24.隣で微笑むのは
幼い令嬢が、同じ年の令嬢に殺害された。
それだけでも恐ろしいのに、それを引き金に殺人事件が続いた。
「世も末だな」
ぼやくように言う商人に青年は微笑みながら、商品を注文する。
商人は新聞を手元に置き、青年に軽く謝りながら商品を売り渡した。
青年は、あまり文字を読むのが得意ではないから
料金を支払うから新聞の内容を教えてくれないかと言う。
それ自体、特段めずらしいことでもなかったので商人は笑顔で応じる。
他人の不幸は蜜の味、そう、それは、いつだって変わらないことだ。
商人は簡潔に事を話す。
ジェダイト公爵が自死したので、王家の保護下で幼い公爵子息が責務を負うことになったという。
青年が他の家門たちの干渉はないのか問うと、商人は呪われてんだよとぼやくように肩をすくめた。
本家の先代自体、早くに亡くなっている。
誰が、公爵子息を保護下に置いて実権を握るかと思えば関係者が全部死んじまったんだ。
それは不気味ですねと青年が言えば、同意するように商人は眉をひそめる。
「殺されたんだよ、猟奇殺人鬼にな」
妻側の家門であるトルマリン本家当主夫妻が、子息にとって叔母にあたる娘と公爵家に向かう途中に惨たらしい死を迎えたのだと、商人は苦い顔のまま言う。
夫妻は揃って目を抉られ、叔母は舌を生きたまま切られたらしい――――。
公爵令嬢が亡くなっただけでも大変なのに当主クラスがバタバタ死んだもんだから、だれも家督を継いでやろうという身内がいないようで、王家の保護下になったらしいぞ。
商人は、ここだけの話と言わんばかりに小声で言う。
更に付け足すように、公爵令嬢を殺害した少女の行方もわからないとか、と教えてくれる。
悪い人ではないが、商人はいつも噂好きだなと青年は心の内で思いながら静かに感謝の言葉を告げた。
「いつもありがとうございます」
青年は、そう告げて立ち去った。
「毎度~」
商人はにこやかに応じ、見送る。
青年が人混みに紛れて見えなくなると、商人は誰に言うでもなく呟いた。
「…初めて見たお客さんだと思うんだがなぁ……」
まあ、気のせいかと新聞をふたたび手に取った。
雲の上の話は、あまりに遠くて近くにいる人間が、そうだとは思わない。
「あんな綺麗なヘリオドールのにいちゃんだからなぁ…」
美しい顔立ちの黄金の瞳を持つ青年だ。
対して、自分はどこにでもいるような野暮ったいジジイだ。
悲しきかな、にいちゃんの勘違いなのは間違いない。
にしても使用人姿で子供くらい入りそうな麻袋抱えて、更に追加でお使いなんて大変だな、と他人事のように思いながら、明日は我が身と考えを切り替える。
「しかし、物騒な事件だよなぁ」
しばらくは、貨幣の動きも鈍くなるだろう。
商人は新聞を読み込みながら、次に仕入れる商品を慎重に決めねばと目を光らせた。




