夕食とお土産のお酒
「ふおお〜〜〜〜! やっぱり熟成肉は美味しい〜〜!」
「ふおおお〜〜〜〜〜! ハイランドチキンもウマ〜〜〜〜〜!」
熟成肉を食べたアーケル君の歓喜の雄叫びの合間に、こちらはハイランドチキンにかじりついたシャムエル様が、同じく歓喜の雄叫びを上げてる。
前回もそうだったけどさ。アーケル君にはシャムエル様の声は聞こえていない筈なんだけど、それ、やっぱり絶対聞こえてるだろう? って言いたくなるくらいのタイミングで、交互に歓喜の雄叫びをあげているんだよ。
もう両方の声が聞こえる俺達は、笑いが止まらなくて食事どころじゃない。
リナさん一家とランドルさんも、一口食べただけであとはずっと笑っていたよ。
「はあ、ごちそうさまでした。いや、久し振りのケンさんの食事は本当に美味しかったです」
アルデアさんがにっこりと笑って、空になったお皿に手を合わせる。ランドルさんと、リナさんとアーケル君も、カケラも残っていないお皿に向かって揃って手を合わせた。
「はい、お粗末様。そこまで綺麗に平らげてくれたら、作った俺も嬉しいって」
笑ってスライム達が綺麗にしてくれたお皿を順番に片付けていく。
「じゃあ、あとはこっちですね」
リナさんがそう言いながらにっこりと笑って取り出したのは、初めて見る綺麗なガラス瓶の数々だった。だけどこのタイミングで出したって事は、間違いなくお酒ですね。
「故郷の草原エルフの里でのみ採れる、特別な木の実を使って秘伝の製法で作られた果実酒です。たくさん持って参りましたので、どうぞお納めください」
見ると、確かに瓶の底には丸い何かの実が幾つも入っている。大きさは小梅くらいだし、見かけもそんな感じだ。もしかして、梅酒みたいな感じなのかな?
「ああ、良いですね。ありがとうございます。じゃあ、何かつまみになりそうなものを出しますから、このまま飲みましょう。その後の話を聞きたいです」
そう、彼らは草原エルフの故郷に神様のお告げを届けに行ったんだからさ。
「そうですね。報告したい事が山のようにありますから」
笑ったリナさんも笑顔でそう言い、アーケル君もこれ以上ないくらいの良い笑顔で何度も頷いていた。
ランドルさんは若干苦笑いに近い感じだったので、もしかしたら何か苦労があったのかもしれない。
「さて、酒のつまみになりそうなものねえ……」
少し考えてから立ち上がった俺は、まずはクリームチーズをサイコロ状に切り、鰹節を散らしてから醤油を回しかけた。これ、冷奴みたいで美味いんだよ。
それから、クーヘンからもらった小さめのソーセージを、コンロとフライパンを取り出して焼き始める。
がっつり肉を食ったあとだけど、あいつらならこれも絶対食うと思うぞ。
あとはナッツとドライフルーツの混ぜたのもお皿に山盛りに取り出しておく。それからスライスした鶏ハムと、唐揚げとフライドポテトの山と、ポテトチップスの大皿も出しておいてやる。
かなりのボリュームになったけど、これだけあれば幾ら何でも足りるだろう。
「へえ、これなんですか?」
お皿を適当に並べてやると、クリームチーズの鰹節と醤油かけにアーケル君が興味津々だ。
「美味いぞ。食ってみろよ」
小さなフォークを幾つか取り出して適当にチーズに突き刺しておく。後のカトラリーは各自の手持ちを好きに使ってくれ。
「へえ、これってパンに塗る柔らかいチーズですよね。こんな食べ方出来るんだ。美味しい」
早速一つつまみ食いしたアーケル君が、嬉しそうにそう言って笑う。
「こら、乾杯前から食べてどうする。ほら、ケンさんもグラスをどうぞ」
笑顔のリナさんから、お土産のお酒を差し出されて、俺はいつも使っている切り子のグラスを取り出した。
「ここにお願いします。ええと、氷はこれを使ってくださいね」
アイスピッチャー代わりの大きめのお椀に作っておいてある綺麗な透明の氷も取り出す。もちろん、これは俺が作ったお酒用の氷だよ。
「おおお、これは美しい」
リナさんだけでなく、アルデアさんとアーケル君も目を輝かせ、それぞれのグラスに氷を入れてからお酒を注いでもらった。
「では、再会を祝して、カンパ〜〜イ!」
さっきも乾杯した気がするけど、まあ何度やっても良いよな。
一口飲んでみると、やや酒精は強いもののほぼ梅酒に近い香りの強いお酒だった。
「おお、これは美味しいですね。ロックで飲むのが良い感じだ」
飲んだ一口目は甘く感じたんだけど、何とも言えない良い香りが鼻に抜ける。
「これは確かに美味い。がぶ飲みするんじゃなくて、話をしながらゆっくり香りも味わって飲むのに良さそうな酒だな」
こちらもロックにしたハスフェルが、同じく一口飲んでそう言いながら香りを楽しんでいる。
皆それぞれに、珍しいお酒を堪能してから、何となく俺が口を開いた。
「それで、故郷の皆さんに例の一件って報告したんでしょう? どうなったんですか?」
直球で聞いた俺の質問に、飲むのをやめたリナさん一家とランドルさん。
四人は交互に顔を見合わせたあと、揃って吹き出して大笑いになる。
「いやもう、それが大騒ぎだったなんてもんじゃあなかったんですよ。ちょっと聞いてください!」
目を輝かせたランドルさんの言葉に、笑顔で頷き合った俺達も聞く気になってひとまず飲んでいたグラスを置いたのだった。