01 ヤベー大戦争の、その後に
熱中症で死んだ俺は異世界に生まれ変わり、剣と魔法のファンタジーな世界に歓喜した。
幸い俺には剣と魔法の才能があったし、前世の色々な知識の応用も効いた。
だからあれやこれやと剣技や魔法を習得し、霊薬を開発し、暗殺術を編み出して、やりたい放題やっていた。強くなり、できる事を増やしていくのは純粋に楽しくて、無限の自己強化に夢中になった。
やがて俺の人類を超越した力は神々にすらも認められ、完全に調子に乗った。
天下無敵の大英雄。
神話の収束点。
神より出で神を超える者。
この世界に敵はない。
戦を司る最強の神にすら勝ったのだから、それは自惚れでもなんともなく、客観的にも正しかった。
だが、その頃のイキって得意絶頂の黒歴史な俺は単純な真理を忘れていた。
上には上がいる、という真理だ。
その真理は文字通り「上」からやってきた。
星の海を越えた宇宙から。
そう。宇宙人の襲来だ。
どうして考えなかったのだろう?
異世界にも星空はあった。
星空があるなら星がある。
星があるなら宇宙がある。
何千億もの星々の中には人智を超えた超科学文明を築いた宇宙人もいるだろう。
その宇宙人が侵略してくる可能性はゼロじゃない。
前世――――21世紀の日本でもそういうSFは山ほど書かれていた。
超科学兵器。宇宙戦艦。エイリアン。
それが現実にならないとどうして言えるだろう?
巨大な宇宙船に乗り唐突にやってきたエイリアンの攻撃の第一波で、星の全生命の99%が失われた。
完全な奇襲で地上は焼け野原になり、海は煮えたぎり、空は毒々しい紫に染まった。
運よく災厄を免れた僅かな人々を守るため、俺は神々と肩を並べ侵略者と戦った。
……正直に告白すると、戦端が開かれた当初、俺はまだ油断していた。
神々がエイリアンという存在を、概念を理解できず混乱しているところに、ドヤ顔で「アレは簡単に説明すると別の世界からやってきた別の人類で~」などと講釈を垂れる余裕すらあった。
神々が知らないエイリアンを俺だけが知っている。最高の優越感だ。
神々も俺を頼りにしてくるから、そりゃもう調子に乗った上に図に乗った。
先陣を切って、意気揚々と、世界の救世主気取りで。
エイリアンの宇宙戦艦に殴り込みをかけた。
しかし伸びきった天狗っ鼻は間もなくへし折られた。
エイリアンの攻撃は半端ではなかった。素粒子分解光線やら四次元跳躍移動やら、俺の防御や感知をすり抜け致命傷を負わせる必殺クラスの攻撃を乱打してきた。
異世界に生まれ変わって初めて敗北と死の危機を鮮烈に感じ、俺は恐慌状態に陥って逃げようとしたのだが、星全域が攻撃されていたため逃げ場などどこにも無かった。
戦う以外に道はなく、死に物狂いで戦い続けた。
無我夢中だった。
戦友となった神々が一柱また一柱と斃れる中、俺は何度も死にかけながら戦い抜いた。
不幸中の幸いなのは、神々がエイリアンの超科学を知らなかったように、エイリアン側にとっても神々や俺の存在が未知だった事だろう。
パワードスーツもなくナノマシンも使わず、AIの概念すら理解できない原始的で未開の生命体が、「魔法」「剣技」とかいうワケの分からない謎パワーで自分達の発達しきった文明に抵抗している。簡単な作業で終わるはずの殲滅侵略が一向に終わらない。
エイリアンにも焦りがあった。恐怖があった。超新星爆発にも耐える最強の特殊合金を切り裂く剣士や、光速の砲撃を避ける神々に怯えていた。
戦争終盤に捕縛に成功した捕虜に尋問したところ、そういう認識だったらしいという事が分かった。
戦争はエイリアンの母艦の自爆特攻で幕が引かれた。地表に向けて母艦で突っ込んできたのだ。自由落下と大質量に加え、ブースターエンジンの加速もある。直撃すれば星の生命は一片も残らず消し飛ばされるだろう。
またしても逃げ場はなく、迎撃するしかなかった。
しかし今度は「仕方なく」ではなく「自分から」そうした。
血なまぐさい熾烈な戦争の中にも色々あった。
心のどこかで見下していた神と心から友達になった。
恋愛もあった。
喧嘩もした。
戦友と肩を組んでしこたま酒を飲み、馬鹿みたいに笑い合う事だってあった。
そして誰も彼もがエイリアンのせいで消えていった。
だから。
クソエイリアンどもには何が何でも負けねぇ。
そう思った。
全てを背負い、俺は大陸に巨大な影を落とす宇宙戦艦を独り迎え撃った。
それは人の身で星を滅ぼす力を相手にするに等しくて。
俺の肉体はあっという間に擦り切れ燃え尽きた。
それでも、死してなお魂だけになっても抗い続け……
大陸に宇宙戦艦の残骸が落ち巨大なクレーターができたが、人類は、生命は生き残った。
最後の戦艦特攻でエイリアンは全滅した。
俺は勝ったのだ。
それで俺の物語は終わるはずだったのだが。
どっこい、話は終わらない。
どうやら俺は強すぎたらしい。
体が無くなっても魂だけで存在できてしまったのだ。神ですら死に際に数秒残響のように残るだけで精一杯だったのに、俺は永続的に現世に残留できた。
幽霊になったのだ。
これは世界終末宇宙人侵略戦争のその後の物語。
そして元・世界最強のゴーストの俺と、その最強の弟子たちの物語だ――――