再会を祝して肉を焼くぞ!
「いやあ、雪が降る前にバイゼンに到着出来て良かったですよ」
何となくそのまま宿泊所へ戻った俺達は、やっぱり当然のように全員が俺の部屋に集まり、小さくなった従魔達も部屋の奥で仲良く集まって再会を喜び合っていた。
ううん、普通の宿にしては部屋が広い理由が分かった気がする光景だね。
ちなみに、オンハルトの爺さんの騎獣であるエルクのエラフィはギルドの宿泊所に泊まってる時は宿泊所付属の厩舎で休んでいる。蹄がある子の場合は、石の床の建物の中よりも寝藁が敷き詰めてくれてある厩舎の方が寝心地が良いらしい。
あとはギイの騎獣のブラックラプトルのデネブも厩舎の方が良いらしく、二匹は仲良くいつも一緒に厩舎で寝ている。
なので、オンハルトの爺さんは基本寝る時は一人で寝ているらしいし、ギイはレッドクロージャガーのベガと一緒に寝てるんだって。
「確かに、そろそろ雪が降りそうだって言ってたもんなあ」
もう今日は出かけないので、装備を外しながら俺は小さく笑う。
「それじゃあ、再会を祝して肉でも焼くか」
そう言って熟成肉の塊を取り出して見せると、全員から拍手が起こった。やっぱり皆肉は好きだよねえ。
ちょっと肉続きな気もするんだけど、まあせっかく久しぶりに皆が揃ったんだから、ここは豪快に肉を焼くべきだよな。
って事で、人数分の熟成肉を分厚く切り、それからハイランドチキンのもも肉も塊を取り出す。
「ええと、誰か肉焼くの手伝ってくれるか」
肉を叩いてスパイスを振りながらそう言うと、アーケル君とギイが進み出て手伝ってくれる事になった。
そうだよな。確かアーケル君は肉を焼くのは得意だって言ってたもんな。
「じゃあ、アーケル君はハイランドチキンのもも肉を焼いてくれるか。俺とギイで熟成肉を焼くからさ」
鞄に入ったサクラから、温野菜とフライドポテト、わかめと豆腐の味噌汁の入った鍋も取り出し、もうワンセットコンロを取り出して味噌汁を弱火でかけておく。
それからパンとおにぎりも適当に取り出して並べておく。簡易オーブンを出しておくから、パンを食べたい人は自分で焼いてください。
「じゃあ焼くとするか」
並んだフライパンに牛脂を転がしながら、まずは強火でフライパンを温めていく。
「肉を入れるぞ〜〜!」
焼けたフライパンにスパイスを振った肉を並べていくと、なぜか全員が拍手してくれたよ。
賑やかな脂が焼ける音とともに、良い香りが一気に立つ。
「ああ、この香りだよ! ううん、やっとケンさんに会えたって実感する!」
ハイランドチキンのむね肉を焼きながら、アーケル君が嬉しそうに目を細めてそんな事を叫んでいる。
何故か、その叫びを聞いてリナさん一家とランドルさんが揃って吹き出して大笑いしていた。
「あはは、そんなに食いたかったのか。いいぞ、どうぞ好きなだけ食ってくれ」
トングで肉を掴んで豪快にひっくり返しながらそう言ってやると、わかりやすく笑顔になる。
「ありがとうござます! ひと冬よろしくお願いします!」
遠慮のないその叫びに、俺も一緒になって大笑いしたのだった。
そうだよ。これくらい遠慮なく大喜びして食ってくれたら、こっちも気持ちよく提供出来るってな。
「おおい、そろそろ肉が焼けるぞ」
火を止めて余熱で最後の仕上げをしながら、俺も自分のお皿を用意しにいく。
「ほら、これくらいあれば良いよな」
だけど、いつものようにハスフェルが俺の分までしっかり確保してくれていた。まあ、いつも以上に山盛りなのは、きっとシャムエル様の分込みだからなんだろうさ。
「おにぎりでよかったよな?」
オンハルトの爺さんが、別のお皿にこちらも山盛りに並べてくれたおにぎりを渡してくれる。
「ああ、もちろん。ありがとうな」
笑ってそのまま受け取り、いつものように簡易祭壇に並べていく。
「味噌汁と、あとは冷えたビールだよな」
って事で、冷えたビールもグラスと一緒に並べて手を合わせる。
「熟成肉のステーキとハイランドチキンのむね肉のグリルだよ。わかめと豆腐のお味噌汁とおにぎり、それから冷えたビールも一緒にどうぞ。それから、リナさん一家とランドルさんとも無事に再会出来ました」
小さくそう呟くと、いつもの収めの手が俺の頭を何度も撫でてから料理を順番にそれはそれは丁寧に撫でて周り、最後に順番にお皿を持ち上げる振りをしてから消えていった。
「お待たせ」
皆が待っていてくれたので、慌ててお皿を持って席につき、改めて手を合わせてから顔を上げた。
そして全員揃って笑顔で好きなお酒が入ったグラスを持っている。
「はいどうぞ」
隣に座ったアーケル君が笑顔で冷えたビールの栓を開けてくれたので、笑顔でグラスを差し出して注いでもらう。
「じゃあ、全員揃ったところで改めて、再会を祝して乾杯!」
皆の無言の視線に苦笑いして立った俺は、そう言って高々とグラスを掲げた。
「再会を祝して、乾杯!」
皆の声が揃い、グラスが高々と掲げられた。
それから皆グイッと一気飲み。もちろん俺も冷えたビールを半分ほど一気飲みしたよ。
「くあ〜〜美味い。寒い冬に、暖かい部屋の中でご馳走と一緒に冷えたビールを飲む。ううん、最高の贅沢だよな」
思わずおっさんみたいなため息と共にそう呟くと、全員揃って思いっきり大きく頷き、それから拍手と大爆笑になったのだった。