21.事件の顛末
願いは重ねるほどに原型を失う。
何度、重ねたところでそれは叶わなければ意味がない。
5度目の始まりは、すぐに終わりを告げた。
公爵家に忍び込んだ幼い少女が屋敷の令嬢を刺し殺したのだ。
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ある春のうららかな日だった。
事件は、招かれざる客である男爵家の来訪から始まる。
「当家の使用人を返していただきたいのです」
そんな不思議な話をする男爵夫妻に執事は問うた。
「その使用人の名前と特徴をお伺いできますか?」
「黄金の瞳をしたヘリオドールと呼ばれる10代後半くらいの青年です。逃げ出してからは数年経過していますので今の外見は把握しておりませんで…」
当然、執事は困惑した。
だが、詳細かつ的確に述べられた使用人像に近しいものがいたため、事情を聞くために当該の使用人を呼び出した。
「いいえ、そのような事実はございません。私は孤児でしたので」
「そうですか。ですが、あまりにも貴方を知っているのです。顔合わせだけでもお願いできませんか?」
「…分かりました。ですが、私だと言われも困ります。帰る場所もお嬢様のところだけです」
本人に身に覚えがないにしても、あまりに事細かに使用人を把握しているため、男爵夫妻に警戒した執事は警備を呼び寄せるように他の使用人に指示を出す。
「他にも似た瞳色をした使用人を集めましょう。面通しということで、貴方は一度表には出ずに確認のために残ってください」
執事の指示に従い、迅速に人が集められた結果、惨事が引き起こされました。
本館よりも警備が薄かった別館は、この件により警備がほぼいない状態にまで陥りました。
また、黄金の瞳に似た使用人集めに際して、本館別館関係なく人が集められたために使用人も同様にいなくなりました。
建物の周辺の警備に影響はなく、強固な警備ではありましたが、内側の警備が手薄になっていたのです。
男爵家の御者は、公爵家の馬番や警備の者と居ましたので本来であれば問題ありません。
ですが、馬車の中にもうひとり、男爵令嬢が乗っていたのです。
男爵令嬢、ダイヤは男爵夫妻にこう言ったのです。
ジェダイト公爵令嬢の使用人の情報を知っている。上手くいけば、引き抜けるはずだ。
上手くいかなくても、私がその間に公爵令嬢と仲良くなってくる。
欲深い男爵夫妻は娘の話を疑うことなく、話に乗っかりました。
もし、それが嘘でも娘の戯言として済ませてしまえばいい。そう考えたのです。
そうして男爵令嬢は、手薄になった館内を歩き回り、別館の主である公爵令嬢に対面したのです。
「みつけた」
もちろん、ダイヤは公爵令嬢と仲良くする気がありません。
何か話したかもしれません。
ただ、私は何も知りません。
お嬢様が無残に刺し殺された以外は。
血まみれで歩くダイヤを別館に戻る使用人が見つけたのをきっかけに事件が発覚しました。
駆け付けた時には、お嬢様はすでに息を引き取っていました。
男爵夫妻もこんなことになるとは思っていなかったのでしょう。
「娘を連れてきていたとは知らなかった」
詳細は警備が話を聞くと男爵夫妻とダイヤを連れて行きました。
男爵夫妻は当然、使用人の中に自分がいないことも何もかも気が付けませんでした。
「どうして、こんな…」
今度はお嬢様の兄であるフローライトが茫然としています。
今更と乾いた笑いが出ないよう注意しながら、クロムの名を出します。
医師ですら把握していたのに、どこまでも関心がなかったのが窺えますね。
「ごめん…。アリシア、本当にごめんな」
ただ、謝るだけに何の効果がありましょう。
呆れながらも、思い直します。
けれども、それがお嬢様の望んだ幸せの形だと。
やがて、駆け付けた父親である公爵にフローライトが悲痛な叫びを上げました。
「お父様は、アリシアを愛していなかったのでしょうか?」




