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続 バッドエンド:過ちと偽りの糸


あの日、“最高の子供”をつくろうと考えたのは本当に天啓だったのだろうか。


5歳になる息子からの贈り物のブレスレットをなでながら、アウィンは思った。

学園に入学したころの自分は、血統至上主義に嫌気がさしていたはずだったことをふと思い出したのだ。希少なベニトアイトの瞳をした、自分によく似た息子はその出自がなければ、本当に完璧な子供だった。


いつの間に血統にこだわるようになっていたのだろうか。


そう考えるほど、思考の坩堝(るつぼ)にはまっていく。

初めて、ダイヤに出会ったころ、少なくとも私は彼女が何者であってもかけがえのない存在だと思っていた。


彼女との子供なら血筋など関係ない。

そう考えていたはずなのに。


「わたしを選んで良かったでしょ?幸せでしょう!」


そう微笑む彼女に笑い返せなくなっていたのは、いつからだろうか。


あの日、生まれていたはずの我が子こそ、それこそ生まれてきてくれただけで“最高の子供”だったのでないだろうか?



瞬間、今までが噓のように歪んだ思考が晴れていく。


「ねえ。みんな羨ましそうよ。わたしが傍にいるんだもの。当然よね?」

他の生徒を嘲りながら、ダイヤは当然のように言う。


「わたし、誰よりも幸せでいたいの!世界中で一番幸せなお嫁さんにしてくれるよね」

幸せそうな顔で、ダイヤはアウィンに願う。


「子供かあ…、きれいな瞳の子供が生まれたらいいな。素敵な青い瞳の、誰もが羨むような最高な瞳の子供が…!ねえ、アウィンもそう思うよね!わたしは絶対そうなってほしいの!」

膨らむ前の小さな腹を撫でながら、ダイヤが残酷に笑う。



違う。そんなことない。そんな言葉はこぼれることもなく消えた。

思考は縛られ、それ以外の望みは絶たれた。

そんな感覚だったのだ。



「……ダイヤ?」


不意に、いつも魅力的だったはずの妻の思い出が曇った。

代わりに愛らしい顔をした子供はにこやかに告げた。



「お父様、魔法は解けましたか?」

魅了という精神干渉は、時として人を縛ることがあるらしいですよ。

子供らしくない笑みを浮かべて、息子はすべて見透かした瞳で、こちらをただ見ていた。



✂---------------------------



男爵家から異例の公爵夫人への成り上がった少女(シンデレラ)は、本物じゃなかった(ニセモノ)らしい。


男爵家の貧相な少女は、その輝かしい瞳と器量の良さで次期宰相に見初められた。

稀代の恋物語として一世を風靡した少女の容姿は、作り物の紛い物(まがいもの)だった。


そんな話が(ちまた)を独占するのは早かった。


ある日、アウィン・タンザナイト公爵は何の前触れもなく発表したのだ。

6年ほど前に行方不明になった元婚約者を攫ったのは自分だと。


ややあって、神殿の協力で明らかになったのは、妻であるダイヤ夫人に精神干渉の能力があるということだった。


すべての精神干渉、いわゆる洗脳状態から解放されたアウィン・タンザナイト公爵は懺悔した。

元婚約者に自身の子を産ませ、監禁し、実子を殺めたということを。


『至高の青』は、誘拐したアリシア・ジェダイト嬢の子であるということを。



公爵は、妻であるダイヤ夫人を神殿へ引き渡し、息子であるベニトアイトを後継に指名した後、間もなく罪の意識から逃れられずに自死したそうだ。


ダイヤ夫人は最後まで神殿へ行くのに抵抗したらしく、何度も『自分は悪くない』と叫んでいたそうだ。夫人の父である男爵が勝手にやったことと言え、成人を超え、子を持つ母だ。同情は最初の内だけ、子供のような発言をするべきではないと今は批判されている。


なにせ、夫である公爵が自死しても発言内容が自分のことだけだったらしい。


ただ一つ、不可解なことが一つだけあった。



「公爵令嬢が見つからないんですか?」

「ああ、監禁されていた形跡はあるのに、本人がどこかに行ってしまったのか、跡形もなく消えてしまったらしい。不思議なもんで、実はすでに死んでて幽霊だったんじゃないかって話さ!おっと、世間話が長引いたね。はいよ、商品だよ!!」

青年はお礼を言いながら、渡された紙袋を受け取る。


「…きっと今頃、幸せに暮らしていますよ」

「ハハ……、だといいねえ!」

苦笑いする商人に、青年はまたよろしくと告げる。


「きっと、次はもっと…、もっと早く」

黄金の瞳に仄暗い光を灯しながら、青年はつぶやく。




「もっと幸せに…」


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