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演劇脚本 セメタリー  作者: しろ
1/1

ある父親

登場人物


アサダ・・・タクシードライバー

キタムラ・・・サラリーマン

さくら・・・ホステス

ヒロシ・・・キタムラの息子



      1 車内①


 夜、街中、キタムラがタクシーのドアを叩く。こんこんこん。

 眠っていたタクシードライバーアサダが目を覚ます。


キタムラ  いいかい?

アサダ   おっと、どうぞ、どうぞ。


 タクシーに乗り込むキタムラ。なぜか汗だく。あせってるようだ。


キタムラ  やっと捕まえた。

アサダ   金曜日だからね。

キタムラ  中央病院まで頼む。

アサダ   中央病院ね!よし来た!


 地図を取り出して、位置を調べ始めるアサダ。


キタムラ  何やってんだ?

アサダ   ええと、病院の位置は・・・。

キタムラ  そんなことも知らないのか?ここをまっすぐだよ。

アサダ   なんだ、そっか。へへ。お、お客さん、運がいいね。帰り道だ、安くしとくよ。

キタムラ  急いでるんだ。金額なんてどうでもいいからさっさと出してくれ。

アサダ   はいよ。


 タクシーを発進させるアサダ。


アサダ   飛ばすぜ。


 ぶおん!と大きな音がする。


キタムラ  うおおっ。

アサダ   しっかり捕まってな!

キタムラ  あ、安全運転で行ってくれ。事故ったら元も子もない。

アサダ  (ハンドルを切りながら、道の上の障害物をさけつつ)うおっと!


キタムラ  ああ!前!


 車を停めるアサダ。急ブレーキ音「キキー!」


アサダ   危ない、危ない。電柱にぶつかるところだった。慣れないことはするもんじゃないね。

キタムラ  俺の話を聞けー!

アサダ   へっへ悪い悪い。

キタムラ  安全にすばやく行ってくれ。

アサダ   はいはい。でもこんな時間に救急病院なんて。腹でも痛いの。

キタムラ  実はさっき息子が車に轢かれたって警察から連絡があったんだ。

アサダ   そりゃ、大変だ。息子さん何歳?

キタムラ  9歳だ。

アサダ   こんな時間に交通事故?

キタムラ  塾の帰り道でね。

アサダ   はあ、こんな時間までねえ。最近の子供は大変だ。助かるといいね。

キタムラ  大丈夫だ。意識ははっきりしているし、怪我もないそうだ。頭を打ったから念のため検査しているだけだ。

アサダ   わかんないよお。子供はね、コロッと死んじゃうから。

キタムラ  縁起でもないこと言うな!

アサダ   悪い悪い、でも心配だね。

キタムラ  そう思うなら早く行ってくれ。

アサダ   はいはい。


 再び車を走らせるアサダ。


アサダ   交通事故と言えば、この仕事やり始めたばっかりの頃はよく事故ったなあ。

キタムラ  こんな時に、止めてくれ。

アサダ   子猫ひき殺しちゃった時はびっくりしたよお!

キタムラ  だからそういう話は・・・。

アサダ   今はその猫と暮らしてるんだけどさあ。

キタムラ  ん?

アサダ   え?

キタムラ  今、なんて?

アサダ   いやあ、猫って可愛くてね。俺がいないと寂しがってにゃあにゃ あ、鳴くんだ。


ハンドルを切るアサダ。


キタムラ  おい、なんで曲がる。病院はまっすぐだって言っただろ。

アサダ   え!・・・あー、いやー、・・・こっちの方が近道だから。

キタムラ  うそつけ!完全に間違えただろ。

アサダ   ほんとほんと。さっきの道、いっつも混んでんの。結果的にこっちがいいから。たぶん!

キタムラ  たぶんってなんだ。こっちは息子の命がかかってるんだぞ。

アサダ   大げさだねえ。別にあんたがいったって、死ぬときは死ぬよ。

キタムラ  だから縁起でもないこと言うなって!

アサダ   お母さんは?一緒にいるんでしょ。

キタムラ  ・・・妻は別れて暮らしてる。

アサダ   あらー、別居?

キタムラ  ああ。

アサダ   じゃあ、今お子さん一人かあ。

キタムラ  カオリには・・・妻には連絡済みだから、もう病院についてるころかも。


キタムラの携帯がなる。携帯に出るキタムラ。


キタムラ  カオリか?いや、俺もまだだ。お前だってまだだろう。連絡を受けてすぐタクシーを拾って急いで向かってるんだ。何だと?俺の責任?ふざけんな!


