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鬼柚子ピールを作ってみる!

「それじゃあよろしくお願いします、見積もりは出来上がったら宿泊所まで知らせてください。一応、今日はもう出かけない予定ですので。明日以降は出かけるようならギルドに連絡しておきます。」

「おう、了解だ。早急に出すように言っておくよ」

 ホルストさんは作業の手を止められないので、窓越しに手を振ってからエーベルバッハさんにお願いして俺達はドワーフギルドを後にした。

 いつの間にかもう昼の時間を過ぎていたよ。

「じゃあ、何かそこらで食って帰るか。それで俺はもうちょっとお菓子の仕込みでもしようかと思ってるからさ」

「いいんじゃないか。俺達は今日はゆっくりさせてもらうつもりだから、好きなだけ作ってくれ」

 笑ったハスフェルの言葉に、ギイとオンハルトの爺さんも笑って手なんか叩いてるし。

 そして、お菓子と聞いて俄然張り切るシャムエル様。尻尾が倍サイズになっております。



 って事で、ドワーフギルドの近くの円型広場に並んでいた屋台で、それぞれ好きに買い込んで昼ご飯を食べたよ。

 俺は、ご飯を炊いてた店でハンバーグと目玉焼きがご飯の上に乗った、いわゆるロコモコ丼を見つけて買ってみた。

何やら美味しそうなソースがたっぷりとかかっているよ。申し訳程度小さなレタスが二枚乗っかってるのを見て、ちょっと笑っちゃったね。

 お箸じゃなくてスプーンをつけてくれたので、屋台の横の丸太の椅子に座って食べてみる。

 デミグラスソース風の、やや甘めのソースがめっちゃ美味しい。よし、これも後で買っておこう。

 一旦食べるのを止めて店主さんに声を掛けて、食べ終わるまでに作れるだけ作っておいてもらう事にしたら、持ち帰りの時はお皿持参なんだと言われたので、お椀をいくつか渡しておいた。

 ハスフェル達も、あちこちで好きに食べている。

「ううん、屋台巡りもいいなあ。場所によって出てる屋台も色々みたいだから、ちょっと色々見て周っても面白そうだ」

 それに、同じメニューでも店によってかなり味付けが違う。ロコモコ丼だって、以前他の街で食べた時には、もっとスパイシーな辛めのソースだった覚えがある。

「でもこの甘めのソースって好きだなあ。やっぱり照り焼き系なのかな?」

 そんな事をのんびりと考えつつ、しっかりロコモコ丼を平らげた俺だった。

 それから、作ってくれてあった分をまとめて購入して、他の屋台も見て周り美味しそうなのを見つけたら、ガンガン買って回った。

「さてと、それじゃあ宿泊所へ戻るか」

 一通り買い物を済ませたところで、広場の隅でホットワインを買って飲んでいたハスフェル達に声をかけて、そのまま宿泊所へ戻った。




「それで何を作るんだ?」

 宿泊所へ戻った俺達だったけど、何故か当然のようにやっぱり俺の部屋に全員集合する。

「ええと、後で栗の甘露煮を使った焼き菓子を作ってみようと思うんだけどさ。先にこれを作って見たくてね」

 そう言って取り出したのは、ここへ来て最初の頃に朝市で見つけた巨大な柑橘系、鬼柚子だ。

「ええと、もらったレシピによると、皮を砂糖煮にしたピールってのと、ジャムが載ってるなあ。よし、たくさんあるから両方作ろう」

 とりあえず四個ほど取り出して机に並べておく。



「へえ、これまた大きな柑橘だなあ。それをどうするんだ?」

 興味津々のギイの質問に、机に置いてあったレシピを手に取る。

「朝市で見つけたんだけどさ。シャムエル様が食べてみたいって言うから買ったんだ。お店の人にもらったレシピによると、そのまま食べるんじゃなくて、加工して食べる柑橘みたいだね。この皮を砂糖煮にして、ジャムも作るよ」

「へえ、果肉じゃなくて皮を使うわけか」

「みたいだな。ジャムの方は全部使うみたいだけどさ」

 そう言いながら詳しいレシピを読み込み、まずはスライム達に皮の汚れを徹底的に取ってもらう。

 その間に、俺はサクラに頼んで砂糖の入った瓶を取り出してもらった。生成されたグラニュー糖みたいな綺麗なお砂糖だ。

「ええと、綺麗に洗ったら、切って果肉を取り出して、皮の白いところをちょっと残して削る。ふむふむ、まずはここまでだな。ええと果肉は後でジャムを作るときに一緒に使えばいいな」

 レシピの置き場が無かったので、ちょっと考えて近くにいたアイアンスライムのアンバーに持っててもらう事にした。

「じゃあお前はここにいてくれよな」

 アンバーを机の上に乗せて、ちょっと離れたところに置いてやる。ニュルンと出て来た触手がレシピをしっかりホールドしてこっちに向けてくれる。



「ご主人、綺麗になったよ〜〜!」

「皮の隙間の埃まで、完璧に取り除きました!」

 鬼柚子の掃除をしてくれていたアルファとベータとゼータとエータが、揃って触手で敬礼ポーズを取る。

 いちいち仕草が可愛いぞ。お前ら!

