表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/34

33 レイドバトル会場はここですか?

 ストロンガーにとって幸いなのは、大英雄が復活直後だという事だった。

 千年間肉体を失っている間に、魂に根付いた魔法は枯死して喪失した。

 魄は肉体と馴染みきっていない。

 剣も持っていない。


 魔法も剣技も封じられた怒り狂う大英雄はイースを殺すために殴る他ない。

 だがその拳の一発で、割って入った魔王ハニャは骨をぐちゃぐちゃに折られ吹き飛び洞穴の壁に叩きつけられ吐血したし、勇者ストロンガーが受けに使った頑丈な短剣は脆い小枝のように折れ勢いのまま防御を貫通し腹に風穴を開けた。


「……っ! ニンジャ! 金ならいくらでも払う! 手伝ってくれ!」


 時間魔法と治癒魔法の併用で致命的負傷を超再生させながらストロンガーが叫ぶ。

 しかし既にニンジャの気配は跡形もなく消えていた。


「に、逃げやがった!」


 無力な無辜の民を手にかけようとしている恩師を止めるためゴブリンの手も借りたい状況でニンジャが消えたのは痛い。怒りがこみ上げるが自分を抑える。

 そもそもニンジャは暗殺者で、追跡・道案内は本来の仕事から外れている。依頼に無い仕事をしないからといって責めるのはお門違いというものだ。

 そうはいっても舌打ちの一つや二つしたくなる。あの拳を受けてまだ上半身と下半身がくっついているのは大英雄が寸前で勢いを緩めたからだ。


「剣返せ!」


 邪魔者を退かし、目を血走らせ再び拳を振りかぶった大英雄に光の矢の如く飛びかかりながら魔王が叫ぶ。

 ストロンガーは一瞬躊躇した。

 魔王に武器を渡す? 冗談じゃない! 彼女が姉弟子らしいという予想はついている。しかし敵意はあれど敬意はない。死ぬなら死ねばいい。

 しかしこれは師を止めるため、涙を流し怯える弱き者を助けるため。ストロンガーだけで大英雄は止められない。


「クソが!」



 罵倒と共に投擲された星空の剣・アストラル=ライトは百年ぶりに再会した主の手に一直線に吸い寄せられる。魔王は剣を受け取る勢いに身を任せ横に鋭く一回転し、下からすくい上げる神速の逆袈裟斬りを放った。

 大英雄の拳と刃が衝突し雷鳴のようなけたたましい音が轟く。洞穴に激震が走り、天井から砂と小石が五月雨のように降ってきた。


 百年封印されていたとは思えない冴えを見せる魔王の超常の剣技を大英雄は右手の手刀で尽く受け流した。その動きに殺意は乗っていない。だが単純な威力だけで十二分に魔王を殺し得るだろう。

 勇者が仲間と共に辛うじて打ち倒した魔王を、武器も魔法もない大英雄は大幅な弱体化を受けた状態で圧倒できるのだ。悪夢のような現実だった。


 大英雄は魔王の猛攻を受け流しつつ、小さな体の要所要所に奇妙な形に握った左拳で鋭い一撃を入れていく。

 理屈は分からない。だが特殊な体術の一種なのだろう、魔王の動きがみるみる鈍化していった。


 莫大な魔力消費と引き換えに致命傷から復帰したストロンガーは、予備の剣、虎の子の一本を手に大英雄に立ち向かった。

 イースを庇い膝をついた魔王に回復魔法をかけ、大英雄の背後から奇襲する。大英雄は煩わしそうにストロンガーの剣を振りかえりもせず最小限の動きで回避した。


 魔王と勇者。かつて世界の命運を賭け戦った二人は完璧な連携で大英雄に食らいついた。

 同じ師を持つ者同士、力の限りを尽くし戦った者同士、お互いの動きは分かっている。

 どう動けば、いつどこで何をすればお互いの力を限界以上に引き出せるか分かっている。

 それはある境地に達した達人同士だからこそ可能な、無言にして刹那の意思疎通だった。


 しかしそれでも。

 それでも星を守った大英雄の方が強い。


 武器も魔法もなく徒手空拳の神業で二人の剣を捌いていた英雄はみるみる体術と肉体の齟齬を埋め急激に動きを洗練させていく。

 ストロンガーは魔法のような手さばきで巻き上げられもぎ取られた剣を魔法で吸い寄せながら叫んだ。

 これは手に負えない。まだ勝負になっているうちに。


「魔王! その人を逃がせ! 俺が止める!」

「わかっ」

「わ、わわわわわ私はっ! 逃げません!」


 二人に守られるイースは震える声でキッパリ言った。

 