電話を切るキタムラ。


アサダ   今の奥さん?

キタムラ  ああ。

アサダ   だめだよ。仲良くしなきゃ。夫婦円満なら家ん中はいつだって明るいんだから。(といってハンドルを切る)

キタムラ  あんたには関係ないだろ。っておい、なんでまた曲がるんだ。

アサダ   大丈夫だって。ちゃあんと道わかってるから。・・・ん?

キタムラ  どうした?

アサダ   行き止まりだ。(車は徐行になる)

キタムラ  ほら見ろ!

アサダ   暗いなあ、なんだここ墓場じゃねえか。おい見ろよ。あんなところに女が立ってるぞ。


 道端で立っているさくらが右手を大きくあげている。


さくら   へい!タクシー!

  

 タクシーが停まる。キキー!


さくら   あー、よかった。迷子になってたんだよね。

アサダ   奇遇だな。こっちも迷子だよ。

キタムラ  なんだって!

アサダ   姉ちゃん、どこまで?

さくら   すすきののー「クラブジプシー」まで!

アサダ   あー、すすきのねー。ちょっと待って、今地図を。

キタムラ  知らないのかよ。

さくら   とりあえずあっちの道に出ればわかると思うんだけど。

アサダ   じゃあ、ユーターンしなきゃ。乗んな。

さくら   やったあ。


 さくらがタクシーに乗りこもうとする。


キタムラ  へ?


 さくらを止めるキタムラ。


キタムラ  ちょ、ちょっと待て、なんであんたが乗ってくるんだ。

さくら   だってこれタクシーでしょ。タクシーじゃないの?

アサダ   タクシーだよ。

さくら   タクシーに乗っちゃ駄目って法律でもあるの?

アサダ   ねえよ。

キタムラ(さくらだけに)あのな、お姉さん、このジイさん、ちょっとモウロクしてんだ。さっきから言ってることおかしくて。

さくら   そうなの?

キタムラ  ああ、札幌の地理も全然わかってないし、ひき殺した猫と一緒に暮らしてるとか言ってるし。

さくら   ああ、ボケてるのね。可哀想。

アサダ   聞こえてるぞ!

さくら   耳はしっかりしてるね、おじいちゃん。

アサダ   おじいちゃんじゃない、俺にはねえアサダっていうりっぱな名前があってだなあ・・・。

さくら   あたし、さくらー!

アサダ   よろしくさくらちゃん。

さくら   よろしくアサダさん。

アサダ   ほら、何まごまごしてるんだ、さっさと乗んな。

キタムラ  だーかーらー、まだ俺が乗ってるだろ!

さくら   相乗りしましょ。

キタムラ  タクシーで相乗りがあるか。

アサダ   外国じゃ普通だよな。

さくら   うん。

キタムラ  ここは日本だ!

さくら   細かいこというと女の子に嫌われちゃうぞ。


 タクシーに乗るさくら


キタムラ  あ!

さくら   レッツゴー!

アサダ   出発進行ー!すすきのってどっち?

さくら   あっち!


 タクシーは再び走り始める。


キタムラ   中央病院に行かないなら、俺は降りるぞ!停めてくれ。

さくら   あなたさあ、人の話をちゃんと聞かないって奥さんから言われな い?

キタムラ  俺の話を聞けー!降ろせー!

アサダ   奥さんと別居中なんだって、その人。

さくら   あー。やっぱり。

キタムラ  なあにがやっぱりだ。別居してるのは妻が浮気をしたからで、俺は何にも悪くないぞ。

さくら   浮気されたんだ。うけるー。

キタムラ  俺の話はどうでもいい。それよりなんで今すすきのに向かってるんだ。

アサダ   細かいこというなよレディーファーストだろ。

キタムラ  俺は緊急事態なんだ。

さくら   さくらだって緊急事態よー。今月あと一回遅刻したらお給料減給されちゃうんだから。

キタムラ  こっちは息子の命がかかってんだ!

さくら   どういうこと?

アサダ   このお父さんの子供、交通事故で病院に担ぎ込まれたんだとさ。

さくら   うっそ。子供、死ぬの?

