すき焼きの締めはやっぱりこれだよね!
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っじみ! わっしょい!」
いつもよりもかなり大きめの小鉢を手にしたシャムエル様のちょっと変わった味見ダンスに、不意打ちを食らった俺は堪える間も無く吹き出した。
「あはは、お見事お見事。いやあ、これまたすっげえステップだな。何をどうやってるのか俺にはさっぱり分からないね」
笑って手を叩きながらそう言うと、シャムエル様は何故かドヤ顔で隣にいるカリディアを振り返った。
「これはカリディアが考えてくれたステップだよ。いやあカリディアは本当に素晴らしいね」
「故郷で踊っていたステップを少し変えてみました。シャムエル様に気に入っていただけて、とても嬉しいです」
こちらは感動に目を潤ませるカリディア。
ううん、食欲にまみれたダンスなんだけど、そんなふうに言われたら何やら有り難いものな気がして来たぞ。
まあ良い、とりあえず拝んでおこう。これでも一応創造神様だもんな。
って事で、シャムエル様に向かって手を合わせて拝んでおく。
「何してるの? ほら、早く入れてってば!」
待ちきれなくなったのか、いきなり俺の右肩に現れて小鉢の縁で俺の頬をぐりぐりし始めるシャムエル様。
「痛い痛い、分かったからそれはやめてください」
苦笑いして、押し付けてくる小鉢を取り上げる。
「とろとろたまごたっぷりでお願いしま〜す!」
くるっと一回転したシャムエル様の言葉に苦笑いして頷き、自分の分のお椀からとろとろ玉子をたっぷり取り分けてやる。それからそこに、すき焼きの味の染みたお肉や野菜、それから豆腐などの具をたっぷりと入れてやる。
「はいどうぞ。熱いから気をつけてな」
「ふおお〜〜〜! 美味しそう〜〜! とろとろ玉子に甘いお肉の合わせ技〜〜〜!」
どこぞのグルメリポーターみたいな歓喜の雄叫びを挙げたシャムエル様は、やっぱり頭からとろとろ玉子に突っ込んで行った。
あれ、絶対熱いと思うんだけど大丈夫なのかね?
「ふおお〜〜〜! 熱い! でも美味しい! だけど熱い!」
予想通り、尻尾を三倍サイズに膨らませたシャムエル様は大はしゃぎで食べ始める。
それからサクラに頼んで果物の入った木箱も出してもらい、カリディアや草食チームの子達には好きにとってもらった。
「では俺もいただくとするか」
とは言ったものの半分以下に減ったとろとろ玉子のお椀を見て、小さく笑って食べる前におかわりを取りに行ったよ。
結局、切ったお肉が足りなくなり追加でスライム達に切ってもらったし、とろとろたまごも無くなったので急遽追加を作る羽目になった。でも、すき焼きは予想通りに大好評だったよ。
「よし、良い感じに具が無くなったな」
ラストの追加で入れた肉も駆逐され、もうフライパンの中には野菜のカケラくらいしか残っていない。
「あれ、肉はもう終わりなんだろう?」
フライパンを乗せたコンロに火をつける俺を見て、ハスフェルが不思議そうにそう言って空っぽのフライパンの中を覗き込む。
「いつもは締めに、お前らも好きな雑炊を作ってただろう?」
「おう、あれは美味い。なんだ、これでも雑炊が出来るのか? だけどちょっと雑炊にするには甘すぎじゃないか?」
「確かに、美味しかったけど雑炊にするにはちょっと味も濃い気がするなあ」
ギイとオンハルトの爺さんも、同意するように頷いている。
「ふふふ、ちょっと違うんだよなあ。すき焼きの締めは雑炊じゃなくてこれなんだよ」
そう言って取り出したのは、正直言って俺以外はほとんど食べていない、うどんだ。
これは、セレブ買いの時に見つけて大量購入してあったうどん玉だけど、ハスフェル達はあまり食べないみたいで、なんとなく残ったままになってたんだよ。
寒くなって来たし、今度具沢山の鍋焼うどんを作ってみようと思ってる。
だけど土鍋が無いんだよなあ。ドワーフの職人さんなら作ってくれないかと密かに考えてる。
でもまあ、今日はこのまま使うよ。
って事で、沸いてきたところでうどん玉をガンガン入れ、煮汁が少なそうだったので水を追加で入れて、残りの割下も全部入れてしまう。よし、ちょうど良い味になった。
「へえ、ここにうどんを入れるのか」
「おう、めちゃ美味しいからお楽しみに。俺はこれ、好きなんだよなあ」
興味津々で覗き込んでくる三人に笑って頷き、せっせとうどんを解して煮汁を絡めた。
少し煮込んでうどんに煮汁の茶色い色がついて来たら完成だ。
「はい、出来上がり! これはこのまま食べてくれよな」
コンロの火を止めて自分の小鉢を急いで手にした。
そしてまた大喜びの三人相手に、俺もうどん争奪戦に参加したのだった。
「へえ、甘い味が染みて美味しいねえ」
うどんを鷲掴みにしたシャムエル様が、端っこからもぐもぐと齧りながらご機嫌でそう言っている。
もぐもぐ食べたうどんはどんどん頬袋の中に詰め込まれていってるので、もうシャムエル様の頬袋ははち切れんばかりにパンパンになってる。
「落ち着いて食べてくれって、破れたらどうするんだよ」
笑いながらそう言って、どさくさに紛れて膨れた頬袋をそっと突っつく。
「中身が出たらどうしてくれるの! 食べてる時はお触り禁止!」
そう言って俺に背を向けて座ってしまうシャムエル様。
「そりゃあ失礼しました」
笑って謝り、自分のうどんを啜りながら、こっそり左手を伸ばしてもふもふに膨れた尻尾を堪能させてもらった俺だったよ。よし、計画通りだ。