祝福の加護
「それじゃあ、よろしくお願いしますね!」
「ああ、任せてくれ。いつでも様子を見に来てくれて良いからな」
笑顔のフュンフさんとスタッフさん達に見送られて、俺達はフュンフさんの自宅兼工房をあとにした。
「じゃあ、順番に工房を案内するから見て回るとしようか。皆そろそろ最初の錬成作業が終わる頃だからな」
「その辺りの段取りは、俺には何をどうするのかさっぱりだけど、渡した素材が役に立ってるみたいで嬉しいですよ」
「そりゃあれだけの素材を渡されて張り切らん職人はおらんさ。俺も、あいつらがどんなものを作ってくれるか楽しみで仕方がないよ」
エーベルバッハさんは、それはそれは嬉しそうに目を細めてそう言ってくれた。
確かに渡した素材は、どれもかなり良い素材みたいだから皆さんには頑張ってもらおう。主に俺の今後の安全の為に!
そして、エーベルバッハさんに連れられて順番に尋ねて行ったそれぞれの工房で、俺達は毎回職人さん達の絶叫を聞く事になるのだった。
その叫びは皆同じだった。
「見てくれ、最高の錬成になった!」ってね。
唯一、錬成を行わない革細工のアンゼルムさんは、革の強度を上げる為に表面に特殊な加工を施す作業をしていたらしいんだけど、これも未だかつて無いくらいに最高の状態に仕上がったって言って、目を輝かせていた。おお、錬成じゃなくても大丈夫なんだね。
どうやら、オンハルトの爺さんの祝福はどの素材でも最大限の仕事をしてくれたみたいだ。
さすがは鍛治と装飾の神様だね。うん、あとで何か美味しいものでも作って差し上げておこう。
「こいつは驚いた。ここまで最高値が続くって事は、お前さん……もしや祝福の加護持ちか?」
四人目のギュンターさんの所へ行って、またしても職人さん達総出の絶叫を聞いたエーベルバッハさんが、大きなため息を吐いて苦笑いしながら俺を振り返った。
「ええと……」
誤魔化すように笑って右肩に座っているシャムエル様に念話で助けを求める。
『なあ、これってなんて答えたら良い?』
「別に構わないから、祝福の加護持ちだって言えばいいよ。ただし、貰ったのは子供の頃だからよく覚えてないってね」
耳元で小さな声でそう言いわれて頷く。
「ええと、実を言うとそうです。あの! でも子供の頃の事なんで、正直よく覚えていないんですよね」
俺が祝福の加護持ちだと言った途端に目を輝かせて身を乗り出すエーベルバッハさんに、俺は慌てて、顔の前で手を振り詳しくは覚えていない事を訴えた。
「おお、そうなのか。そりゃあ残念だ。是非どんな風なのか聞いてみたかったんだがなあ」
苦笑いしながら引き下がってくれたので、俺も誤魔化すように笑って大きなため息を吐いた。
「ええと、後はホルストさんのところですよね?」
訪ねた職人さんの名前を指を折って確認しながらそう尋ねると、エーベルバッハさんは笑って首を振った。
「ホルストは工房を持っていない。なので今はギルドの貸し工房にいるよ。彼は先に防具の製作に入ってるんだが、これの素材も最高の錬成になったと聞いておる。いやあ、これはどれも出来上がりが楽しみだな」
満足そうなその言葉に、俺も安堵のため息を吐いた。
よかった。せっかく作って貰うんだから、やっぱり良いものが欲しいもんな。
って事で、ひとまずドワーフギルドの建物まで戻り、貸し工房にいるホルストさんのところへ顔を出した。
案内された貸し工房の部屋では、何やらカンカンと賑やかな金槌の音がリズム良く鳴り響いていた。
エーベルバッハさんの説明に寄ると、今は錬成の終わった素材を平たく叩き潰す作業の真っ最中らしく、あれを金槌一本で金型に合わせて打ち付けて、脛当ての形を一気に作ってしまうのだそうだ。それを土台にして、あといくつか関節部分や稼働部分を別に作り、最後に組み立てるらしい。
ここの工房は、透明な窓越しに中の職人さんの作業の様子を見学出来るようになっているので、俺はもう時間を忘れてその見事な職人仕事に見惚れていたのだった。
「いやあ、凄かった。なんだかよく分からないけど凄かったよ」
テンションマックスな俺の呟きに、オンハルトの爺さんは嬉しそうに笑っている。
「まあ、皆なかなかに良き仕事をしておるなあ。あれならばもうあとは任せて良かろう。ふむ。これは仕上がりが楽しみだな」
腕を組んでうんうんと頷く笑顔のオンハルトの爺さんを見て、ハスフェル達も嬉しそうにしている。
「どうやら思ったよりも作業は早く終わりそうだな。よし、春までまだ時間があるから、彼の注文分が終われば俺も何か頼むとするか」
「良いな、それなら俺も頼みたいな。何を頼むかねえ」
ハスフェルとギイが、嬉しそうににんまりと笑って顔を突き合わせて何やら相談を始めた。
「まあ、彼らだって最高の素材を大量に持ってるもんなあ。一体、何を作ってもらうんだろうね。大層な防具は要らなさそうだけど、あの体格で豪華な全身装備一式揃えて身につけたら……うん、本物の金銀の軍神が降臨しそうだ、ううん、それはそれでちょっと見てみたいかも」
完全に面白がっていた俺は、ふと注文した装備一式を全部身につけた自分が、果たしてどんな風になるのか考えて割と本気で気が遠くなったのだった。
多分、身の丈に合わない大きなランドセルを背負った、ピカピカの小学一年生状態になる気がする。
うあああ、恥ずか死ねるかも!