バッドエンド:ハッピーエンドの手前
なぜか、幼い姿で始まった生は上手くいった筈だった。
悪役令嬢を始末さえしてしまえばいいと思っていた。
能力は上手く扱える。
両親など意のままだ。
恐ろしいものなど無いと思っていた。
自分の都合にいいから、勘違いしていた。
痛みが身体を焼くように軋ませる。
思考は上手くまとまらず、恐怖だけが、この身をただ走らせた。
あの時、そのまま死ねていたらよかったのに。
あまりの恐怖に何度、そう願ったことか。
あの日、事が上手く運んだものの事件が露呈するまでは良かった。
その先がないと分かっていても、ダイヤは積もりに積もった鬱憤を晴らしたかった。
醜く老いていく中で迎えに来ない息子を恨んで過ごした日々は、あまりに長かった。
このまま、終わるなんて嫌だった。
生まれ直すことすら、夢なのではないかと思う時を過ごしてきた。
それが起きた時には、いつもよりも幼い姿に戻っていた。
念願の生まれ直しだった。
「やっぱり、神様はわたしの味方なのね!!!!」
何故、納屋に汚い格好で閉じ込められているのか分からないが、ダイヤはすぐに人を呼んだ。
久しぶりに使う能力は、あの若い時のように遺憾なく発揮された。
使用人を上手く使い、帰宅した夫妻に怒鳴りつけられそうになりながらも場を掌握するのは簡単だった。
たった一言だけでいい。
「わたしを愛して!」
夢にまで見た世界にもどってきた。
何でも叶う。
わたしは世界に愛されてる。
望めば、叶う。
今なら、何だって許される。
久しぶりの全能感に酔いしれていた。
悪いのは、すべて悪役令嬢のせいだと思い込んでいた。
なんで、どうして?
息切れしながらも叫ぶ。
「わたしを愛してよ…ッ!お願い…!!!」
暗闇の中、黄金の瞳が嗤う。
どこから、狂ったんだろうか。
必死に小さな足を走らせながら、思う。
最悪のルートにハマってしまった。
頭の片隅でファンブックの内容が走馬灯のように流れる。
最初から、詰んでいたんだ。
わたしの世界じゃなかったんだ。
絶望感に打ちひしがれる余裕もなく、鼻歌まじりに足音は近付いてくる。
「お願い…、助けて、ごめんなさい…ッ!」
神殿にいた頃は、死んだって言うつもりがなかった言葉が嘘のように口から滑り出てくる。
それでも、許してもらえるのか分からず、ただ駆ける。
彼を止められる存在は自分が殺してしまった。
その時、ようやく謝っても許されないことを思い知ったのだ。
それでも、恐怖から言葉は止まらなかった。