「教授から逃げるなんて! 私は残ります!」

「残るなぁーッ! 馬鹿か!」


 地面にしがみついてテコでも動かない構えのイースに吐き捨てる。守られる側に守られる気が無いのではなんのために戦っているのか分からない。


 魔王と勇者は体力と魔力を振り絞り、ボロボロになりながら食い下がる。

 しつこい二人に業を煮やした大英雄は数歩距離を取り、体を捻り引き絞る見たことのない奇怪な構えを取った。


「邪魔を――――」


 大英雄の体が淡い燐光を帯びる。

 初めて見る技だったが、ストロンガーは直観した。

 アレは溜め(、、)だ。

 わざわざ距離を取り、大きな予備動作を入れた。

 次にどんな恐ろしい攻撃が来てもおかしくない。


 ストロンガーは魔王に時間加速と身体強化、ありったけの防護魔法をかけた。

 以心伝心、支援を受けた魔王がイースを地面から無理やり引きはがし肩に担いで目にも止まらない速さで逃げ出す。


「――――するなァ!」


 その魔王の背中に、なけなしの力と勇気を振り絞り立ち塞がった勇者に、大英雄の力が解き放たれ襲い掛かる。

 全方位に放たれた避けようのない光の波が全てを呑み込み、ストロンガーは目の前が真っ暗になった。











 暗闇から意識が、体が浮上する。

 気が付くとストロンガーは大地に穿たれた巨大なクレーターの中に立っていた。洞穴どころか山が丸ごと消え、雲が吹き飛び青空が見える。

 半ばガラス化したすり鉢状のクレーターにはアストラル=ライトが突き立っていて、その影からぬるりとハニャとイースが吐き出された。

 ストロンガーは呆気に取られた。


「……ハッ! やりやがる!」


 自身の思い違いに気付き、笑う。

 ニンジャは逃げていなかった。

 ここぞという時のために潜伏していたのだ。


 影に沈められ九死に一生を得たイース・ハニャ・ストロンガーの三人は、師が虚空を殴り、見えない何かを叩き伏せるのを見た。

 誰なのか見えないが正体は明らかだ。


 見えない何かが怒り狂う暴虐の化身の脚にしがみついている。

 魔王が飛び出していき、右腕にしがみつく。

 ストロンガーも遅れて飛び出し左腕を掴み、全力で抑えつけた。


 三人がかりで抑えつけても大英雄の足は止まらない。一歩一歩弟子達を引きずり、へたり込むイースに歩み寄っていく。


「んににににに………! 止まらないぃぃ! 強すぎる……!」

「先生、頼むから……! あの人にもきっと事情があるんだ!」

「マスター。弟子を殺ったら軽蔑する」


 三人の制止も懇願も虚しく、大英雄は哀れなイースの前に辿り着いた。

 魔王に髪を引っ張られ二の腕を噛みつかれながら、三度目の拳を振りかぶる。

 怒気だけで心臓が止まるような憎悪の目で睨まれながら、イースは儚く微笑んだ。


「教授。私、殺されてもいいです。でもその代わりに、私を覚えていて下さい。貴方の思い出の片隅に、ほんの少しだけでいい。どうか貴方を愛した一人の女を忘れないで」


 絶対的な死に直面したイースの遺言は、痛ましいほどに健気だった。

 こんなに悲しく、美しい涙をストロンガーは見たことがない。


 振りかぶられた拳が困惑したように止まる。

 殺す者と殺される者の視線が交錯する。


 長い長い、息が詰まる沈黙の後、師はようやく拳を下し、不機嫌に言った。


「話してみろ。事情とやらを」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
おー、散々話に出てた「大英雄」の力、想像以上です。 滅茶苦茶強い… そらエイリアンもビビりますわ。
[良い点] 最強師匠が見せた、かつての『大英雄』としての力が、 片鱗だけでも戦慄モノである事が十二分に伝わりました。 あと、イースに弁明の機会が与えられた事。 [気になる点] 弁明の機会が与えられて…
[良い点] 主人公が新たにサイバーな肉体を得て復活する展開、懐かしさがありますね。こっちは暴威を止められる側だけども。 [気になる点] テンポが良すぎて終わりが見えそうなとこ。終わらないでヤバ弟子!あ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