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10 彼の父の名はストロンゲストらしい

 この世界の生物はすべからく魂魄を持つ。

 この魂魄のうち魄を鍛える事で肉体的な強靭性を得られる。大魔王ハニャは魄の鍛錬によって力を得た強者の筆頭に数え上げられる。

 そして魂を鍛える事で魔法的な強靭性を得られる。呪いや魔法への耐性獲得、魔力増大、魔法威力効果上昇などなど、魔法の基礎は全て魂にある。どれほど強力で多様な魔法を覚えていても、魂が貧弱だとカスみたいな威力にしかならなかったり、不発に終わったりする。


 魄と剣技の鍛錬に集中していたハニャと異なり、ストロンガーには魂と魔法の訓練も施していく。体育と座学を同時に進めるようなものだ。大変だろうが頑張って欲しい。俺も頑張って教えるから。

 差し当たっては大前提として魔法とは何ぞや、というところから確認しておく。


「ストロンガー、魔法を見た事は?」

「え、もしかして馬鹿にされた? あるに決まってるだろ」

「どんな魔法だった?」

「どんな……えーと、火を出したり、ケガを治したり、凍らせたり。あとは、土を石に変えたり、水を薬にしたり」


 ストロンガーは指折り数えて思い出しはじめた。

 ふむ。聞いた感じでは原始的な種類の魔法が多い。ハニャから薄っすら聞いてはいたが、やはり神代の魔法の大部分は失伝してしまっているようだ。


 この世界の魔法は、習得・行使にある種の共生生物が欠かせない。魔法石とか精霊石とか、御神木とか呪術品とか、色々な呼び方をされる魔法触媒だ。動物、植物、菌類に次ぐ第四の生物群でもある。

 これらの魔法触媒は大抵鉱物か植物の姿に擬態していて、近くを通る生物の魂から魔力をほんの少しだけ吸い上げ栄養にして生きている。魔法触媒は自力では移動できず、思考能力も無いに等しい。そのあたりも鉱物や植物に似ている。だから見分けにくいのだが。


 この魔法触媒を肌身離さず身に着け持ち歩いていると、触媒と魂の間に魔法的な結びつきが出来上がっていく。植物が土に根を下ろすように、触媒と魂が繋がる。

 すると魔法触媒は魂に憑りつき魔力を吸い上げる代わりに、摩訶不思議なパワーを提供してくれるようになる。

 魔法触媒は魔力という栄養を得る。持ち主は魔法を得る。ギブ・アンド・テイクの共生関係というわけだ。


 魂が強ければ強いほど、つまり魔法触媒が根を張る土壌が肥えているほど魔法は強力に育っていくし、肥沃で広大な土壌(魂)は多種多様な魔法触媒を養い維持できる。

 だから魔法の基礎は魂の鍛錬にある。痩せた小鉢の土で大樹は育たないから。

 魔法使いとして強くなろうと思ったら魔法触媒から得た魔法パワーをそのまま放出するのではなく、巧みに操る技術も必要になってくるのだが、基礎となる魂の鍛錬に比べれば重要度は低い。


 ストロンガーには少しずつ魂を鍛え、ゆくゆくは俺の魔法を覚えて欲しい――――つまり俺がかつて使っていた魔法触媒の子孫を活用して欲しい。

 神々が、神代の人々が育て上げた魔法触媒は現代の魔法触媒より強力で複雑な能力を持つ。魔法触媒の質は良ければ良い方がいい。


 魔法触媒も生物だから寿命がある。彼らはだいたい百年ほどで老いて死んでしまうから、繁殖させて次代の触媒に代替わりさせる必要がある。魂と共生してすくすく育った触媒は強く、その子供は親よりも優れた素質をもつ。だから何世代にも渡って共生関係を繰り返した触媒は、野生の触媒よりもずっと強い。

 俺が生前使っていた触媒はとっくに寿命で死んだかエイリアン戦争で失われたが、一部はこの昏き森で野生に還りしぶとく世代交代を繰り返し生き伸びている。数世代の間共生関係が途切れ弱体化してしまっているが、それでもまっさらな天然触媒と比べると段違いだ。魔王との、その先のエイリアンとの戦いを見据えるなら俺の触媒を活用するのが必須といっていい。


