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もう一つの肉の王道!

「さてと、夕食は何を作ろうかねえ」

 作り置きを出しても良いんだけど、せっかく時間があるんだから簡単に作れて皆が喜びそうなもの……。

「やっぱり肉なんだけど、ステーキは昨日焼いたしなあ。ううん……」

 腕を組んで長考に入りかけた時、ふと思いついた。

「あ、これなら作りながら食べられるし、材料全部切って、味付け用の割下(わりした)を作っとけば俺も一緒に食べられるな。よし、じゃあこれで行こう」

 メニューが決まれば、後は作るだけだ。



「ってことで、まずは割下作りだな。これは簡単だ。サクラ、今から言うのを出してくれるか」

「はあい、なんでも言ってくださ〜い!」

 嬉々として返事をしたサクラが、足元から跳ね飛んで机の上に飛び乗る。

「まずは道具だ。コンロと小さめの片手鍋、それから計量カップとお玉」

「はあい、出していきま〜す!」

 元気な返事と共に、小さな触手が道具を並べてくれる。

「調味料は、醤油、みりん、料理用の米の酒、砂糖、二番出しの入った鍋も出しておいてくれるか」

 ずらっと並んだ調味料から、まずはお酒と味醂をとり出して、計量カップにしているマグでたっぷり計って鍋に入れる。

「まずは火にかけて沸騰させてアルコールを飛ばしますよ」

 コンロに火をつけてお酒とみりんの入った片手鍋を乗せる。そのまま沸いてくるまで待ち、ひと煮立ちさせたら醤油と二番出汁も計って入れる。

「再度沸いたら、お砂糖を入れれば完成だ」

 お砂糖は適当にスプーンですくって入れてお玉で混ぜる。

「味はどうかな」

 小皿にちょっとだけ取って舐めてみる。

「うん、良い感じの濃い割下が出来たな。じゃあこれは置いといて材料を切るか」

 コンロの火を止め片手鍋はそのままにしておく。



「ええと、これは普通の牛肉が良いな。じゃあこれを出来るだけ薄く全部切ってくれるか」

 取り出してもらった牛肉の塊を、スライム達に薄く切ってもらう。

「朝市で、白菜と白ネギを見つけたからあれを使うか。後はキノコと木綿豆腐。それから、しらたきは……さすがに無いから、コンニャクを細く切って使えば良いな」

 そう呟きながら取り出してもらった野菜やキノコ、コンニャクの塊も、見本を少し切って見せて残りはスライム達にやってもらう。

「切ったコンニャクは、一度下茹でしておくと臭みが消えて良いんだぞ」

 そう言いながら別のお鍋にお湯を沸かして、細切りこんにゃくを茹でてザルにあげておく。

「じゃあ作るか。鍋はこれでいいかな」

 取り出したのは、厚手の鉄のフライパンだ。

「ええと、白菜の硬いところと白ネギのそぎ切りにしたのを入れて火をつける。まずは割下を焦げないように多めに入れてっと」

 鍋の基本、まずは火の通りにくい硬いところを先に入れるぞ。

 沸いてきたら、白菜の葉の部分やキノコ、それから細切りこんにゃくも入れてさらに割下を回し入れる。豆腐は煮崩れないように鍋の端の方に並べて入れ煮汁に沈め、ひと煮立ちしたところで真ん中に薄切り肉をたっぷりと入れて、そこにも割下を投入。ここから強火で一気に肉に火を通す。


「肉に火が通ったら出来上がりなんだけど、食べる時の生卵は駄目なんだよな。ううん、どうするかなあ」

 出来上がった鍋を冷めないようにサクラに預けながら考える。



 そう、今夜の夕食はもう一つの肉の王道、ズバリ、すき焼きだ。

 すき焼きといえば溶き卵につけて食べるのが定番だけど、残念ながらこの世界では生卵を食する文化は無い。ついでに言うと、いくら万能薬があるとは言え、やっぱりサルモネラ菌は怖い。まあ、サルモネラ菌がこの世界にあるのかどうかは知らないけどさ。

「確か、以前オムレツを作った時にちょっとでも火を通せば良いって聞いたからなあ。じゃあ、一番出汁を入れて温めるか」

 って事で、片手鍋に人数分よりも多めの玉子を溶き卵にして、一番出汁を多めに入れる。そのままお箸でひたすらかき混ぜながら鍋を火にかける。要するに塊を作らないようにしながら溶き卵全体に火が通ればいい。

 って事で、付けダレ用のとろっとろ半熟オムレツの中身が出来たよ。これにすき焼きの肉を絡めて食べたらめっちゃ美味しそうじゃん。

 卵で食べたい為のちょっと無理矢理だったけど、案外上手く出来たよ。これを考えた俺、グッジョブ。



「おおい、夕食が出来たけど起きろよって、あはは、もう起きてたか」

 振り返ってうたた寝しているハスフェル達を起こしてやろうと思ったら、全員ちゃっかり起きてもう席についてたよ。

「そりゃあお前、あんな美味しそうな料理作ってる横で寝ていられるかって」

「良い香りで目が覚めたよ」

「確かに、目覚めに嗅ぐには最高の香りだったなあ」

 三人は嬉しそうに顔を見合わせて、そんな事を言って大笑いしている。

「そりゃあ申し訳ないねえ。じゃあ食べるか。今日のメニューはすき焼きだよ」

 サクラに預けていたすき焼きの入ったフライパンをコンロの上に乗せる。

「ええとこの玉子をこんなふうにお椀に取ってもらって、これにつけて食べるんだ。なんなら各自小鍋を出してすき焼きを取ってもらっても良いぞ。追加の肉と野菜も炊くからさ」

 俺がそう言った瞬間。三人同時に携帯用の小鍋を取り出したのには笑っちゃったね。



 て事で、俺も参加してまずは一回目のすき焼き争奪戦を繰り広げた。

 俺の分とシャムエル様の分までガッツリお肉も野菜も確保した俺は、お椀にとろとろ玉子をたっぷりと取ってから、小鍋と一緒にいつもの簡易祭壇に並べた。

「ここはやっぱり、おともには冷えたビールだよな」

 小さく笑って、自分で収納していた冷えたビールといつものグラスも一緒に並べる。

「夕食のすき焼きです。俺のいた世界では生卵でこれを食べてたんだけど、こっちでは生卵はそのままは食べないらしいので、とろとろ玉子にしてみました。すき焼きをこれにつけて食べてください。一緒に冷えたビールもどうぞ」

 いつものように手を合わせて、ちょっと詳しい説明をしておく。

 収めの手が、いつものように俺の頭を何度も撫でてから嬉しそうにすき焼きを撫でてとろとろ玉子を撫で、最後にビール瓶とすき焼きの入った小鍋ごと持ち上げてから消えていった。

「気に入ってくれると良いな。よし、じゃあ食べるか」

 笑ってそう呟き小鍋を手に振り返ると、そこには大きな小鉢を片手にカリディアと腕を組んで、超ハイテンションでキラッキラに目を輝かせながら高速ステップで踊り狂っているシャムエル様がいたのだった。

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