――――――――
「えっ…?」
右腕が吹き飛ばされた事実を受け入れられないのか、時間が止まったかのようにギーラの反応に遅れが生じる。
「ギィッ…!!」
だが、強烈な痛みがそれを許さずに現実へと引き戻す。
「ギァァァアアアアアア!!!?!?!!」
「黙れ」
バキッ!!
「ぷぎぃっ!?」
叫ぶ顔面を蹴り、追撃を加える一人の男。
「お前らイマジーネがマーシャに与えた苦しみは、こんなもんじゃないだろ?」
「はっ!!はへぇっ!!!!」
鼻を潰され、痛みと恐怖で全感情を支配されたギーラには、その男が誰か理解しきれていなかった。
「うっ…」
激しい痛みによってギーラは気絶し、イマジーネ兵はその一方的な蹂躙にたじろぐものの…
「【天斬】!!!!」
たった一人、刃を向ける者がいた。
「フッ…!!」
技を叫ぶ声と共に男は身をかわした瞬間、
バギギギギィ!!!!
付近の木々を薙ぎ倒す、不可視の衝撃。
「…貴様、本当に」
イスィーが不意を突いたのに、かわされた事に驚愕する。
「ガルロなのか…?」
「イスィーか」
ゆっくりとイスィーへと振り向き、目に確かな決意を宿すガルロ。
「その力…それが『招き人』の力か?」
「…ああ」
イスィーの視線は顔より下、首元へと向かう。
「『隷従の首輪』はどうした?」
「…切れちまったんだよ。俺の堪忍袋と共にな」
ヒュッ!!
一瞬のうちに背後に回り込んだガルロに、イスィーも負けじと反応する。
「ハァッ!!」
ガギギギギギギギギィン!!!!
イマジーネの兵達には決して捉える事が出来ない速度で、蹴りと刀のぶつかり合いが幾度も繰り返される。
「『隷従の首輪』を己の力ひとつで排除したことにも驚いたが、まさか貴様がここまでの力を持っているとは…」
「…」
ギィィィィィイイイイン!!!!
激しく交差する打撃と斬撃は、大きな衝撃を生み出し、その反動で二人は飛び退く。
「『招き人』は運を招くものと聞いたが、それだけではこれ程の力を出すのは困難なはず…」
「…特別に教えてやるよ。『招き人』が本当に招くもの、それは」
ゾワッ…
イスィーの脳裏に一つの文字が浮かび上がる。
ゴバッ!!
「ぐふっ!?」
口から血を吹き出し、地に膝をつくイスィー。
「『死』だ」
――――――――――――――――――――――――
「ぎゃぁぁぁぁああああああああああ!!!!」
耳を劈く聞き慣れない女性の悲鳴が里中に響く。
「あの声はなんだ!?スーマさんの声では無いようだけど…」
俺は里の入口へと走っていた。スーマさんの去り際の焦りよう、ただ事じゃないのは馬鹿でもわかる。
「あれは…!」
並ぶ家々を潜り抜け、里の入口近くまで走ると、立ち尽くす小さな人影が見え始めた。
「スーマさん!!」
「…ジーニス、家にいろと言ったはずだが」
「そんなのどうでもいいでしょう!!一体何があったんですか!?」
入口の向こうに意識を向けると、バリアの範囲外にガルロさんと鎧を着ている多くの兵が見える。
「なっ…外に!?」
「ガルロは…マーシャを救うために…」
「マッ…!?」
さっきの悲鳴は…!マーシャさんのもの!?イマジーネ兵に連れて来られたのか!!!!
「一人で行くだなんて…!!」
一人じゃダメだ!!俺が行かないとガルロさんが危ない!!!!
グイッ!
助太刀に向かおうとするも、その意に反して体が後ろへと引っ張られる。
「行くなジーニス!!!!」
「でも!!」
「あいつは私に言い残した!!もしもここにジーニスが来た場合、俺の戦いを見ていろと!!」
「は…?」
なぜ…?あの戦いを見ることになんの意味が…???
「あいつは…」
今にも飛び出してガルロさんに加勢したい俺を睨みを利かせて止めつつ、スーマさんは重い言葉を容赦なく叩きつける。
「死ぬつもりだ」
――――――――――――――――――――――――
「死…だと…?」
「そうだ。そしてその対象は…」
たらぁ…
「俺も例外ではない」
血を口から垂らしつつも、ガルロは構えを崩さない。
「…我らと共に天に召されるつもりか?」
「ハッ!!俺らが行くところは地獄だけだ」
ビシュッ!!
「ぐっ!?」
「…ッ」
ガルロとイスィーの腕が引き裂かれ、血が飛ぶ。
「ごぁぁあああ!?」
「うげぇっ!?」
二人の戦いに気圧されたままだったイマジーネ兵の腕にも、同じような傷が浮かび上がる。
「何を…?」
「俺の『招き人』は、一つ一つが致命傷となり得る傷を範囲内にいる全ての人間に分け与える能力だ」
イスィーが辺りを見渡すと、気絶したギーラにも同じような傷が付いているのが確認できた。
「フッ…厄介だな」
強大な力を解放したガルロ相手に、イスィーは笑みで返す。
「時間が経つと共に傷は増え続け、やがて全ての人間に平等な死が送られる。『招き人』で傷を招けば招くほど、俺の力は本領を発揮する」
「自らも蝕む死神を招く、諸刃の剣…ということか」
「そして…これが…!!」
バッ!
拳を天に突き出し、ガルロは何かを呼び寄せるかのように…
「はぁぁぁあああああああああ!!!!」
叫ぶ。
グォォォオオオオオオオ!!!!
その叫びに応えるように、ドス黒く禍々しい何かがガルロの体に纏わる。
「これは…!!」
「『招き人』の全力だ!!」
――――――――――――――――――――――――
「死ぬ…!?なら尚更俺が!!」
「あいつの決意を無駄にするな!!自分の死を以て、スキルを使った戦いをお前に教えるつもりなんだよ!!」
「スキル…?でもガルロさんには『隷従の首輪』が…!!」
「…問題ない」
スーマさんが俺に寄せた手には、千切れた『隷従の首輪』の切れ端が握られていた。
「これ…」
「ガルロの動き、そして敵の動きを覚えるんだ。今後のお前に必要なものが全て、この戦いに詰まっている」
俺に…何を見せるつもりなんだ…?
「ガルロさん…」