 ただし俺の触媒は魔力を凄まじく吸い上げるため、魂を鍛えてからでないと使えない。

 さもなくば慢性的な魔力枯渇、魂の恒常的疲労により最悪廃人になる。

 まずは全ての基盤となる魂を鍛えつつ、簡単な魔法触媒で扱いやすい魔法を覚えるところから始めよう。


 ……というような内容をストロンガーに説明したが、見事なチンプンカンプン顔をしていた。

 そりゃそうだ。こんな話をいきなりされても分からない。とりあえずなんとなーくうろ覚えで頭の片隅に幻のように残ってくれればいい。そうすればあとでもう一度聞いた時に「なんか聞いた事ある~!」と思い出せば脳の記憶野が刺激され効率的に学習できるから。って前世で中学校の先生が言ってた。


「よし! じゃ、ここからは分かりやすくいこう。さっそく強くなるための修行を始める」

「! 待ってた!」


 ゴーストゆえに音のしない手拍子をして話題を切り替えると、気の抜けていたストロンガーの目が輝いた。

 うむ、うむ。素直でよろしい。


「修行は三つだ。ひとつ、飯を食う! お前痩せてるから筋肉つけろ。これから成長期だ、背も伸びるだろう。ふたつ! 毎日鉄剣振って魄を鍛える。最低でも連魄剣士にならんと魔王と戦いにならん。三つ! 毎日夢の中で魂を鍛えろ」

「…………?」


 最初の二つは元気よく頷いていたストロンガーだが、三つ目で首を傾げた。


「わか……った! 俺、強くなる!」

「いや分かってないだろ。分からなかったら聞いていいんだぞ。魂はな、本当なら生死の境をさ迷うのが一番鍛えられるんだが」


 魂を鍛えるには魂に関連する事をするのが一番だ。

 生まれて魂が生じる時に爆発的に成長するし、死にかけ、つまり魂を失いかけると大きく育つ。だが人は二度生まれる事はできず、死にかけるとうっかり本当に死ぬ。


 そこで魂訓練の主軸を占めるのが夢だ。

 夢は古来から生と死、この世とあの世の境界にあるとされている。特にこの世界では今は亡き夢の神と死の神がマブダチだったから尚更結びつきが強い。

 夢の中では瞑想をし、起きている間も瞑想をして半分夢の中に入りその中で瞑想をする。瞑想をしながら瞑想をするのだ。一に瞑想、二に瞑想。最初はワケが分からなくなるが、やっている内にコツはつかめる。

 それで魂は育つ。優れた魔法使いは瞑想慣れしているから、落ち着いて冷静な奴が多い。あるいは慌ててもすぐに平静に戻ったり、普段は情緒不安定なのに戦闘に入った瞬間に心が凪いだり。精神修練にも有効だ。


 俺が説明すると、ストロンガーは納得したようだった。腕組みをして頷く。


「ああ、確かに叔父さんもよく目を閉じてじっとしてたな。瞑想してたのか」

「覚えがあるなら話は早い。じゃあ、その叔父さんを思い出して真似してやってみろ。変なところがあったら指摘する。瞑想してる間に飯と他の修行の準備をする」

「座って目を閉じればいいんだよな。眠くなりそうだ……」

「それでいい。眠くなったら寝ろ。起きたまま瞑想するよりも夢の中で瞑想する方が効率が良い」

「瞑想しながら寝て、寝たら寝ながら瞑想……?」


 ストロンガーは積もった落ち葉の上にあぐらをかいて座り込み、困惑しながらも瞑想を始めた。が、貧乏ゆすりが出ているし呼吸も不規則で森のざわめきや小鳥の鳴き声に反応して体が動いている。露骨に集中できていない。

 まあ誰でも最初はこんなもんだ。段々良くなっていくだろう。


 育ち鍛え訓練を積み上げた先が魔王に届くかどうかはストロンガー次第。

 頑張れ、少年。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 夢の話が出てくるところ 夢の神と死の神がマブダチ
[一言] 普段は情緒不安定なのに戦闘に入った瞬間に心が凪いだりって、そうしないと生き残れなかったやつでしょ絶対。修行が厳しすぎてまともな日常生活送れなくなった結果ですよねそれ。 勇者ストロンガーの明日…
[一言] 魂魄が宿る器が肉体。主人公は魂だけの存在。魂魄じゃなくて魂だけというのは、魄は肉体を活性化させるものだから、主人公の魄は肉体が燃え尽きた時に消えてしまったのだろうか。魂はこう……別次元に存在…
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