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草原エルフの郷での話

「いやもう、それが大騒ぎなんてもんじゃなかったんですよ。ちょっと聞いてください!」

 身を乗り出すようにして叫ぶランドルさんの声に、リナさん一家が吹き出してる。

「ランドルさん。もう、本当にあの時はごめんなさい」

 必死で笑いを我慢しつつリナさんが叫び、アルデアさんとアーケル君もうんうんと頷きながら、揃ってごめんなさいと叫んでいる。

「ええ、その大変のところをぜひ詳しく聞かせてくださいよ!」

 笑ってそう言い、ランドルさんのグラスに新しい酒を注いでやる。

「いえね、ハンプールでケンさん達と別れた後、俺達はそれぞれあのオーロライーグレットに乗ってリナさん達の故郷の西方草原地帯と呼ばれる場所へ向かいました」

 机の上に指で、大河ゴウル川とダリア川の逆Yの字の形をなぞり、ダリア側の北側にあるその西方草原地帯の場所を示す。

 それはちょうどこのバイゼンから南へ向かって伸びる街道の西側部分に当たる場所だ。

 俺はまだ行った事が無い未知の場所でもある。



「俺はまあ、今までにあの草原地帯へはジェムモンスター狩りのために何度も行った事がありましたが、草原エルフの住んでいる山の麓の一帯には行った事がありませんでした。正直言って冒険者達はほとんど近寄りません。あそこにはギルドの支部もありませんし、住んでいるのが全て草原エルフですからね」

「ええ、逆に物珍しくて行く奴とか、絶対いそうなのに」

 思わずそう呟くと、ランドルさんが大笑いしている。

「まあ、興味本位で行く奴がいるのは否定しませんよ。たまに酒場でその話が出ると、実際に行った事があるって奴が、大体その場に一人くらいはいますからね」

「あれ? それなら、別に珍しくないんじゃね?」

 しかし、俺の呟きに何やら言いたげにリナさん達を横目で見るランドルさん。

「どうぞ、遠慮なくおっしゃってください。我らが故郷を出たのも、それが原因ですからねえ」

 これまた何やら含みのある言い方に、思わずリナさん達を振り返り、それからランドルさんを見る。

「まあ、要するに非常に閉鎖的で排他的な場所だって事です。人はそれなりに多いんですが、住んでいるのは全員が草原エルフ。一応、中心地の村はそれなりの規模で、石造りの建物もいくつかあります。その村の周辺に幾つかの集落が集まっている程度です。ですがその中心地の村にも周囲の集落にも宿屋は一軒も無く、外から来た人は、夜は村の外の草原地帯で野宿するのが条件ですからね」

「ええ、それはまた酷くね?」

「まあ、個人的に言わせて貰えば酷い話だと思いますよ。道具屋などの店は何軒かありますが、相手が人間だと見た途端に店を閉められたり、入れてくれたとしても法外な値段をふっかけられたりします」

 思わずもう一度リナさん達を振り返ると、三人揃って申し訳なさそうに謝ってくれた。

「要するに、非常に閉鎖的で外の世界を一切知ろうとしない。自分達が優れた人種であり、創造神に一番近しい人だと自負しているんです」



 顔をしかめながらのランドルさんの嫌そうな説明を聞いて、俺は心の中で決心していた。リナさん達には悪いけど、草原エルフの里には近寄らないようにしよう。



「当然、郷では以前にも話した通りに御神木である巨木があり、それを中心にして村が発展してきました」

 ランドルさんから続くリナさんの説明に俺は頷く。

 以前見たあの巨木、確かにあれはすごかった。あれを守っているのが彼らの自負なのだとしたら、自分達が創造神様に一番近しいって思うのも、まあ分かる気がした。

「ところが、その御神木から現れる、我らが神の(しもべ)として守護しているイーグレットに、私達家族だけで無く余所者の、しかも人間がその背に乗って空から突然、村の御神木のすぐ近くへ降りてきたんですからね」

 うわあ、その状況を想像しただけで、その時の大騒ぎの様子が目に見えるみたいだ。

 呆れた顔でランドルさんを見ると、彼はまた苦笑いして大きなため息を吐いた。

「我らの神を冒涜するな! それから、神の僕であるイーグレットに人間がまたがるとは何と罰当たりな! ってのもあったな。あとは、人間風情が神の僕に近付くなど許し難い! って叫んで、剣を抜いて切り掛かって来た奴もいましたね」

 驚く俺に、ランドルさんは腰の剣を示した。

「まあ、これでも一応上位冒険者です。それなりに場数は踏んでいますからね」

 そう言って剣を抜くふりをして軽く素手で払って見せる。

「……勝ったの?」

「まあ、この場合は倒すのではなく、相手の武器を弾いて無力化させる事が目的ですからね。簡単です」

 当然のようにそう言って肩を竦める彼の言葉に、俺は思わず無言で拍手をした。

「大勢集まってきたのだけど、誰も私達の話をろくに聞いてくれず、村の長老のところへ行こうとすると、勝手に村に入るなと言って集まってきた人達から石を投げられる始末」

 これまた嫌そうなリナさんの説明に、俺も呆れたため息しか出ない。

 閉鎖的な村の典型的な態度なのかもしれないけど、酷すぎる。



「巨木の前で立ったまま、もう正直言って我慢の限界だったんですよ」

 ランドルさんの言葉に俺も頷く。

 どんな事情があるにせよ、話も聞かずに石を投げるなんて有り得ない。多分俺だったらもうその場で従魔達に乗ってその場から立ち去ってるよ。

「で、どうしたんですか?」

 リナさん達がいてもなお話すら出来ないのであれば、御神託の話も信じて貰えないんじゃないかと思ったからだ。

「そうしたらねえ……」

「ええ、もうねえ……」

 リナさんとランドルさんが顔を見合わせて苦笑いして、またため息を吐く。

 隣では、ハスフェル達も飲みながら興味津々で話を聞いている。



 もう一回ため息を吐いたランドルさんが教えてくれたその後の話に、俺達は揃って吹き出す事になったのだった。

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