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1.忌まわしき夜




また、悪夢の夜がやってくる。



「アリシア・ジェダイド、今この場を持って貴女との婚約を破棄させていただく!」


シトリン王子が、アリシアお嬢様に向けて断罪の言葉を放つ。赤みを帯びたオレンジ色の瞳には憎悪の色を滲んでおり、この発言が覆ることはないことを悟った。


王子の傍には、淡いピンクブロンドとダイヤの瞳が持つ少女 トリプレット・ダイヤ男爵令嬢が縋り付くように立っていた。


安堵と優越感が隠し切れないのか、少女の持つ扇の隙間から弧を描く唇が覗き見える。


なんと愚かなのだろうか、隠し切れない悪意の塊が確かに横にいるのに王子は気付きもせず、それを美しいだけのダイヤだと思い込んで、それを愛でているだなんで…。


「……シトリンさまっ」

ダイヤ嬢が豊満な胸を腕に押し付けて、王子の名を呼べば、王子は少女を優しく抱きよせ、幸せそう表情で彼女を見つめている。その親密さが何よりも醜悪で尚且つ許しがたい光景だった。


お嬢様への裏切りをこうも平然と披露する彼らの頭の悪さと、結局のところ阻止をすることも出来ない不甲斐なさを痛感させられるからだ。



また、何の罪もないお嬢様を殺そうとするのか…。

アリシアお嬢様は、2人の様子をただただ哀しそうに、そしてどこか羨ましそうに見つめていた。


御可哀想なお嬢様、必死に王子の心を離すまいと努力し守ってきた居場所をあのような売女にあっさりと奪われ、捨てられてしまった。本来の正当な権利さえ持たせて貰えればこのような屈辱を味わわず、彼らを退け、別の人生を歩むことだって出来たのに…。


思わず、身体に力が入ってしまうが既に拘束されたこの身ではどうしようもなかった。

王子の側近の騎士が、か細いお嬢様の腕を無遠慮に掴み、強引にねじ伏せる。

淑女に対し、なんて無礼な行いなのだろうか。


しかし、未来が変わりようないなら彼にとって当然の行いであり、決定事項に等しいと言うことだろう。今更、弁明など聞きたくないと切り捨てるのだ。


「離しなさい……。シトリン殿下!!」


抵抗するごとに美しく整えられた蜂蜜色の髪が乱れていく。

金色を帯びた鮮やかな黄緑の瞳が絶望に塗りつぶされていく。


卒業という祝われる日のための大切なドレスが踏みにじられていく。


やがて、王子は膝を屈した公爵令嬢の姿に満足したのか、くだらない罪状を朗々と語り始めた。

同じだ。どれもこれも同じだ。あの女の楽園が完成されていく。

お嬢様を引きずり落として、何度も何度も何度も…悪魔のような女だ。



やがて、王子が一際声を張り上げて言う。

嫉妬のあまりに未来の王妃を害そうとした、と



では、今までのお嬢様は一体何者であったのだろうか?


未来の王妃は、守られなければならないと言うならば

婚約破棄するまでのアリシアお嬢様は守られて当然の

大切な存在だったのでないだろうか。



他の女に寵愛を奪われるような惨めな想いも


泥舟と遠巻きにされ、孤立していくことも


努力が足りないと叱責されることも



お前が“未来の王妃”を守ってくれれば

大事にしてくれれば



それだけで良かったのに





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