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15.悪魔の証明


「それを証明できる者はいるのかい?」

やわらかい問いかけ、けれど内容は容赦がない。


「君が突き飛ばした瞬間を見たものがいないように、アリシア・ジェダイト嬢、貴女がやっていないと証明できる者もいないわけだね」

シトリンはため息をつくように言う。困ったようにしているが、その実、この話を切り出した時点で終着点は決まっているも同然だった。


「はい、左様でございますわ。殿下」

アリシアの返事にシトリンは悩むようにうなりを上げる。


「わたくしはあくまで助けようと振り向いて手を伸ばしたのです。すぐ後ろで声がしたものですから」

「しかし、被害者の声を無視することもできない。また、実際にその瞬間を見たものがいない。いずれにせよ、ジェダイト嬢が学園にいるのは難しいと思われる」


それでも学園に通いたいかい?とシトリンは優しく語り掛けてくる。

疑問のままに素直にシトリンに可能なのか問い返せば、シトリンは緩く首を横に振るだけだった。


「アリシア・ジェダイト嬢、確かに私はダイヤ嬢と親しいが、判断は何事も公正を期すべきだ。どちらかに肩入れするのではなく、双方の意見、周囲の証言、実際の状況などを鑑みて誠実に事態にあたるよう努めている。ただ、実際のところ、すでにジェダイト嬢の分はかなり悪いのではないか?」


「……………ええ」


「両家に婚約をどうするか確認したところ、継続の意思を確認できた」

驚くことばかり告げるシトリンにアリシアは静かに驚愕する。


「ガーネット様は…「あくまで友人として、だそうだ」


シトリンは、そのまま両家はアリシアに平穏無事に過ごしてほしいこと、ダイヤ嬢の事故の事実はともかくとして、どのみち同じ空間にいることが難しいこと、アリシアの学業進捗が卒業可能な域にすでにあることから、総合してアリシアを一度修道院へ花嫁修行として送り出すことが決まったと告げた。


「わたしは友人としての分別は理解しているが、本人の自覚がないものだから(たち)が悪い。ダイヤ嬢も傍観している分には面白いが、程度を見極めてこちらで都度注意して淑女として改めてもらう予定だ。アリシア嬢には、迷惑を掛けるがもしも()()()()()()()()()()()()()()()貴女の安全上、修道院の方が良いと判断された。それに神への奉仕に休みはない。御実家へ帰らないで済むのでないのかな」

何らかの形で処罰を受けると思っていたばかりだったのに、シトリンの提案はそれ以上だった。


「また、今回に限り従者を一名随行させること」

いたずらっぽく笑うシトリンにアリシアも微笑み返した。


「殿下の御意向のままに」


「…だが、結果としてアリシア嬢には汚名を着せてしまうことになった。もし、アリシア嬢が潔白なのであれば、貴女には負担を掛けてしまうことになり、その点は申し訳なく思う」


「いいえ、むしろ、これで良かったのです」

アリシアは微笑んだ。



✂---------------------------



悪役令嬢が追放された。



学園を超えて、平民まで広がるラブロマンスの締めくくりは王子とヒロインの幸せではなく、悪役令嬢の無残たらしい死を朗々と伝えた。



悪役令嬢が追放された。


ヒロインである男爵令嬢を殺めようと階段から突き落とした公爵令嬢は、王子から追放を命じられた。

残念なことに婚約関係を継続したままだった。


ただ、神は悪を許さなかったのだ。



悪役令嬢が追放された。


追放された公爵令嬢は修道院へ向かう途中、賊に襲われ、その身を辱められ、命は助かったものの普段から恨みを持っていた従者に首を掻っ切られたそうだ。


悪役令嬢が追放された。


なんでも、家畜のように扱われた黄金の瞳を持つカラスのようにみすぼらしい少年の復讐だったそうだ。


悪役令嬢が死んだ。

少年は復讐の喜びに悶えて、狂ったように泣き笑ったそうだ。



悪役令嬢が死んだ。

その少年を哀れに思った心優しい男爵令嬢が引き取りを申し出て、今は幸せに暮らしているようだ。いやぁ、心優しく美しい男爵令嬢…、今は侯爵夫人か。羨ましいね。


悪役令嬢がいない。

ん?公爵令嬢の話はもうないのかって?あるにはあるが、聞きたいのかい?

物好きな人だね。なんでも、巷で流行っている恋物語とは別に勤めていた使用人からは慕われていたようだ。嫁にするには持って来いの気の強さと賢さを持った宝石の名のない哀れな少女だったそうだよ。


悪役令嬢はいない。

つまらないだろう?そんなことはないってか。商売をしていると噂話が虚実入り混じるからね。

幅広く話自体は集めるのだが、いかんせんウケが悪いもんだから…。


悪役令嬢はいなかった。

…ペリドットの瞳を持つ人柄の良い少女だったそうだよ。従者の少年も主人である令嬢を敬愛していて、主人の命令で令嬢を殺めたそうだ。自死は絶対悪だからね。天国に行けなくなってしまう。


悪役令嬢はどこにいる。

あれから何年も経ったというのに、従者の少年は健気に主人の恋敵に仕えているようだが、それこそ、いつ寝首を掻かれることやら…。おっと、長話だね。お使い、ご苦労様です!


悪役令嬢は、そこにいる。

この辺でおすすめの商会?そうだな、何か相談するなら少し小さめだが、スーフェン商会かな。シンハライトさんは、義理を重んじるし、何より『褐色のペリドット』と言われるくらいだからね。お客さんと同じように公然としてないが公爵令嬢を悪だと思っていないんだよ…。

まあ、オレが知っているくらいだからこそ、商会が小さいままなんだがね。


悪い奴には天罰が当たるべきだ。

うん?新聞の記事かあ、シンハライトさんが伝手を持っているはずだ。なんだかんだ、顔が広くて好かれる人だからね。場所は大通りの…、あ、場所は分かるかい。へへ、どーも毎度御贔屓にー!



綺麗なヘリオドールのおにーさん、また来てくれよな!



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