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登録と夕食

「ああ……もうこれ以上ないくらいに、予想通りの展開じゃん」

 俺達がギルドの建物に入った途端、物凄いどよめきが起こり、その場にいたほぼ全員が立ち上がったのだ。

 そしてそのほぼ全員の手に武器が構えられていた。

「もうやだー! だから怖いって!」

 俺がそう叫んでマックスの首にしがみつくと、さっきとは違う、驚きのどよめきが起こった。

「あれ、従魔なのか?」

「ってか、一緒にいるのってハスフェルじゃないか!」

「ええ! どうなってるんだよ?」


 あちこちから驚く声が聞こえる。

「はい、注目!」

 大きな音を立てて手を叩いたハスフェルの大声に、一瞬にしてその場が静まり返る。

「この場でまとめて全員に紹介するぞ。彼はケン。ご覧の通り、超一流の魔獣使いだ。ここにいる魔獣達は、全部彼の従魔だぞ」

 いやいや、紹介してくれるのはありがたいけど、超一流は言い過ぎだって!


 背後で慌てる俺に構わず、ハスフェルは周りを見回して大きく頷いた。

「って事だから、よろしくな。以上」

 おお、ハスフェルの言葉に、皆武器をしまってくれたよ。

「ほら、とっとと手続きをしてしまえ」

 振り返ったハスフェルに背中を押されて、俺は空いているカウンターに向かった。

「ええと、登録をお願いします」

 ギルドカードを差し出しながら言うと、座っていた若い男性スタッフが目を輝かせて両手でカードを受け取った。

「お待ちください。すぐに手続き致します」

 そのままカードを持って後ろにいる別の人に渡す。受け取ったその男性が裏返したカードを手元の箱の中に挿し込んだ。

 あれってレジとかによく置いてある、ポイントカードを更新する機械みたいだ。

「はい、お待たせしました。お返し致します」

 差し出されたカードを受け取り、裏返してみる。その裏面を見た瞬間に、俺は小さく吹き出した。

「まんま、ポイントカード状態じゃんか……」

 持っていたカードの裏には、今までレスタムのギルドの名前があって、俺がギルドに認められた冒険者である事や、上位冒険者であることも書かれていた。

 そう、綺麗にバランスよく書かれていたその文字が変わっていた。

 ギルドの名前の部分は、レスタムとアポンの名前が併記されていて、その下部分に、俺が各ギルドから認められた上位冒険者だと書かれていたのだ。

 ポイントが増えたら、印刷された文字が変わるやつ。本当にまんまアレだよ。


 感心して小物入れにカードを戻した俺は、立ち上がりかけて慌ててもらった割引券を出した。

「あの、ギルドの宿泊所って借りられますか?」

「はい、もちろんです」

「あ、俺も一部屋頼む」

「何日泊まる?」

「どうだろう? とりあえず五日ぐらい頼んどけよ。追加するならまた頼めば良いだろう」

 背後からハスフェルがそう言い、頷いた受付のお兄さんは書類を取り出して俺達に渡してくれた。

「後ろの従魔は、全部貴方の従魔なんですよね?」

 俺達が、申込書に記入している間に、隣に座っていた別の受付嬢が恐る恐る尋ねてきた。

「ええ、そうですよ。あ、でもこの子はハスフェルに譲った子なので、彼と一緒の部屋に行きます。二人とも出来たら庭付きの部屋をお願いします」

 俺の説明に、またしても背後からどよめきが起こる。

 何だよ、まだ注目されていたのかよ。

  って事で、それぞれ五日分の宿泊費を支払った。


 宿泊代は、レスタムと同じだった。一人一泊銀貨一枚で、従魔はマックスとニニ、シリウスの三頭分は追加でそれぞれ一匹に付き銅貨一枚。うん、良心的な値段なんだろう……多分。

 もう気にしない事にして、書き終えた書類を二人分まとめて、向きを変えて返す。

「ご丁寧にありがとうございます」

 両手で受け取って、サインをして横にあった箱に入れる。

「では、宿泊所にご案内しますので彼についていってください。本日は、ご登録頂きありがとうございました」

 満面の笑みの兄さんに見送られて、お礼を言って立ち上がった俺達は、今度は無言の注目を集めながら案内役の別の男性に付いていった。



「おお、ここも良い部屋じゃん」

 案内された部屋は、広い庭のついた一階の部屋だった。ハスフェルの部屋は右隣だ。

「じゃあ疲れたし、晩飯にするか」

 案内の職員が出て行くのを見送って、俺は水場を確認しながらこっちの部屋に付いてきたハスフェルを見た。

「ああ、どうする? それなら外へ食いに行ってもいいぞ」

「良いのか?」

 また大注目を浴びる事になるんだろうけど、確かに疲れたから出すなら作り置きだって思ってた。

「たまには外食も良いな。じゃあ行くか」

 床に転がっていたニニの鼻先を撫でてやる。

「眠そうなところを申し訳ないけど、出掛けようぜ」

「ええ、お留守番してちゃ駄目なの?」

 面倒臭そうなその返事に、俺は笑ってニニのもふもふの頬をそっと掴んだ。

「この街の奴らに、ニニやマックス達が、どれだけ可愛くて大人しい良い子か見せてやりたいんだ。協力してくれるか?」

 すると、横になっていたニニとタロンは嬉しそうに起き上がった。

「それは大事な事ね。分かった。もちろん協力するわよ」

「良い子にしてればいいのね」

 って事で、また全員揃ってすっかり日の暮れた街へ出て行った。



 大通りに出た途端に、予想通りの大注目を集めたが、俺達は気にせずハスフェルの後について、のんびりと歩いて行った。

「ハスフェルはこの街に詳しいのか?」

「ああ、二、三年に一度は必ず来てるな。だけど、地上から来たのは久し振りだ」

 ん? 今、ハスフェルのやつ、不思議な事言ったぞ?

