28 強すぎてスマン!!!
イースが俺の体を作ってくれるらしい。
気持ちは嬉しいが、可能なのだろうか?
死んで幽霊になってからもちろん何度も復活を考えた。だが俺の現状は前例がなく、ゴーレム技術やキメラ技術による復活の試みもまた前例がない。
しかし死んでから幽霊になるという現象そのものは神代にはそこそこ認知されていた。
特別に強力な魂魄を持つ者……神々などは死んでから数秒間幽霊のように現世に残る。薄れ消えゆくその数秒間に最後の力を振り絞り遺言を残したりエイリアンに最後の一撃を見舞ったり、というのは何度も見てきた。
現代では勇者も同じように消滅前の猶予を得る事ができるだろう。
魔王は魂が弱いが、魄がそれを補って余りあるぐらいに強いから、たぶんやはり数秒幽霊になれる。
ニンジャは魂魄強度が足りなさそうだ。彼女の魂魄はバランス調整に重きを置いた壊れやすい芸術品のようなもので、死という衝撃には耐えられない。
幽霊に肉体を与え復活させる未知の技術開発に挑戦するなら、本音をいえば俺以外の誰かで実験したい。ぶっつけ本番なんてとんでもない! 失敗して肉体を得るどころか今の幽霊の半透明な体すら失ったらどうする?
友人を守る戦いで命を散らすならとにかく、実験失敗でポックリ成仏するのは嫌だ。
だが実験しようにも俺と同じような常在型幽霊はいないし、まさか貴重な対エイリアン戦力である勇者と魔王を殺して無理やり瞬間的な幽霊を生み出し実験に使うわけにもいかない。
ゆえに結論はやはりぶっつけ本番の一発勝負。
イースが俺の教えを十二分に生かし新境地を切り拓き、成功させてくれると祈るしかない。
俺がイースの提案を了承すると、どこか悲しげで緊張していたイースは途端に花咲くような笑顔を浮かべ大喜びした。
「やった! 教授ーっ! 教授っ、私頑張りますね!」
「お、おお。頑張れ」
感極まって俺に抱き着こうとしてすり抜けたイースに生返事をする。
なんだお前? そんなに俺の体を作れるのが嬉しいのか。最初は粘土をこねる手もおぼつかなかった子が立派になって……およよ。
ご機嫌でテンションの高いイースはしきりに俺の意見を伺いながら俺の体をじっくり作成していった。俺の体なのだから俺の意見を参考にするのは当然なのだが。
国に納品した人型ロボットゴーレムは好評で、イースはかなりの予算と設備、そして部下を与えられ更なる研究開発生産を命じられていた。成果如何では新しい部署を作ると約束されるぐらいには見込まれたようだ。
普通、新技術というものは問題だらけ不具合だらけ。利益が出るまでは赤字覚悟が当たり前。金はかかるし時間もかかる。
ところがイースのゴーレム技術は国が注目した時点で既に一定の完成の域にあった。現状でも十分に国家利益になるし、発展性十分。仮に何も進歩しなくても、量産体制を整え技術を広めるだけで国は豊かになる。
国としてはこんなに美味しい勝ち確の投資先も無い。一個人に対するものとしては到底有り得ない規模の国家予算がつぎ込まれている。
そしてその全てをイースは私的利用し俺の体作成につぎ込んだ。
とんでもねぇ奴だ。横領ってレベルじゃねーぞ! 偉い! 圧倒的感謝……!
