お城を買いました!
「よし、それじゃあ書類をすぐに準備するから奥の部屋で待っててくれるか」
冒険者ギルドに到着するなり、満面の笑みのガンスさんにそう言われて、俺達は従魔達と一緒に奥の部屋へ通されてそこで待たされる事になった。
多分ここが契約専用の浄化の術が張ってあるとかいう部屋なんだろう。
「まあ、あの金額での契約だからなあ。そりゃあ張り切りもするか。とりあえずここで待ってればいいんだよな」
何となく全員揃ってすっかり寛ぎモードになり、俺はニニにもたれかかって最高のもふもふの腹毛を心ゆくまで堪能していたのだった。
「じゃあ、これが青銀貨だ。当然だが最高クラスの奴だぞ。うちのギルドでもこれを出すのは久し振りだな」
書類を持ったヴァイトンさんと並んで入って来たガンスさんが、何故か妙に嬉しそうにそう言って抱えていた巨大な青銀貨を重々しく掲げるようにして机の上に置いた。
透明のケースに入ったそれは、レコード盤くらいはありそうなサイズだ。
「確かハンプールで別荘の契約した時に出してくれたのも、これくらいのサイズだったなあ」
目の前に置かれた巨大な円盤を見てそう呟くと、苦笑いしたハスフェルが手を伸ばして青銀貨を突っついた。
「ガンスが言ったように、これはいわば最高ランクの青銀貨だよ。まあ確かに滅多に見ないサイズだな。俺も久しぶりに見たよ」
「そりゃあまあ、あのお城の値段分だもんなあ」
そう言って乾いた笑いをこぼす俺を見て、ハスフェル達も揃って苦笑いしつつ頷いていた。
それから改めてヴァイトンさんが用意した契約書に、俺と、名義上今の持ち主となっているヴァイトンさんが揃ってサインをして、俺が青銀貨をヴァイトンさんに渡した。
これで契約は完了で、もうあの家が俺の名義に変更されたわけだ。
ううん、あまりにも簡単に契約が完了して実感が無いけど、目の前に置かれた幾つもの大きな鍵を見て、あのお城が俺のものになったんだなあと、俺はなんとも言えない不思議な感傷に浸っていたのだった。
その後、留守の間の建物と敷地の管理を商人ギルドにお願いして、これも別に契約書を交わす。
まあこれは、ハンプールでマーサさんのところにお願いしたのと似たような内容になっていて、年単位での契約で、特に何かこちらから言わない限りは自動的に更新されると聞き安心した。
「それじゃああとは、実際の修繕や改装に関するお願いだな。これは現場を見ながらの方がいいよな。って事はもう一回行かないと駄目だな」
顔を見合わせて苦笑いした俺達は立ち上がってそのまま一緒に部屋を出てお城へ戻って行ったのだった。
「まずは絶対にやった方が良い修繕から頼むべきだな。これは俺が指示してもいいか?」
お城に到着した後、あのだだっ広い正面玄関に並んでお城を見上げたところで、オンハルトの爺さんがそう言ってくれた。
「是非お願いします。俺が見るより絶対確実に調べてくれそうだもんなあ」
最後は小さく呟き、まずはオンハルトの爺さんと実際の工事を請け負うドワーフギルドのギルドマスターのエーベルバッハさんが先頭で建物の周囲を見て回った。
成る程、まずは外回りか。
その結果、いくつか壁が落ちかけたり崩れかけている箇所があり、オンハルトの爺さんが次々に伝える内容をエーベルバッハさんは手にした書類に必死になって書き込んでいた。
「まずは居住区だけでいいだろう。向こうの来客用の棟は後回しでいいよな?」
オンハルトの爺さんの言葉に、俺も頷く。
「そうだな。まずは俺達が住めるようにしてもらうのが最優先だな。向こうの来客用の建物はそれが終わってからでいいんじゃね?」
「了解した。では最低限やる外装はこれだけか。ふむ、案外あったなあ」
ペラペラと何枚もの書類を確認しながらエーベルバッハさんが呟く。
ううん修繕費用が幾らくらいになるのかちょっと楽しみだ。
そのあとは建物の中に入り、まずは各自の部屋を決める。
「お前は当主なんだから、当然あの部屋を使うんだろう?」
にんまりと笑ったハスフェル達にそう言われた。三人揃って完全に面白がってる。
だけど俺は彼らと同じくらいににんまりと笑って大きく頷いて見せたよ。
「おう、広いし風呂はあるし最高だよな。お前らが使わないんなら、あの部屋は俺が使わせてもらうよ」
よほどその答えが予想外だったらしく、三人の目がこれ以上ないくらいに見開かれる。
「ほう、あの部屋を喜んで使えるようになったか。これは素晴らしい」
笑ったオンハルトの爺さんの言葉に、俺はもう一回にんまりと笑った。
「当然改装するよ。俺の部屋なんだから俺の好きにするよ。ねえ、少々無茶振りをしますけど、構いませんよね?」
わざとそう言ってやると、振り返ったエーベルバッハさんはこれ以上ないくらいに胸を張って大きく頷いて見せた。
「もちろん、ドワーフギルドの面子をかけてどんな要望にも応えてやるぞ! 屋敷に川を流して魚を泳がせろと言われたら、その通りにしてやるよ」
「いやいや、そんな無茶は言いませんって。普通に住めるようにお願いするだけですよ。じゃあ部屋へ行きましょう」
何故か興味津々のハスフェル達まで一緒に当主の部屋について来たし。
「お前ら、自分の部屋を決めなくていいのかよ」
呆れたようにそう言ってやると、揃って俺がどんなお願いをするのか聞きたいから、それが終わってからやると言われた。
いいよ、じゃあ俺のマイルーム改装計画をしっかりと聞いてもらおうじゃないか。
もう笑い出しそうになるのを必死で我慢して、俺は待ち構えていたエーベルバッハさんに、俺の希望をまずは説明することにしたのだった。