「地上から来ないでどうやって来るんだよ? 馬車で来たとかそう言う意味か?」

 驚く俺に、ハスフェルは笑って街の奥の方角を指差した。

「まあ、それは明日のお楽しみに取っておけ。夜が明けた時の、お前の反応が楽しみだよ」

 街灯はついてはいるが足元を照らす程度で、全体にはかなり暗くて、確かに街全体が見える程ではない。

「何か違うのか? まあ、レスタムよりはかなり大きな街みたいだけど」

 道も広く、人もそれなりに多い。飲食の店はまだあちこち営業している。

「ここなら多分入れると思うんだけどな」

 話していて到着したその店は、すごく大きな建物で、かなり繁盛してるようだ。中から大勢の、賑やかで楽しそうな声が聞こえてくる。

「ちょっと待っててくれ。店主に確認して来る」

 シリウスを俺の横に座らせて、ハスフェルが店の中に入って行った。

「外に机や椅子が無い。って事は、高確率で無理な気がするなあ」

 レスタムの街での従魔を連れての外食は、一軒を除いてほぼ全滅だったのを思い出し、俺はちょっと悲しくなった。

「まあ、こいつら全員店に入れて良いって言われたら、確かになあ……俺、そんな事言われたら、感動して泣くかも」

 笑ってそう呟き、もふもふのニニの首に抱きついた。

 ああ、この柔らかいもふもふは、やっぱり俺の幸せの元だよ……。


「じゃあ、感激して泣いてもらおうか」

 いきなり聞こえた声に、俺は飛び上がった。

「良いってよ。ほら入れよ。ここは魚が美味いんだ」

 驚く俺の背中を叩いて、ハスフェルはシリウスを連れて店の中に入ってしまった。

「ええ、本当に良いのかよ。待てって」

 慌てて俺も、マックスとニニを連れて後を追って店に入って行った。

 あちこちで、俺達を見て驚く奴はいたが、誰も騒ぎもしなければ、剣を抜く奴もいない。

 それどころか、興味津々でこっちを見ている人達が何人もいる。

 良かった。どうやら、受け入れてもらえたみたいだ。


 安心した俺は、ようやく落ち着いて店内を見回す事が出来た。

「へえ、これってフードコートか屋台村みたいな感じだな」

 目に入った店内の様子に、俺は思わず呟いた。奥の左右の壁二面に、小さな間口の店が何軒も並び、真ん中部分は、沢山の机と椅子が並べられていた。

 平然と中に入ったハスフェルは、空いている端の方の机に向かい、机の横に、シリウスを座らせた。

「何してる。こっちへ来いよ」

 呆然と見ていた俺に手を上げて声を掛ける。

 慌てて机に駆け寄り、同じようにマックスとニニを向かい側の席の左右に座らせた。

「この店は、どれでも好きなものを買ってきてこの席で食えるようになってる。代金は品物と引き換えだから金を持って行けよ」

 おお、まんまフードコートか屋台村だった。

 頷いた俺は、鞄に入れていた小銭入れにしている巾着を取り出して、まずはぐるっと店内を見回した。


「へえ、焼き魚がある。あ、こっちにはご飯っぽいのがある!」

 どこの店も料理を大量に店に並べていて、注文されたら、そのままお皿に乗せるスタイルらしい。

 マックス達を座らせておいて、俺は料理を選びに行った。

 俺が向かったのは米の専門店っぽい店で、右端の大きな皿には、炊いた米とおぼしき白い粒々が、おにぎりのように丸い団子状になって並べられていた。

 その隣は、どう見てもおこわっぽい。木の実みたいなのが入ってるのもあるし、他にも、混ぜご飯風のものや、中華ちまきみたいなのも並んでいる。

 店の前まで行って、俺は心の中で盛大にガッツポーズを取った。


 よし、米を見つけた!


 そう、この世界で食事をする時に、実はいつも、密かに米が食いたくて仕方がなかったのだ。

 まあ、パンがあるんだから、どこかに米っぽいものもあるだろうとは予想していたが、これ程早く見つかるとは思わなかった。

 店員に声を掛けて、少し話を聞いて、全種類盛りってのを頼んでみた。

 要は、置いてある全部の種類を少しずつお皿に盛ってくれるんだって。しかも、テイクアウトも出来るらしから、食ってみて美味しかったら大量購入だな。

 大きな皿に、全部で八種類もあった米を盛り合わせてもらい、隣の店で、串に刺した焼き魚と、魚の団子が入ったスープを買った。


「おにぎりと焼き魚って、最高の組み合わせじゃね」

 受け取ったお皿をトレーに乗せて運びながらそう呟き、大人しく席についたのだった。

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