バッドエンド:偽りの妻と蜘蛛の糸
残酷な表現があります。
アウィン・タンザナイト公爵は、その日やっと過ちに気が付いた。
妻は学園で出会った当時男爵令嬢だったダイヤだ。
王子を含めて多くの男を魅了した可憐な少女、ダイヤは私を選んだ。
血統至上主義を掲げているだけあって、妻との結婚は大変な道のりではあった。
だが、それを上回る優越感が自分にはあったのだ。誰からも求められただけあって、妻ダイヤを連れて歩けば羨望の眼差しで見られ、あのダイヤが妻だと言えば誰もが悔しがった。
低い爵位の出であっても、彼女の名と宝石の瞳は有名だった。
血統が悪くとも希少な瞳を持つ彼女との子供であれば、何も問題無い。
アウィンはそう考えていたのだ。
子供の瞳が開くまでは。
妻との間に儲けた子供の瞳は、一言で言えば“雑種”だった。
可もなく不可もない薄汚れた青の瞳、公爵家の長子には相応しくない瞳を持った子供の顔はおぞましく、醜かった。
その場で子供は死産とした。
死産した子供との血縁関係はあったため、不貞などではないことが分かった。
血統上、自分には問題ない。あるとすれば、妻だ。
美しい妻といえども、所詮は平民に近い男爵家だ。
そんなこともある。そう自分に言い聞かせたものの、不安を抑えきれない。
つい出来心で妻の実家を探れば、あっという間に答えが見つかった。
本来であれば、瞳の遺伝は両親からの影響が強く出る。
祖先返りなどは、ほとんど稀だ。希少な分、反映される瞳の色は素晴らしい色合いの者が多い。
故に、希少な瞳同士の婚姻は望まれる。
しかし、ダイヤの瞳は模造品だった。
祖先返りのはずの“ダイヤモンドの瞳”は、偽りだったのだ。
もはや、ダイヤに興味はない。
妻として、今までと変わらず公爵家の体面を保ってくれればいい。
それよりも強烈に思考にちらつくのが元婚約者のアリシアだ。
パライバ・ジェダイドの娘であるアリシアは、トルマリンの他家の瞳色を反映しやすいという特性を受け継いでいる可能性が高く。何より、当時の『至高の青』と謳われた人物の娘だ。
欲しい。
ダイヤを手に入れ、羨望の瞳で見つめられる今を手放せるわけがない。
それこそ、ダイヤはニセモノだったなど言えるはずもない。
ならば、“最高の子供”をつくるだけだ。
アリシア・ジェダイトを誘拐するのは容易かった。
行き遅れてしまった令嬢、しかも冷遇される立場の令嬢だ。
警備は甘く、脆い。
常に傍にいる執事の隙をつき、令嬢をさらう。
子を成すだけの行為を強いる。
暗闇でも煌めく美しい瞳に陰りが差す。
アリシアを抱くと、不思議なことに妻に優しくなれる。
上手く事が運んでいるからだろう。
公爵家はアリシアの失踪に動き出す様子もなかった。
アリシアが孕めば、妻に妊娠の診断を医者に出させた。
妻の妊娠時期を誤魔化す為だ。幸いなことに、妻もすぐに妊娠した。
アリシアが子を産めば、妻には出産を促進させる薬を服用させた。
その時は、妻の危険を考える理性は微塵も残っていなかった。
栄養をろくに取れなかったアリシアは、歩けなくなるほど弱ったが生き残ったし、妻は子供を流産したが無事に“公爵家の長男”を抱くことができた。
眩しくも青く澄んだ瞳、ダイヤモンドを思わせる虹色の輝きを放つ息子の瞳は完璧だった。
ダイヤの息子として、そして血統至上主義の公爵家としても。
まさに『至高の青』に、相応しい瞳だった。
誰もが羨む、最高の息子、のはずだった。