「おう、ありがとうな。じゃあ、まずは二個分。こんなふうにして四分割して、果肉は丸ごと取るんだ。それで皮の白いところをこれくらい剥がしてくれるか。それでこれくらいの細さに皮を切って欲しいんだ」

 包丁で縦に四分割して、詳しい説明をしながら見本を一つやって見せる。

「この剥がした白いのは、要らないから食べてくれて良いぞ。果肉は後で使うから、種を取り除いてここに入れておいてくれるか」

 そう言って大きなお椀を一つと種用の小皿も出しておき、後はスライム達にやってもらう。



「ほう、なかなか面倒な事をするんだな」

 出来上がった皮を計って、それの六割の砂糖を用意しておく。

 見ていたギイが、感心したようにそう呟く。

「これは下準備。これからが大変なんだぞ。レシピによると、この切った皮を鍋に入れてたっぷりの水を入れて火にかけて、茹でてはお湯を捨てて、また水から茹でるのを繰り返すんだって。それで、皮の渋みが取れたら砂糖で煮込んで、仕上げに天日で干すか、オーブンで低温でじっくり焼くんだってさ。砂糖をまぶしたり、チョコレートを付けたりして食べたり、刻んで焼き菓子に入れたりも出来るみたいだな」

「へえ、美味そうだな。じゃあ手伝えない代わりに応援するよ。頑張れ〜〜〜」

 ギイだけじゃなく、ハスフェルとオンハルトの爺さんからも謎の応援を貰い、笑って手を叩き合ってから、大きめのお鍋にスライム達が下拵えしてくれた鬼柚子の皮二個分を、まずは指示通りに水から茹で始める。

「誰か砂時計一回分計ってくれるか」

「はあい、計りま〜す!」

 ゼータがすっ飛んできて、置いてあった砂時計をひっくり返した。



「ううん、地味な作業だなあ」

 苦笑いしながら、俺は皮を10分茹でてはお湯を捨てるのを繰り返した。

 でもまあ、おかげで部屋の中はめっちゃ柑橘系の良い香りに包まれたよ。なんだかすごく女子力高そうな部屋になった。うん、従魔達以外女子はいないけどね。

「どれ、もう良いんじゃないか?」

 小さなかけらを一つ口に入れてみた。まだ苦味はあるけど、これくらいは全然大丈夫だ。結局全部で八回茹でては煮汁を捨てるのを繰り返した。ううん、なかなかに面倒な作業だ。

「それで、鍋に皮を入れて、ひたるくらいの水とさっきの半分の砂糖を入れて火にかける。沸いてきたら弱火にして、ゆっくりとかき混ぜる。ええとゼータ、砂時計二回分お願い」

「はあい了解です!」

 また砂時計がひっくり返される。

「後は焦げないように様子を見ながら煮込んで、20分経ったら残りの砂糖を入れてさらに煮る。おお、なかなか良い感じになってきた」

 ゼータにもう一回分計ってもらい、さらに半分、つまり15分ほどじっくり弱火で煮込めば完成だ。

「良い感じにゆで汁も減ったよ。これを天日干し、もしくはある程度乾かしてからじっくりオーブンで焼くのか」

 もう今からは外には干せそうに無い。

 スライム達を見て、時間経過で乾かしてもらう事にした。



「でもその前に味見だ〜〜!」

 鍋からバットに流し入れて広げていき、小さめのを一切れシャムエル様に渡してやる。

「まだちょっとベタベタだけど、味見な」

「ふおお〜〜〜! 良い香り!」

 尻尾が一気に膨らんだシャムエル様が両手で一切れ受け取りそのままかじりつく。

「美味しい〜〜! 甘くて美味しいで〜〜す!」

「干すともっと硬くなって、また食感が変わると思うぞ。それは後のお楽しみだな」

 笑って俺も一切れ口に入れる。

「うん、熱いけど美味しい。ちょっと苦味もあって甘くて良い感じだ。へえ、こんなふうにして砂糖煮って作るんだ」

 これはさすがに初めての経験だよ。

 あっという間に食べ終えて超高速でステップを踏み始めたシャムエル様にもう一切れ渡してやり、残りはスライム達に預けて時間経過で乾かしてもらうように頼んでから鍋を片付けた。



「ううん、案外時間が掛かっちゃったな。じゃあ先に夕食を作るか」

 窓の外を見るともうすっかり暗くなっていて、地味な作業に退屈したハスフェル達は、ソファーですっかり寛いでうたた寝中だ。

「お疲れだな。じゃあ、夕食は何にするかねえ」

 残りの鬼柚子も収納されてすっかり綺麗になった机の上を見て、苦笑いしながら夕食のメニューを考える俺だったよ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] スライムちゃん達のかわいらしさが目に浮かぶようです。 [気になる点] 柑橘の香りが充満して、猫軍団は嫌がらなかったかしら?
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