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25 俺バカだからよくわかんねぇんだけどよぉ

 俺を怖がるイースだったが、事情を説明し(エイリアンに備えるために)弟子を育てていると言うと途端に食いついてきた。


「弟子というとやはり魂魄技術の伝授をしているんですか?」

「まあそうだな。魔法とか剣技とか暗殺術とか」

「それは私にもできるのでしょうか」


 期待を込めて身を乗り出すイースを少しのけぞりながら観察する。

 イースの魂魄はみたところ小さく貧弱で雑然としていた。小動物よりは大きいが人間にしては小さい。双子や三つ子で生まれるはずが胎内で兄弟を亡くして生まれた未熟児や、屍術で他の生き物を合成された奴がこんな感じの魂をしている。マトモな生まれ方をしていないのが見て取れる。

 酒場の看板娘か踊り子か、といった整った容姿をしているが、本来なら怪物的な見た目をしていて当然の歪な魂魄だ。


 まあそのあたりは深く追求すまい。気にはなるが聞かれて楽しい話題でもないだろうし。

 大切なのは俺の弟子に相応しい素質を持っているか否か。


「できると言ったらどうする?」

「是非弟子にして欲しいです。私、魂魄技術を教えてくれるならなんでもします!」

「そんな簡単になんでもするとか言うな」


 小さく歪んだイースの魂魄はごった煮のようで、一見して弱そうに思えるが、絡み合いゴチャついていて深くまで見通せない。磨けば光る……かもしれない。

 うーむ。不安だが俺が視える奴は少ない。

 意気込みがあるならとりあえず教えてみればいいか。


「よし。これよりイースを俺の弟子とする!」

「ありがとうございます。ふふふ、これで私も……!」


 ウキウキなイースは病室に様子を見に来た医者にもう大丈夫だと告げ、診療所を後にした。

 これから彼女の修業の日々が始まる――――


 ――――と思いきや、始まらなかった。

 魂魄と肉体を鍛えるあらゆる試みにイースは熱心に取り組み、ものすごい勢いで空回りしたのだ。


 魔法、奇跡的無能。

 剣技、一生剣を握るな。

 暗殺術、下手くそ選手権世界一。


 他にも色々な戦闘術のいろはを教えようとするも全て散々な結果に終わった。

 イースは絶望的に戦いに向いていなかった。

 魂魄を鍛えよう、強くなろう、という心意気は買うが何もしない方がマシだ。


 どうも思考と体の動きに致命的な乖離があるらしく、思考・判断は早いのにそれに全然体がついてきていない。これでは何をやっても大成しない。


 と、なると。

 やはり彼女は後方支援が向いている。


 ハニャとストロンガーが前線兵士、ニニンが陽動攪乱と考えれば、イースが後方支援に着くのは合理的なバランスだ。後方支援は武器を修理するとか安全地帯を確保するとか怪我を治すとか物資を調達するとか、直接戦わずとも戦いの趨勢に大いに関わる重要な役どころである。

 エイリアン侵攻の時も鍛冶神が武具を造ってくれたから俺もあそこまで戦えたし、医神には何十回命を救われたか分からない。


 事実、イースはアレコレと修行の方針を決めるために戦闘術の触りを教えている間、非常にうまく立ち回っていた。

 イースは辺境の隠れ里から出てきたばかりだそうで、金もコネも持っていなかった。そこで酒場に潜り込み店長と交渉して壊れた柱時計を直す代わりに寝床を恵んでもらう。

 翌日からは酒場の客を相手になんでも修理屋をやってどうにかこうにか日銭を稼いでいた。


 イースは器用で賢く、どんな道具も小物も一瞬で構造を把握しあっという間に直してみせる。どこでそんな技を覚えたんだと聞けば「私のところではこれぐらい子供でもできます」と何気なく言った後にしまった! という顔をして口を押さえキョドりだしていた。

 どこかの研究施設から逃げ出した実験体か何かなのだろうか? 妙に世間知らずだったり、逆に変なところで物知りだったり、変わった言葉や概念を知っていたり、知識がチグハグだ。ますます正体が気になる。


 とにかく戦闘技能が壊滅していて、手先が器用で、頭がよいイースに俺はエンジニアを勧めた。

 イースが強くなれないなら、他者を強くするアイテムを作れるようになればいい。

 銃を握れば幼児でも大人を殺し得る。武器の良し悪しは戦闘力を大きく左右するファクターだ。


 魔剣の類は魂魄の関係で使える奴と使えない奴がいるから、理想を言えばエイリアンに通用するレベルの汎用科学兵器を量産できれば最高だ。科学兵器なら素質に関係なく誰でも使える。全人類が武装できれば戦力として申し分ないし、なんならイース自身がバトルスーツを着込むのだってナシではない。


 そうイースに力説すると、なんともいえない微妙な顔をされた。


「私はバカなのでよく分からないのですが」

「うん?」

「敵兵器を鹵獲解析転用するのは戦争における常套手段です。教授の仰る科学兵器を製造してもエイリアンの生産能力に追いつけませんし、性能も劣るでしょう。この星で科学を発達させる間にエイリアン側も科学を発達させていくわけですからね。必然的に科学力で追従し生産力で負け、勝ち目がありません。翻って魂魄をリソースとした技術体系及び兵器はエイリアンに解析されにくいこの星特有のモノですから、科学技術ではなく魂魄技術を基軸にした自律行動しかつ自己増殖する兵器を開発するのが良いと愚考します。

 どうでしょう?」

「…………」


 スラスラ一気に喋ったイースにしばらく理解が追いつかなかった。

 お前がバカだったら本物のバカがバカ過ぎて泣いちゃうぞ。


「あのな」

「はい」

「俺、バカだからよく分かんねぇんだけどよお。それはつまり勝手に増えて魔法と剣技を使うロボットを作るのがいいって事か?」

「いいえ違います。科学技術ではなく魂魄技術を基軸にした自律行動し」

「分かった大丈夫だ理解した。俺が悪かった」


 言いたい事はよく分かった。その通りだ。

 エイリアンの科学に対抗するにはやはり魔法でなければならない。


 決めた。イースにはゴーレムクラフターになってもらおう。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] イースのエイリアンへの帰属意識の有無。最強さんがイースを取り込むのか、イースが同族を選ぶのか。
[一言] いつも更新ありがとうございます。
[良い点] みんなのトラウマ枕詞! [一言] この世界強いと顔も良いのか 最強さんが顔面も最強な所以わかっちゃったな
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