キタムラ  死なない。命に別状はないそうだ。

さくら   あ、私、さっき黒猫見たよ。

キタムラ  だからー。

アサダ   なんだか嫌な予感がするなあ。

さくら   でもあなたが行ったからってお子さんが助かるかどうか関係ないよね。人間、死ぬときは死ぬのよ。

キタムラ  なんだこいつら。ちくしょうもういい!


 ドアを開けて突然タクシーから飛び降りるキタムラ。

 転がり落ちるキタムラ。キキーと音を立ててタクシーは停まる。


アサダ   危ないよお。

さくら   びっくりしたー。

キタムラ  うぐううう。

さくら   車から飛び降りたら危険だって学校で習わなかった?

アサダ   あー、これ足やっちゃってるね。

さくら   うわー、いたそー。真っ青になってるしー。

アサダ   さくらちゃんさあ。なんか添え木になりそうなもん探してきてよ。

さくら   ええー。面倒な人だなー。


 さくら、一旦去る。


アサダ   あんたさあ、人間やけになったらおしまいだよ。自殺は駄目だよ。

キタムラ  自殺じゃない。降りたかっただけだ。誰のせいだと思ってるんだ。

アサダ   降りたいならそう言えばいいじゃないの。

キタムラ  何回も言っただろ。

アサダ   どれどれ?見せてごらん。あーあ、こりゃ折れてるかもね。(足を 触る)

キタムラ  いてー!

アサダ   あ、これ痛い?これは?(楽しくなっていろいろ触る)

キタムラ  ぎゃー!


 さくら、戻ってくる。


さくら   こんなのしかなかったよ。

アサダ   なんだこりゃ。エロ本じゃねえか。まあいいか。


 アサダ、くるくると本を丸めて添え木代わりに足にくっつける。


アサダ   これでよし。立てるか。

さくら   ほらー、手を貸してあげるから。

キタムラ  いたた。

さくら   うわ、酒くさ。

アサダ   病院行ったら見てもらうんだぞ。

さくら   ここどこー?

アサダ   創世通りだな。すすきのまであと十分くらいだけど、どうする?

さくら   もういいよ。ここまでやってんだから、病院行ってあげよ。

アサダ   そうすっか。


 一同、車に乗り込み、再び車は走り始める。


アサダ   ラジオ、つけてもいいかな。

キタムラ  好きにしろ。いてて。


 音楽が流れる中タクシーは走る。痛そうなキタムラ。


さくら   仕方ないなあ。さくらのひざ貸してあげる。


 さくら、キタムラを引き寄せ頭をひざにのせる。ひざ枕するような格好になる。


さくら   息子さん、なんて名前なの?

キタムラ  ヒロシ。

さくら   そっか、息子さん思いのパパなんだ。

キタムラ  ヒロシだけが心の支えなんだ。

さくら   でもさでもさ、あんたはそんな小さな子放っておいて、こんな時間までなあにやってたのかなあ。

キタムラ  仕事だ。

さくら   そんな酔っ払って?

キタムラ  接待だ。世の中にはそういう仕事もあるんだ。

さくら   そら、さくらだって知ってるさ。でもさ、そういう仕事を選んでるのは、あなた自身でしょ。あなた名前なんていうの?

キタムラ  キタムラ。

さくら   キタムラさん?キタムラッっちって呼んでいい?_

キタムラ  ふん。

さくら   なにがおかしいの?

キタムラ  結婚する前、妻からもそう呼ばれてた。

さくら   あら、光栄。

キタムラ  言うことも妻と同じだ。何にもわかってない。俺は家族のために身を粉にしてだな。

さくら   そういうの自己満足っていうんだよ。

アサダ   父親失格だな。こういう親が最近多いんだ。


 電話がかかってくる。


キタムラ  会社からかも。

さくら   出ようか?

キタムラ  頼む。

さくら   アサダさん、ラジオ消して。

アサダ   はいよ。

さくら   あー、もしもし?誰?あたし?あたしさくら。何よ。わめいてちゃわかんないわよ。あんた日本語しゃべりなさいよ。キタムラさん?今、私のひざの上にいるけど。

キタムラ  誰だ?

さくら   わかんない。なんかすごい大声でわめいてる。

キタムラ  電話の画面を見ればわかるだろ。

さくらえーと、「カオリ」。

キタムラ最悪だ。貸せ!もしもし、カオリか?どうした?泣いてちゃわからん。もう病院ついたのか?なんだって。


 電話を持つ手を下ろすキタムラ。


アサダどうしたの?

キタムラ・・・ヒロシが死んだ。



つづく

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