イースは「魔王再来に備えた最強ゴーレムを作る」という大衆や国の心象が良いお題目を掲げているため、量産や技術伝授をガン無視してたった一体のゴーレム作成に全てを注ぎ込んでいても文句を言われにくい。
そうして最高品質の魔法金属を惜しみなく使い、俺の依り代である剣の欠片を埋め込み、人型ロボットゴーレムで蓄積した技術を生かし製造された俺のボディはアンドロイドのようだった。
耳が金属質だったり、瞳に魔法陣の模様が浮き出てしまっていたり、関節が球体人形のようだったり、体重は一般成人男性の三倍ぐらいあったりするが、肌の質感やら顔やらはほとんど生前の俺だ。
これなら生前と同じ戦闘力を発揮できるかも知れない。
そんな目論見はゴーレム作成二段階目、魂魄付与で文字通り吹き飛んだ。
俺がゴーレムボディに入り込み、イースが愛情を込めて付与を開始した瞬間、ド派手に爆発四散したのだ。
ゴーレムボディが内側から弾け飛び発した爆発の威力は凄まじく、新設されたばかりの国立ゴーレム研究所を早速廃墟に変えるほどだった。大事故である。イースも魔法が何重にもかかった防護服の上から爆発ダメージが貫通して何本か骨を折っていた(治療魔法で治った)。
国は仰天して事情確認と非難の声が鬼のように押し寄せてきたが、それを適当にあしらいながらイースは俺と原因究明に乗り出した。
ゴーレムは作成に失敗しても普通は爆発しない。そりゃあ体内に爆薬を仕込むとか、アルコールをたっぷり染み込ませているとか、最初から爆破前提で制作していれば爆発するだろう。
しかし今回作成した素体は特に爆発するようなものを使っていない。
それでも爆発したという事は、爆発エネルギーがどこからかやってきたという事。
ゴーレムの素体にそんなエネルギーはない。という事は原因は一つしかない。爆発エネルギーは俺の幽体から発生したのだ。
俺は今までずっと自分は全ての力を失った儚い幽霊だと思っていた。
しかし違った。爆発を起こせるだけの力がある。肉体があればエネルギーを出せる。
幽体は何の力も持っていないのではなく、力はあるが肉体がなくて発揮できないだけだったのだ。
そう仮定すると爆発も納得だ。
史上最強である俺の魂魄パワーをあの程度のボディで受け止められるわけがなかった。
ゴーレムの体が魂魄のエネルギーを受け止めきれず、溢れ出し暴走させた結果爆発を起こしたのだ。
研究所が吹き飛ぶ程度で済んだのは奇跡的幸運だった。俺の魂魄の強大さを思えば低く見積もっても首都が丸ごと更地になっていて当然なのだから。
爆発の原因は分かった。
強大な魂魄出力に耐えられるだけの頑丈な体を作れば俺は復活できるだろうという見通しも立った。
問題はその頑丈な体を作るステップだ。
国家予算をつぎ込んで集めた最高の材料を使っても強度が足りず爆発した。
頑丈な体を作ろうとしてもそもそも今以上の素材がない。
イースはゴーレムクラフターであって鍛冶屋ではないから、素材活用に長けていても素材開発は素人同然。
頭を抱えるイースに俺は言った。
「仕方ない。時間かけて材料をかき集めるしかないな」
「でも教授、教授の魂魄に耐えられる素材なんて」
「あるだろ。俺の剣の欠片は誰が作った?」
「? …………!」
イースがハッとする。
そう。現代に俺の魂魄を受け止めきる素材はない。
だが神代なら?
俺の肉体が燃え尽き消滅するほどの高温・圧力・衝撃を受けてすら俺の剣は欠片だけとはいえ残った。神が鍛えた剣はそれだけの頑強さを持つのだ。
神の遺産は俺の剣の欠片だけではない。俺の剣の欠片が残ったように、他の遺産も世界のどこかに必ず残っている。
それを集め、加工できれば、必ず俺の魂魄に耐える体を作れる。
「イース、神の遺産を集める旅に出よう。長旅になるから現地ガイドとか護衛とか荷物運び役も雇って万全に、」
「嫌です。あっいえ旅に出るのは喜んで! でも二人だけで行きましょう。ね?」
イースは笑顔で可愛らしく首を傾げおねだりした。
いや、なんで? 可愛いけどなんで? 二人旅っていっても俺は何もできない。ただの賑やかしだ。実質一人旅だぞ。
「いや、お前体力ないし護身の心得もないだろ。危ないから誰か信用できる奴を連れていって、」
「ヤです。二人だけがいいです」
「ええ……なんでそんなに二人旅にこだわるんだ?」
「二人旅がいいからです」
有無を言わさず二人っきりがいいの一点張りのイースに根負けし、俺達は神々の遺産を集める二人だけの旅に出る事になった。




