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バッドエンド:浪費家の妻


気の弱い女性を妻にすると、いつの間にか騙されて、それを言わずに隠して、発覚して指摘すれば泣き出して話にならず、結局金のない独身男になる。


反対に気の強い女性を妻にしたら、意見に耳を貸し、尊重し、何事も妥協と労りを持たなければいけない。そして、嫁に逃げられる男は、全てが出来てない狭量な男だと蔑まれる。



耳にタコができるほど聞いていたはずの戒めを今更思い出すのはなぜだろう。

元婚約者を死なせてしまった。その罪から逃げ出すことは許されない。


ささやかな結婚式をダイヤと挙げ、逃げるように国境線の警備隊に志願した。

贅沢をしなければ子供も望める程度の給金だ。遠征が多いのがネックだが規定の5年を耐えれば、王都にも戻りやすくなるだろう。


そうした楽観的な考えがいけなかったのだろうか。

それとも、芯が強いと思っていた少女が思いのほか優柔不断だったのがいけなかったのだろうか。


「ダイヤ、どういうことなんだ」

家中に貼られた“差し押さえ”と書かれた臙脂(えんじ)色の張り紙、その意味は分かっている。なぜそうなったのかがガーネットにはわからなかった。


「え~と、なんでだろ」

こんなはずじゃなかったのに、と頬をかく。申し訳なさそうに謝るが、反省の色は見えない。どうにでもなると思っているような態度に段々、腹が立ってくる。


「投資でお金が増えるはずだったんだけど、騙されたんだと思う。その、商人と連絡が付かなくなってしまって…、今行方を捜してるから、お金を返してもらえればなんとかなるから!」


「……それだけで、差し押さえまで行くわけないだろう」

安易に希望を語る妻に苛立ちを覚える。


聞けば、上手い投資話を断り切れないうちに商人が持ってきた商品があまりに好みで毎回許容範囲を超えて買い物をしてしまったらしく、支払いが滞りがちになった際に投資話を受けるように誘導されてしまったようだった。


どう考えても、投資話はおまけだ。金額自体が大きくなく、リスクも少ない。

ただ、主人に聞かないと返事を保留してしまった結果、商人の訪問を許してしまい、並べられた商品への誘惑に勝てずに多大な借金をしてしまったのが原因だ。


しかも、金貸しも商人の紹介だというではないか。

分割で月に決まった分だけ返済してくれれば良いとあまりに都合のいい提案にのり、莫大な利子を抱えてしまったのだ。転がり続けた雪だるまが雪崩に変化するように、負債はあっという間に増え、決壊した。


何より頭を抱えたのが、本人であるダイヤがどうしてこうなったのか分かっていないことだった。

使用人が間に入って説明してくれ、ようやく分かったのだが、ダイヤは投資が悪いとだけ思っていて利子のことを全く把握していなかった。

それどころか、我が家であれば、謝れば返済できると思ってすらいる。


「無理だ」

「どうして!!」


元婚約者、アリシアの死を以って、両親との縁はほぼ断絶されているも同然だった。

貴族令嬢としての矜持、少なくとも公然と辱めを受けたことなど、内密にされなければならない。それが死者が守られる権利だ。


それがどこからか漏れ出した。


両親は言った。

アリシアの死も冒涜も、原因は私たちのせいだと。


妻は両親が結婚を許してくれたと考えているが、事実は異なる。

きっかけとなったダイヤ以外との婚姻を認めなかったのだ。もちろん、当時はダイヤ以外と結婚する発想もなかったために仕方がないことだと、両親との関係を諦め、辺境の地に旅立ったのだ。


それ以外にも、ダイヤはあまりに自由すぎた。


アリシアの従者を連れてきて雇用したり、見目麗しい男性がいれば、婚約者の有無を問わずに距離を詰めた。アリシアの死後もそうだ。


いくら、問題があったと言えど、幼いころから共に過ごした婚約者だったのだ。

葬式での扱いも厳かであるものの、喪主が公爵本人ではなく、アリシアの叔母のクロム・トルマリンだ。


言語化しがたい感情に苛まれている事もあった。

そうした時、ただそっとしておいてほしかった時期があったのだ。

ダイヤを好きでなくなったわけではない、愛しているがアリシアの死を今は悼みたいと告げた時にダイヤが返した言葉は「私の方がもっと辛い」だった。


愕然とした。

感情の程度ではなく、自分のことしか考えていないであろうダイヤに。


その時から、この愛情は少し冷めていたのだろうか。


言い訳ばかりのダイヤに、耐えがたい怒りが沸いてきた。


「お前のせいだ!」

ぽかんとするダイヤを目もくれず、ガーネットは怒鳴り続ける。


「アリシアが死んだとき、両親は俺たちを見限ったんだ。自分たちで賄えと言っていただろう?こんな情けない理由で借金の申し込みをして受け入れてもらえると思うか?爵位は他に、破産申請だけして平民になるしかないんだ」


「そんなの貴方がお願いすれば分からないでしょ!」

ダイヤは離すまいとしがみついてくる。

触れられたくない。なんとか引き離そうとするが力が籠められないからか引き離すことができない。


「無理だ!!破産申請しても、借金はいくらか残る。それこそ、両親を頼っても今更どうしようもないほどの額だぞ?!国家予算並みの借金をつくっておいて何を恥知らずなことを言うんだ!!」


「だから、やってみなきゃ分からないじゃない!言い訳ばかりして何?騙されたの!わたしは被害者なのよ?労わるばかりか怒り出すなんて最低よ!!夫なんだから、なんとかしてよ!守ってくれるっていったじゃない!嘘つき!」

胸元を叩きながら、尚も罵倒を続けるダイヤは悪鬼のようだった。

せめて、もっと真摯に謝ってくれたらと思いながら怒りで血が上ったまま、ダイヤをいなすように振り払った。


「黙れ!開き直るな」


思ったよりダイヤが軽かったのか、それとも力が入りすぎていたのか、突き飛ばされる形でダイヤが倒れる。ガンと鈍く重い音が響くと共にうるさかった妻が静かになる。


「………ダイヤ?」


妻からの返事はなかった。



✂---------------------------



幸せなはずの恋物語は、最悪の形で幕を下ろした。

男爵令嬢だった女性は侯爵夫人になり、そして夫婦喧嘩の末に頭を強打して死んだ。


気の弱い妻が家を没落させ、怒った夫と揉み合いになり、突き飛ばされた妻が死んだそうだ。

もう二度と、この恋物語は人々の話題に上がらないだろう。

代わりに教訓として夫婦生活の方は話題に上るだろうが。


悪役令嬢と言われた公爵令嬢の従者も侯爵夫人の部屋の中、夫人の日記の前で自死したそうだ。


日記は読めたもんじゃないが、悪役令嬢という書き込みがあったようで

当時の事件すら侯爵夫人の仕業だったんじゃないかと言われている。


ああ、不思議なことにその従者は昔と変わらず子供の姿のままだったそうだ。






洗脳を上回るほどの失望というか絶望

「私の方がもっと辛い」

恋の麻疹(洗脳付き)も冷めちゃいます

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