表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
980/2066

最高の仕事

「あはは、久し振りだからやっぱり大注目だぞ、おい」

 宿泊所から久し振りに全員揃って外に出て、それぞれの従魔に乗ってドワーフギルドへ向かったんだけど、もう途中の道中は大騒ぎだった。

 悲鳴を上げて逃げる人、逆に目を輝かせて駆け寄ってくる人。早駆け祭りの英雄だって声もあちこちから聞こえてきて、あの祭りの知名度を思い知らされたりもした。

 ううん、やっぱり毎日出かけて覚えてもらう必要があるね。




「へえ、ここがドワーフギルドか。なかなか立派な建物だなあ」

 しばらく歩いて到着したそこは、がっしりとした石造りの建物で壁面にはびっしりと細やかな蔓草模様が彫り込まれている見事な建物で、石の柱にも石の蔓草がまるで本物のように幾重にも重なって巻きついていた。

「うわあ、これを作るだけでもどれだけ手間がかかってるんだろうなあ。想像もつかないよ」

 近い場所の石の柱を見上げながら、俺はもうひたすら感心するしか出来なかった。



 大きな鋲を打たれた巨大な扉は今は開いたままになっている。

 そこをくぐって中に入ると、他のギルドとは違ってカウンターが無くて、代わりにあちこちに恐らく商談用なのだろう幾つもの机と椅子が並んでいた。

「おお、お前さん達か。ようこそドワーフギルドへ。だが、さすがにまだ見積もりは出来ておらんぞ」

 大きな声で、奥からエーベルバッハさんが出て来て笑顔で手を振っている。

「ああ、おはようございます。いやいや、いくらなんでも昨日の今日でそんな無茶は言いませんって。あの、お願いしている武器や防具の製作具合はどうかなと思いまして、出来れば進捗具合を教えていただけたらと」

 笑顔でそう言うと、エーベルバッハさんも嬉しそうな笑顔になった。

「おお、それならちょうど良い、この後フュンフのところへ様子を見に行って、他の奴らも順番に行くつもりだったからな。それじゃあ一緒に行こう」

「おお、ナイスタイミングですね。じゃあ急ですが大人数でご一緒させてもらいます」

 笑顔の俺の言葉に、エーベルバッハさんも笑顔で大きく頷いてくれた。



「お待たせ。それじゃあ行くとするか」

 表で待っていた俺達のところにエーベルバッハさんがそう言いながらやってきて、引いて来た馬に飛び乗るのを見て俺達もそれぞれの従魔に飛び乗った。

 シャムエル様も俺の右肩の定位置に収まってご機嫌で辺りを見回している。

「まずはフュンフの家の作業場へ行くよ。あそこは狭いから従魔達には表で待っていて貰わないと駄目だろうけどな」

 苦笑いするエーベルバッハさんを見て、ハスフェルとギイが顔を見合わせた。

「お前とオンハルトはとりあえず一緒に見に行くといい。俺とギイが交代で見学しながら従魔の面倒を見てやるよ」

「悪いな、じゃあそれで行くとしよう」

 まあ、鍛治の神様には是非とも一緒に見に行っていただきたいから、申し訳ないけど従魔達の見張りは、お言葉に甘えて彼らに任せる事にしたよ。



「ほら、ここなんだがご覧の通り厩舎が無いから従魔達のいる場所が無いんだよ。悪いがその奥にある円形広場で待っていてくれるか」

 到着したのは間違いなく職人通りと名がついているであろう工房だらけの通りで、前を通っているだけでも、あちこちから賑やかな音や何かを削る音などの元気な作業をする音が聞こえていた。

 しかしエーベルバッハさんが止まったそこは明らかに個人の住宅で、他と違って店舗や工房が併設されている様子が無い。

「ああ、確か家にある工房で作業をしてるって言ってたなあ。そっか、自宅兼用って事か」

 そして当然のようにノックもせずに扉を開けて中に入って行くエーベルバッハさん。

 おい、鍵は?

 仕方がないので、とりあえずギイに従魔達を頼んで三人でエーベルバッハさんの後を追って家の中に入る。

「おおい、フュンフ。どんな具合だ〜〜?」

 豪快に大声で呼びながら、勝手に入っていくエーベルバッハさん。

 扉を入った玄関から奥へまっすぐに続く廊下があって、奥から何やら賑やかな音が聞こえているのに気づいて俺達は笑顔になる。

「ほお、良い音だ」

 何をやっているのかさっぱりだったけど、オンハルトの爺さんが嬉しそうにそう言ってくれたので、どうやら作業は上手く行ってるみたいだって事がわかって安心した。



「ギルマス! ちょうど良かった!今すぐ来てくれ!」

 何やら慌てたようなフュンフさんの大声が聞こえて、俺達は慌てて駆け出したエーベルバッハさんの後を追った。

「一体何事だ! 何か問題でもあったか!」

 駆け込んだ突き当たり奥の部屋は、予想通りに壁面に大きな炉がある広い作業場になっていた。

 そこには、全部で六人のドワーフ達を従えたフュンフさんが大きな金槌を手にしていて、駆け込んできた俺達を見て満面の笑みになった。いや、フュンフさんだけじゃなくて、そこにいた同じく巨大な金槌を持ったドワーフ達全員が、もうこれ以上ないくらいの笑顔になってる。

「これを見てくれ! もう完璧だよ! たった今終わったばかりなんだが、素晴らしい最高の錬成になった!」

 そう言って指差したのは、大きな鉄の台の上に置かれた真っ黒な塊で、不思議な事に本当に真っ黒だった。艶は無く、見ていると吸い込まれそうなくらいの怖いくらいの漆黒だ。

 ええ? あのツルピカだったヘラクレスオオカブトの角がこんな艶消しの真っ黒になった訳?

 一人意味が分からず首を傾げる俺に構わず、エーベルバッハさんもこれ以上ない笑顔になる。

「おお……これは素晴らしい……おそらく最高値だな」

「ええ、俺はもう錬成作業の間中鳥肌が止まりませんでしたよ。今もまだ感動に手が震えている。これは俺にとって、間違いなく生涯最高の仕事になるでしょう。ああ、ケンさん感謝するよ。よく俺を指名してくれた!」

 嬉々としてそう叫んだフュンフさんが、いきなり俺の腕を両手で握ってブンブンと音を立てそうなくらいに上下に振り回した。

「ええと、なんだかよく分かりませんが、上手くいってるなら良かったです。引き続きよろしくお願いしま〜す!」

「任せてくれ! 俺の全てを賭けて最高の一本に仕上げて見せるよ!」

 拳を握りしめたフュンフさんの満面の笑みの宣言に思わず拍手をすると、全員がそれに倣い部屋は大きな拍手に包まれたのだった。

 どうやら製作作業は順調みたいだね。よしよし。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